任務遂行中

森林木 桜樹

1「再婚」

長良川流ながらがわながれは、県立尊徳高校、二年生。

父子家庭で育った。


この度、再婚して、義理の妹が出来る。


今日が、引っ越しの日だ。

お互いの学校がある真ん中あたりの土地に、家が建っており、その一軒家を買った。


新たな家は、とても大きかった。

庭付き、門付き、塀付き。

玄関が、両開きの扉であった。


その玄関を入ると、広い廊下が見えた。

入って探検をすると、玄関の右側は壁。

壁に沿って階段がある。

階段下は、トイレだ。


左側には、二つ扉があり、突き当たりも壁だ。

手前の扉を開けると居間で、奥の扉は台所。

居間と台所は、繋がっていて、扉で仕切れる。


二階へ上がると、水回りがあり、お風呂と脱衣場、洗面所、トイレがあり、廊下の窓は空いて、ベランダになっていた。

このベランダで、服を干せそうである。

ベランダは、薄いシートで覆われているので、外の花粉やホコリは服にはつかない。


そして、三階に上がる階段は、二階へ上がる階段と並行で設置してあり、三階へと行く。


三階は、左右に二部屋ずつあり、配置は、両親が決めて、階段上がって直ぐにある右の部屋が父、向かって左が母、階段を上りきり沿って廊下を渡り、奥の右が妹、左が流である。


家は、三階建てであった。


引っ越し作業が大変で、何より自分の物を部屋に運ぶ所から、いい運動になった。

あらかた自分のを運ぶと、妹がまだでとても大変そうに運んでいる。


「あの、手伝おうか?」

「ありがとうございます。」

「いえ、えーと、何て呼べば?」

「完璧な自己紹介がまだでしたね。県立流石高校一年、旧鬼怒川、現長良川、長良川鮎美あゆみ、どうか鮎美と呼んで下さい。お兄ちゃん。」


笑顔で、自己紹介をすると、その顔がとっても可愛かった。

「お兄ちゃん」が、耳に反芻して離れない。


鮎美の物が入っている段ボール箱を持って見ると、少しだけ重い。

何が入っているのだろうか。

趣味の物かもしれない。


「これ、重いけど、何が入っているの?」

「えーと、引かない?」

「引かない引かない、で?」


段ボール箱を、鮎美の部屋に入れて置くと、鮎美は段ボールを開いた。

中身に驚いた。


「え?これって、コース?」

「ええ、私、好きなの男の子がやっている遊び。」


他の段ボールも開けてくれて見ると、確かに男の子が遊びそうな遊びが入っていた。

ビー玉、ペットボトルのふた、ヨーヨー、コマ、カードゲーム、単三電池などが、ぎっしり詰まっている。


「お兄ちゃんは、こういうので遊ばなかったの?」

「家は、母が病気で亡くなったのが早かったから、家の事やらなくてはいけないって思って、遊んでいる時間なかったよ。」

「私の所は、中学一年生の夏休みまでは、父が元気だったけど、交通事故で亡くなったから、それまでは、父に男の子の遊びが好きで、よく買ってもらっていたの。」

「だったら、大切にしないとね。これら、父親との思い出なんだろ?そんな大切な物見せてもらって、ありがとう。」

「いいえ。で?」

「はい?」

「お兄ちゃんの趣味、教えて欲しいな。」


もう運び終わっている荷物を頭の中で確認したが、妹に見せられる物ではない。

しかし、妹の趣味を見てしまったからには、見せないわけにもいかなかった。


部屋へと行き、段ボール箱を開ける。

鮎美は、それらを見て感心した。


「へー、健康マニア?」

「言わないでくれ。」


段ボールの中は、ありとあらゆる料理レシピ本に、家庭菜園のやり方、中高年の健康、薬の大百科などの健康に関する本が多かった。

本には、印もつけてある。


それと、バランスボールに、鉄アレイなど家で出来る健康器具もあり、少しだけ違和感があったのは、科学の実験で使う試験管やビーカー、アルコールランプ、顕微鏡などだ。


「なんか、健康に関する研究をしている人の荷物ね。」

「気づいたら、こういうのに興味を持っていて……父は、普通のサラリーマンだし、母は専業主婦だったから、遺伝子的にはこういうのに興味はないんだけれど、なんか試験管とかビーカーとか触ったりすると、落ち着くんだ。」

「前世に何かあったりして、私も、前世、男の子だったのかもしれないわ。」


顔を合わせると、お互いに微笑んだ。

流は、義理の妹、鮎美とは「上手くやっていけそう」と思った。


その日は、部屋作りと家の中に慣れるのに忙しかった。



「ねえ、夕食、簡単な物でいいかな?」


母、しずくが、家族に訊いた。

家族は、今日、忙しいのは分かっていたから、了解した。

簡単な物といっても、しずくは料理人だから、どんなものが出て来るだろう。

流は、義理の母が作る料理を楽しみにしていた。


ちなみに父の名は、歳三さいぞうである。


二人の出会いは、仕事で疲れていた歳三が昼食に入った店に、しずくがいて、話しをしている間に恋に落ちていたという、想像が出来そうな展開であった。

胃袋掴まれたというのが、正しいのかもしれない。


母が夕食を作っている間に、風呂へと入ろうと思ったが、ふと考えて。


「鮎美、先に風呂に入ってください。」

「え?」


鮎美の部屋に入る為に、扉をノックして少し開けながら言うと、鮎美の姿に驚いた。


「何を?」

「ああ、これ?少し、グリスが多く出ちゃって、髪についちゃって取れなかったから、切ったの。」

「ちょっと、乱雑だよ。」

「そう?」


本当に、前世男の子だったというのが、分かる豪快さだ。

その事を母に報告すると。


「あー、そういう事、時たまあるのよ。男の子の趣味が好きなのはいいけど、自分の身なりを気にして欲しいわね。……そんなに髪、乱雑?」

「はい。」

「もしよかったらでいいんだけど、散髪してあげてくれないかな?」

「俺が?」

「歳三さんから聞いてますよー。散髪、上手いんですって?」

「あー、父さん余計なことを。」


流は、再度、鮎美の部屋へ行く。

鮎美は、髪を構わず、マシンのメンテナンスをしていた。

それが終わるのを待って。


「さ、鮎美お嬢様、散髪をしますよ。」

「お兄ちゃん。その言い方。」

「いいから、ほら。」


洗面所にある椅子に腰をかける鮎美。

そういえば、妹になったとはいえ、昨日までは他人の女の子。

そんな女の子の髪を、こんな簡単に触っていいのか?


少しぎこちなくしている流を見て。


「お兄ちゃんなんだから、妹に触れるの遠慮しない。」

「はい。」


今まで、父の髪を切り揃えて来たと同じく、妹の髪を切り揃える。

しかし、サラサラで触り心地がいい。

父の硬い髪とは違って、ハサミを入れると、サラリと落ちる。


「出来ましたよ。」


鮎美の髪は、先程まで肩甲骨まであったが、それが肩につく位までになっていて、毛先を少しだけ細工をしたから、軽く感じる。


「ありがとう。」


鏡を簡単に見ると、お礼を言った。

もっと、じっくりみないのかな?と思い、自分が想像している女の子とは違う態度なので、驚いている。


「お風呂入ってくるね。」


脱衣場にパジャマを持って、風呂へと入る。

風呂へ入るには、洗面所を通り、脱衣場に行き、風呂に付く。

そう、洗面所で髪を掃除をしている流がいるが、扉で仕切られているとはいえ、男がいる前で脱衣場に行き、服を脱ぎ始める。


その音を聞いて、流は、顔を赤くしていた。


風呂へ入る音を聞くと、流はその場に座り込み。


「勘弁してくれ。」


妹の行動に驚き、想像を破壊され、男としての気持ちがあふれそうだ。


その日の夕ご飯は、簡単な物とはいえ、見た目は凝っている料理に見えた。


「明日は、引っ越し記念で作ろうと思うんだけど、何が食べたい?」


流に母は聞いて来た。

流は、アレルギーはないし、大抵な物は食べられる。


「俺は別に、鮎美は?」

「私、私は……母さんの得意料理が食べたい。」

「あれかぁ。すっごく簡単になっちゃうよ。」

「いいの。」

「得意料理って何ですか?」


流は、母に訊くと。


「スープパスタなんだ。お野菜いっぱいいれて、コンソメで煮ただけなの。」

「おいしそうですね。それだと、イタリアンっぽく、ピザとかどうですか?」

「いいね。だったら、明日はそれで行きますね。」


そんな話しをしている中、父は、三人を見て、再婚して良かったと涙を流した。

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