第8話 初めての事例

翌朝、ハルドはベッドから目を覚まし、ジュンタを起こそうとした。


ハルド「ジュンター。ん?どこ行ったアイツ?」


しかし、ジュンタは寝室には居なかった。そして、外から声が聞こえた。裏口側からだ。


ジュンタ「25!………26!………27!………」


声の主は鍛錬中のジュンタだった。腕だけ伏せをしている。


ハルド「ここにいたのか。」


ジュンタがハルドに気づいてハルドの方を向いた。


ジュンタ「はぁ………はぁ………おはよう、ハルド。」


ハルド「朝からトレーニングか?すげぇ体勢だったぞ。」


ジュンタ「うん。“腕だけ伏せ”と“スクワット”は日課だからね。」


ハルド「へえ。結構難そうだな。」


ジュンタ「まあ、そうだね。でも、突きと足腰を鍛えるには丁度いいんだよ。」


ハルド「なるほど。あんだけの素の強さがあるのも納得だ。」


ジュンタ「ありがとう。」


ハルド「じゃあ、そろそろ飯作るぞ。」


ジュンタ「俺も手伝うよ。」


ハルド「おう。助かる。」


ハルドをジュンタが手伝う形で朝食を作る。そして食事をする。


ハルド「今日は予定通り、飯食ったら直ぐギルドに行くぞ。」


ジュンタ「うん。登録ってどんな流れでやるの?」


ハルド「受付に行って登録用紙を受け取ってその紙の内容に従って記入するんだ。その過程で魔法適性チェックとスキルの儀を行う。」


ジュンタ「なるほど。」


ハルド「食い終わったらすぐ出発するぞ。」


ジュンタ「ああ。冒険者生活の第1歩だ!」


2人はすぐに朝食を終え、手続きのため冒険者ギルドへと向かった。


ジュンタ「結構人いるんだね。」


ハルド「そりゃあ冒険者の活動をサポートするするための機関だからな。受付に並んで登録用紙を受け取れよ。俺はテーブルで待ってるぞ。」


受付窓口に並んでようやくジュンタの番が来た。


受付「ようこそお越しくださいました。受付のマーシャです。ご要件を教えてください。」


ジュンタ「よろしくお願いします、マーシャさん。冒険者の新規登録の手続きをしに来ました。」


マーシャ「かしこまりました。それでは、新規登録について説明させていただきます。」


受付の説明は今朝ハルドから聞いた流れと同じだった。


マーシャ「以上で説明は終わりです。何か質問はございますか?」


ジュンタ「いえ、特にないです。」


マーシャ「わかりました。それではまず、こちらの登録用紙に個人情報のご記入後、魔法場への移動をお願いします。」


ジュンタ「わかりました。」


ジュンタは登録用紙を受け取り、ハルドが座っているテーブルに向かう。


ハルド「用紙は受け取ったか?」


ジュンタ「うん。」


ハルド「じゃあ、必須事項を書いてけ。」


ジュンタ(うーん、個人情報か………とても別世界から来たとは書けないからな。住所は………街の地図に建物の番号が振ってある。丁度ハルドの家に居候してるし、これなら何とかなるかも。)


ハルド「書き終わったか?」


ジュンタ「書いたよ。」


ハルド「じゃ、一旦受付に見せてから魔法場に行くぞ。」


ジュンタは記入した登録用紙を受付に確認してもらい、ハルドと共に魔法場へ移動した。


ジュンタ「あれは、ギルドの人?」


ハルド「ああ、魔法場もギルドの管轄だ。」


ギルド職員「こんにちは。ご新規さんですね?2名様でよろしいですか?」


ハルド「いや、俺は既に冒険者だ。コイツを頼みたい。」


ギルド職員「かしこまりました。1名様ですね。登録用紙を提示してください。」


ジュンタ「はい。」


ギルド職員「それでは、属性チェックについて説明させていただきます。」


ギルド職員「左手にありますこちらの魔法水晶に手をかざしてください。そうすると魔法水晶が発光します。光の色によって扱える属性が異なります。炎は赤、水は青、風は緑、雷は黄色、土は茶色です。ほとんどの方はこの中のどれかを扱うことが出来ます。ですが、たまに違う色に光ることもあり、その方は珍しい属性を扱えます。」


ジュンタ「なるほど。俺は何属性になるかな~?」


ハルド「風だったら俺とライバルになりそうだな。」


ジュンタ「その時はハルドより上手く使ってみるさ。」


ハルド「お?言ったな?俺は負けねえからな?」


ジュンタ(いざ自分が使うってなるとどうなるんだろう?戦闘では火とか雷が俺の武術と相性良さそうだな。風だったらハルドみたいに剣術に応用できそうだ。まあ、何であれ、今後の訓練では今までの技術だけでなく、これから使う能力にも気を使わないといけないな。)


ギルド職員「準備はよろしいですか?」


ジュンタ「お願いします。」


ジュンタは魔法水晶に手をかざした。しかし、どれほど時間をかけても水晶が光ることはなかった。


ジュンタ「あれ、おかしいな?故障か?」


ハルド「いや、そんなことねえだろ。ほら。」


今度はハルドが手をかざした。次の瞬間、水晶が緑に光った。


ハルド「俺は風属性だから緑だな。」


ジュンタ「ということは、まさか………」


ハルド「おいおい、嘘だろ?」


ギルド職員「残念ですが、ジュンタさんには………」


ギルド「魔法の適性はございません。」


ジュンタ「そんな………」


ギルド職員「………登録用紙を返却致します。」


ジュンタ「はい………ありがとうございました………。」


ジュンタとハルドは魔法場を去った。


ハルド「落ち込むなって。まだ“スキルの儀”が残ってるだろ。それに、お前は師匠に鍛えてもらったって言ってたし、実際身体能力は高い。」


ジュンタ「そうだね、ありがとう。気を取り直すよ。」


ハルド「よし!さっさと“スキルの間”へ向かうぞ。」


ジュンタはハルドの励ましで気分を取り戻し、“スキルの儀”で自分に合ったスキルが貰えることを祈った。


スキルの間にて


ギルド職員2「あら、ご新規くんかな?」


ジュンタ「こんにちは。」


ギルド職員2「こんにちは。私は“スキルの儀”を担当しているわ。」


ギルド職員2「スキルの儀について説明するわね。」


ギルド職員2「新規登録者はそこの円陣に立ってこう唱えるの」


ギルド職員2「『さあ、聖なる陣よ、我にその力を与え給え!』って。どんなスキルが貰えるかは分からないけど、何を貰ってもきっと役に立つはずよ。」


ジュンタ「なるほど。」


ジュンタは円陣の中央に立ち、スキル獲得の言葉を唱えた。


ジュンタ「さあ、聖なる陣よ!我にその力を与え給え!」


次の瞬間、辺りが光に包まれた。そして………


ギルド職員2「儀式が終わったわ。どんなスキルを貰えたか確認してちょうだい。」


ジュンタ「はい。」


ジュンタは自分のステータスウィンドウを確認する。しかし、またしても信じられないことが………


ジュンタ「………」


ハルド「ま、マジか………」


ギルド職員2「うそっ!?そんなことあるの………?儀式に失敗したことなんて今まで無かったのに!!」


ジュンタ「いや、なんというか………こればかりはもう、仕方ないこととして諦めます。ありがとうございました。」


ギルド職員2「あっ、ちょっと!」


ハルド「おい、待てって!」


ジュンタは足早にスキルの間から去っていった。ハルドが後から追いつく。


ハルド「………」


ジュンタ「………」


ハルド「こんなこと、信じられないよな。」


ジュンタ「………」


ハルド「でもまあ、手続きは終わったわけだし、ギルドに戻ろうぜ。」


ジュンタ「ああ。」


ジュンタの手続きを終え、2人はギルドへと戻った。


ジュンタ「手続きを終えました。承諾印をお願いします。」


マーシャ「はい、かしこまりまし………」


マーシャ「………」


ジュンタ「あの、どうかしましたか?」


マーシャ「大変申し訳ないのですが、ジュンタさん、あなたの登録を認めることはできません。」


ジュンタ「っ………!」


ハルド「おいどういうことだ!納得できねえぞ!理由を説明しろ!」


マーシャ「………危険だからです。」


ジュンタ「危険?」


マーシャ「はい。フィールドやダンジョンの探索は魔法やスキル無しでどうにかなるほど甘くはありません。」


ハルド「そうかも知れねえが、コイツは元々鍛えてて、それをカバーするだけの身体能力がある!」


マーシャ「確かに身体能力はそれなりに必要です。ですが、修羅場は魔法やスキルを使える前提で潜るもの。それでも死人が出る職業です。」


ハルド「でも………」


ジュンタ「いいんだ、ハルド。」


ハルド「ジュンタ………」


???「フワァ~………どうしたんじゃ?騒々しいのう。」


窓口の奥からが現れた。


マーシャ「っ、ギルドマスター!」


ジュンタ「ギルドマスター?」


ハルド「ギルドの責任者だ。あんたがギルドマスターか。頼む!コイツの登録を認めてくれねえか!」


ギルドマスター「認める?」


マーシャ「実は………」


マーシャがギルドマスターに事情を説明した。


ギルドマスター「なるほどのう。若人よ、悪いことは言わんからやめておけ。ワシも反対じゃ。」


ハルド「そこを何とかならねえか!?」


ジュンタ「お願いします!チャンスをください!」


ギルドマスター「………分かった。そこまで言うのなら、1回だけチャンスをやろう。」


ジュンタ「ありがとうございます!」


ハルド「チャンスっつっても具体的に何すんだ?」


ギルドマスター「確かお主、ジュンタといったな?」


ジュンタ「はい。」


ギルドマスター「今から、お主をテストする。」


To be continued

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