5️⃣

「何なら好きなの?」


 蛇はチロチロと舌を見せるだけである。


「アタシの肌に住んでるんだから、名前ぐらい教えてくれたっていいじゃない」


 蛇は知らん顔だ。


「いいわ。アナタが教えてくれないならアタシが勝手に付けるから。蛇、へびねぇ……蛇花、彼岸花、うーん……——“リコリス”。アナタは今日からリコリスね。今アタシが決めた。アタシの肌に住んでるんだもん、構わないでしょ?」


 言った瞬間だった。蛇がするりとマリアの腕から滑り落ちると、そのまま部屋の中に実態となって現れた。


 それは2m程の大蛇だった。天井のランプの光を照り返す鱗と、動く度にズルズルと鳴るその姿に、マリアは圧倒される。


「……アナタ、もしかしてアルビノなの?」


 蛇はマリアの左足に絡まってぐるぐると身体を登ってくる。その身体が重たくて、マリアは立っていられずソファーに座り込んだ。そして大蛇はマリアと鼻先が付きそうなほどまで近付くと、チロチロと舌を出す。ここまで近いと、その赤色せきしょくの瞳がただの瞳では無いことが一目で分かる。先天性白皮症——俗にアルビノと呼ばれる障害をマリアは知っていた。身体のメラニンが欠乏しているために日光に弱く視覚にも障害を抱えることの多い病。マリアは生まれて初めてそれを見て、少し感動する。


「……アナタが実物の蛇なら、ケーキは毒かもね。林檎はいかが?」


 マリアはおやつのデザート皿の装飾として使われていた薄く切られた林檎を手に取ると、それを蛇に差し出す。蛇はグワッと口を開け林檎を食べると、そのままゆっくりと飲み込んでいった。


「ところでリコリス、アナタ結構重たいんだけど。ソファーに座っていいから身体から降りてくれない?」


 蛇はまた知らん顔をした。マリアはもういいやと蛇の頭を撫でてやった。


 そんなこんなありながら、マリアは日々{創造クリエイト}で己の有益になる物を制作していった。対価は大きかったが、その代わりなんだって創れた。こうしてマリアは今日まで、備えて来たのである。


 腰に提げた懐中時計を見終えたマリアは、そのまま時計を離す。腰にチェーンで提げられているため、宙ぶらりんとなった。


「へぇ……センスいいじゃん」


 少し機嫌が良さそうに、アインが笑う。彼はいつの間にか杖のようなものを握っていて、それを一振りするとガゼボには姿見が現れた。


「折角だしちゃんと整えなよ」


「……なら、お言葉に甘えて」


 マリアは鏡に向き合い、洋服の最終チェックを行う。

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