4話:さぁさぁ見世物の狩りを始めましょうか

1️⃣








 テストが始まる前に、兄弟の自己紹介を聴いた。三つ編みをしているのが兄のアイン、ポンパドールの弟がツヴァイ。どちらもリヒテンシュタン魔法学校の生徒であり、リーロンの側仕えなのだという。今日来たのは野次馬のためだとハッキリ言われ、マリアは流石に乾いた笑い声が出てしまった。


「俺達は対侵入者用の望水晶で観てるから、まぁ頑張れ〜」


「マジの野次馬じゃん腹立つわぁ〜」


 マリアはため息をついたが、このままで居ても仕方ない。唇をトントンと叩きながら策を講じていたマリアは急に馬鹿らしくなって、さっさと終わらせてしまおうと{交換チェンジ}のカードで豪奢なドレスから洋服を替える。


 {交換チェンジ}は等価交換の魔神。そんな彼にとって“Aの洋服”を“Bの洋服”に交換することはとても簡単なことだ。素人ながらに本を読んだかぎり、衣替えの魔法は一般魔法の中でも上位に位置するらしく、実際マリアの早着替えに「お〜」とツヴァイが感心したような声を上げた。


 マリアの持っている懐中時計の針が逆行を始める。正常通りだと、マリアは頷く。


 今日この日まで、マリアは何の準備もせず生きていた訳では無い。むしろ自分が何が出来るのかが知りたかったマリアは、魔法が顕現した後に様々なことを試していた。


 特に多用したのは{創造クリエイト}のカードだった。万物を“創造”できるこの魔神は、お喋りも好きでマリアと良く喋りながら様々な物を創ってくれた。


 マリアは{創造クリエイト}との日々を思い出す。


「武器が欲しい。万物を斬り払う武器が、欲しい。武力が欲しいの、アタシ」


 単刀直入に言うマリアに、{創造クリエイト}はクスクス笑う。{創造クリエイト}は尾の長い猫のような姿をした魔神で、重力という概念に囚われていないらしくいつも宙に浮いている。魔神は人の形に擬態することも出来、その日の{創造クリエイト}は薄紅色の髪に緑眼の美丈夫の姿をしていた。その緑眼にジッと見られるとマリアは居心地の悪さを感じて仕方無い、それは弱者が強者に値踏みされる時に感じる居心地の悪さである。要するに、マリアは蛇に値踏みされる蛙なのだ。{創造クリエイト}がその気になれば、マリアを殺すことなど容易い。


 そんな{創造クリエイト}に、マリアは力を貸してもらおうと願う。弱者からの懇願を聴きいれるこの魔神の慈悲深さたるや。マリアは魔法を使って植物や動物と話すことが出来たが、そんな彼等は皆口を揃えて{創造クリエイト}を『恐ろしい』という。{創造クリエイト}のカードがちょっと見えるだけで全力で逃げて行った秋鹿の群れは記憶に新しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る