9️⃣
もし仮に、学生時代の間だけだったとしても公爵家の男児と婚約が出来ていたら、社交界におけるマリアの商品価値はグッと上がるだろう。“あの公爵家の長男が
同時にきっと、『何故マリアなのだ』とも考えている。姉であるエリカだったなら、彼等は一も二もなく頷いて話題は進んだだろう。その時、母親の瞳孔がキュッとしまる。悪いことを考えついた時の目だ。
「……娘もこう言っておりますし、サティサンガ家の長男様との婚約の話は、一旦取り止めには出来ませんか? 過保護と思われるかもしれませんが、娘がこんなにも怖がっているのに婚約をさせるなんて、
ソファーから立ち上がりマリアの座る方へ歩いて来た母親は、“もう大丈夫よ”と娘を守る母親のようにマリアを抱擁しレキャットにそう提案した。同時に抱擁したその手はレキャットに隠れてマリアの背中をギュッと摘んだので賛同しろという合図だと理解して、マリアは笑顔を取り繕う。
「それがいいと思います! お姉様はアタシより優しくて、美人で、大好きな人です。公爵家の長男様にも相応しいかと! 少なくとも縁談話を目の前にして怯えて貴族の娘としての務めを果たせそうに無くなっているアタシよりずっとずっと……我儘ばかりで申し訳ございません。どうか、先生……」
マリアは怯え、縋るような声でレキャットに願った。この際婚約はもういい。絶縁のためには別の手段を使えばいいのだ。モンタに相談して、別の手段を一緒に考えてもらえばいい。
レキャットはそんなマリア達を見て、苦虫を噛み潰したような顔をした。嫌な予感しかしない。
彼はもう一枚封筒を取り出すと、それを父親に渡す。父親はそれを見て、また硬直した。
「あの……その手紙にはなんて……?」
恐る恐る、マリアは尋ねる。もう殆ど無意識に、母の腕にギュッと抱きついてしまっていた。母親に抱きつくなんて記憶にある限り初めてかもしれないし、普段なら確実に冷たく振り払う母親も今はただ書類の内容に注意を払っている。
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