8️⃣
「君は素晴らしい才能を持っている。きちんと教育を受ければ、国の中で五本の指に入るほど優秀な魔女になれる」
「だけど
唇を指でトントンと叩きながら、マリアは考える。
「つまり君が成したいことは二つだ。
一つはこの家と家族との絶縁。
もう一つは“己”の存在の理解」
「存在の、理解……?」
男に言われて、マリアは驚いた。同時に納得をした。きっと自分は“マリア”という女のことを知り、その存在を理解したいのだと。
「言い得て妙だわ。国語の教師が向いてるんじゃないの?」
「残念ながら教えているのは魔法学だ。尤も、私自身はさして魔力に秀でているわけではないけれどね」
「教師とは知らなかった。名前も知らず、教えず、帰すつもりだったから。お互い“他人”の方が都合がいいから」
「そうか。私はレキャット=クウィックレー。リヒテンシュタン魔法学校第七学年学年主任。担当科目は魔法学。主に生徒それぞれの“固有魔法”に対する魔法の扱い方を教えているよ」
「うわこの人全部言いやがったよサイアク。奥さんが風邪じゃなかったら屋敷から叩き出せるのに……」
身分を包み隠さず明かした紳士に、マリアは額を押える。恩を仇で返された気分だ。しかしレキャットの目は真剣だった。
「この家を出て、それから長生きをする気は無かったのだろう?」
「……」
「縁を切りたいなら簡単だ。私の教え子の中には訳あって婚約者を求めている子が沢山居る。その中の誰かと婚約して、そちらの家に身を寄せてしまえばいい。学園に通う年頃の娘はそうやって結婚を先延ばしにしている娘も多い」
「そーいう不正って学園としていいの?」
「学びたい子は学ばせてあげるのが学校さ」
マリアは目を細めた。その時丁度、十二時を告げる柱時計の鐘が鳴る。
「……夜も更けましたし、客室の方に移動をお願いします。学校の件は暫く検討させていただきます」
「あぁ、そうさせていただくよ。そのまえにこれを」
彼は口の中で何かを唱えると、マリアの目の前に一枚の紙が現れる。
「これは……」
「入学に際してはまた別に冊子が必要だが、入学申し込み自体はこれに名前を書けばいい。勿論入学試験はあるけれどね。
「……はい、
マリアはその紙を持ち、執事に案内され客間に向かうレキャットの背中を見送った。
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