4️⃣

 マリアは魔法が使えるようになったことを両親に隠さなかった。彼等の反応は見ずとも分かっていからである。『だからどうした』。これが両親がマリアに返した反応だ。唯一姉だけが『マリアが持っててあたしが持ってないなんておかしい!!』と声を上げたが、父親が可愛らしいティアラを買い与えたらすぐにどうでもよくなったらしい。そんなこともあり、マリアは一人、この“沈みかけの船”を脱出する手段を考えていた。


 抜け出すための武力はある。マリアには魔法がある。


 金もどうにでもなる。マリアの魔法は金を生み出すことも出来る。


 問題は身分の捨て方だ。


 世間体を気にするお父様は、マリアが家を出ていくと言い出したら鎖で縛ってでも止めるだろう。『娘が親に愛想を尽かして出ていく』なんて外聞が悪いにも程がある。まぁ実際その通りに出て行こうとしているのだが。しかし家を捨て身分を捨てると、次に身分を手に入れるのは相当に大変である。嗚呼もどかしい。マリアには知恵が無い。教えてGoogle先生。


 マリアが“沈みかけの泥舟ダントルトン家”から抜け出すには最早結婚を前提とした婚約しかないのでは無いのか。そういう考えが選択肢に浮かんだのは、14歳のある嵐の夜の日だった。


 その日は遠くに暗雲が見えるが、極々平穏な日だった。風の吹き方的に夜には嵐になるだろうが日中は大丈夫だろうと、マリアは目覚める。時計というものが身近に浸透していないため部屋の中に時計は無く、家には大きな柱時計が一つあるだけの有様だ。その屋敷で六時の鐘の音が鳴ったから、マリアは目覚めた。


 時計の音が鳴り止んだ屋敷の中は非常に静かである。何故ならマリア以外の家族が旅行に行っているから。故にマリアは屋敷の中を自由に使える。


「おはようございます、マリア様」


 マリアが目覚めて、いの一番に挨拶と温かいお湯を持ってくる侍女に、マリアも笑みを返す。


「おはようメリー」


「はい! メリンダは今日もマリア様の一番最初の“おはよう”が貰えて幸せ者です」


 そう言って頬を赤く染める侍女。名前はメリンダ。彼女はマリアが顔を洗うのを手伝い、着替えを手伝い、髪を梳いて「今日もマリア様が世界で一番可愛いです……!」とマリアを褒めた。魔法の鏡もビックリの賞賛力である。白雪姫の継母もこの侍女さえいればあんな凶行に至ることはなかっただろうにと、マリアは毎朝思う。


 転生者補正なのか、マリアは人に好かれやすい体質だった。そしてマリアも人からの、特に家の使用人からの好意を無下にはしなかった。


 マリアが人に好かれやすい体質の筆頭として、侍女の存在がある。彼女はマリアが10歳の時、とある孤児院から連れてきた娘だ。表向きには教会と一体型の孤児院の形をし、その実態は他国に幼子を売り飛ばしている犯罪組織。その組織を訳あって潰すことになり、——男爵令嬢が犯罪組織潰しに加担するはずがないと思われるだろうが、話の流れでそうなってしまい引き下がれなかったので協力していた——その過程で出逢った子供だった。

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