5️⃣
マリアに追い詰められた犯罪組織の男は発狂し、教会に火を放ち他の子供も証拠も全てを灰にしてしまおうとした。マリアはその教会の中で子供達を救出するために火のついた建物の中で奮闘した。その姿に、背中に、惚れたのだとメリンダは頬を赤らめて話す。
『メリンダを連れて行ってください! なんでもします! ご飯も要りません! あなたのためにメリンダの命を使わせてください!』
鎮火が済み兵士達が犯罪組織の後始末にやって来たのを見て、巻き込まれる前に去ろうとしたマリアのスカートを掴み、メリンダは必死になって叫んだ。マリアはそんな彼女を振り払うことが出来ず、父親と母親を上手く言いくるめて彼女を自分の侍女に雇うことが出来たのが4年前になる。メリンダはよく働く侍女だった。なにより家族の輪から外されて孤独を感じる時に想定の10倍の熱量でマリアにラブを伝えてくるメリンダの存在はハッキリ言って好ましかった。
その日のマリアは上機嫌だった。なんたって姦しい家族が居ないのだ。耳障りなものが無い、素敵な環境すぎる。
上機嫌だったので、「ありがと♡」とメリンダの頬にキスをしてやって、朝食も完食し、馬番が風が強いから馬が騒がしいというのでちょっと魔法で力を貸してやってから、裏手の山を魔法で呼び出した駿馬で駆け抜けたり自作したツリーハウスが嵐で壊れないように保護したりと自由に過ごしていた。嵐が強くなってきた夜には居間で暖炉の前に暖かくして、ロッキングチェアに腰掛け本を読んで過ごしていた。雨音が窓を叩くが、パチパチとなる暖炉の薪の音と合わさるとどこか心地好い音に聞こえるのだから不思議だ。マリアの肌に住み着く
そんな時、屋敷の門を叩く人がいた。
「挨拶も無くてすまない! この屋敷に医者はいるだろうか!」
御者付きの馬車に乗った、身なりの良い紳士だった。縋るようなその目にただ事では無いと察知して、マリアは紳士と馬車を屋敷の中に入れる。
馬車にはもう一人、紳士の妻だという淑女が乗っていた。彼女がとんでもない高熱を出し倒れた、医者に見せたいがこの嵐では馬車が進まない——という紳士の語りに、とりあえず執事の力を借り女性を客間のベッドに寝かせてメイドに氷嚢を作らせる。
「残念ながらこの屋敷には医者は居ないんです」
「そんな! 妻は……妻は一体どうなるというのですか……!!」
はらはらと今にも泣き出しそうな紳士に、落ち着けよとマリアは額を押さえる。
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