1話:スタートに一歩踏み出した、と思う
1️⃣
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線路から落ちたマリアが次に目覚めた時、マリアは今までと毛色の違う世界に生まれ落ちたところだった。パニックの悲鳴は産声と代わり、現代よりも少し医療技術のランクの低い助産師達に世話されて母親の腹から取り出された時、マリアは直感した。“転生した”と。
マリア=ダントルトン、これが今のマリアの名前である。“異世界転生物”がコンテンツとして広く知れ渡っている世界で生きていたマリアの順応は早かった。
マリアが生まれ落ちた世界は19世紀のイギリスと13世紀のフランスを足して二で割ったような、“ファンタジーというジャンルを思い浮かべた時に大体こう言う世界になるよね”と言いたくなるようなかんじの世界で、君主制且つ王から爵位を賜りし貴族が土地を収めたり貿易や商売を行うという形態を取っている王国だった。
成程これが異世界転生か、成程こうやって異世界転生者達は世界に順応していくのか。理解し、感動すら覚えた。だが、それも最初のうちだけだった。
ダントルトン家は長く続く男爵家の一家であり、田舎者の中では裕福な方だった。しかし今、物凄いスピードで没落に向かっていっている。
ダントルトン家の家長であるダントルトン男爵は商売の才能が無い。そしてその自覚が無い。それでも男爵家には長年の当主が貯めてきた財産の貯蓄があった。次の世代に商売の上手い人間を連れ込めればなんとかなるぐらいの財産である。今までの当主達は素晴らしかったのだろう。そしてその財産を、現在男爵夫人と長女が物凄いスピードで消費していっている。
流行り物のドレス、宝石の付いたアクセサリー、髪に化粧に、使う気になれば金など氷を溶かすように使えてしまうのだ。そんな母と姉の浪費癖を何とかしようと策を講じたこともあったが、疎まれるだけで無駄だった。それどころか母親の反感を買い、それに姉も便乗するように加わって二人から虐げられるようになってしまった。とはいえシンデレラのように下働きの仕事に従事させられるわけではない。ただ単純に、マリアを除け者にしたり聞こえる声で嫌味を言って笑いものにするだけである。マリアは額を押さえどうしたものかと悩んだが、こういう時は
家族の輪から外されて居ないものとして扱われても、マリアはダントルトンに名を連ねる者。つまり没落目前の沈み行く泥船に家族と共に乗り込んでいる状態にある。さてどうしたものか。出来れば逃げ出したいのだが、逃げ出す知恵がマリアには無かった。そう、マリアはあまり頭がよろしくないのである。
そんなマリアに一回目の転機が訪れたのは6歳の時。商談が上手く纏まったらしい父親が家族揃って街に買い物に行こうと言い出した日だ。
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