第6話,兄と弟
「ら,萊奈って…ハハ…助けてくれたのは嬉しいけど…冗談きついって…」
琥太郎がそう言って無理やり笑う。
「うん、冗談だよ…って言いたいんだけど…こればっかりは…」
そう言って悲しそうに首を振って呂雉は否定した。
「みんなも戸惑ってる…私もまだ…慣れないな」
「…否定してくれよ…」
井上が顔を伏せ、呂雉から目を逸らした。呂雉も目を伏せた。
「…」
「じゃあ、本当に萊奈?」
「…うん。少なくとも、記憶はあるよ…桜(さくら)」
呂雉が小西の名前を呼ぶと小西は目元に涙を浮かべた。
「…ごめん…ちょっとトイレ…」
小西がそう言って部屋を出ていった。
「…」
呂雉は黙って椅子に座り直した。
「ところで、他の2人は…?」
井上が頭をかきながら尋ねた。呂雉は驚いた表情をした後、肩の力を抜いた。
「…2人も無事さ。私と同じような感じかな…ここが1番危険だ。だから、準備ができたら、二つの国に分かれてもらえことになってる」
「萊奈は…?」
呂雉は、悲しそうにクスッと笑った。
「残念だけど、私はここから離れることができないんだ」
(苦しい…)
私は胸の辺りをギュッと掴んで俯いた。
バンッ!
「「ッ!」」
突然、私たちがいる部屋の扉が開かれた。
「やぁ!今日は一段と大人しいじゃないか!」
ズカズカと部屋に入り込んでくる男は呂雉の顔見知りのようだ。
「ッ!どうしてこの部屋にッ!」
呂雉が目を釣り上げ、大きな敵意を男に向けた。私たちは何がなんのことかよくわからず、2人の会話を黙って聞いていた。
「どうしてって…私はあなたの家族なのにどうしてそんなことをおっしゃるのですか!姉上…あぁ、今は、兄上…でしたっけ?」
嫌味ったらしく笑いながら話す男に呂雉は、ギュッと拳を握った。
「黙れッ!お前には関係ない!アドマリアス!」
キッと睨みつけ、男はニヤリと笑った。
「そうですね。貴方のせいで私はもう、王位継承権がありませんからね!」
アドマリアスと呼ばれた男はそう言った後、私たちにチラッと目を向けた。
ビクッ
冷えるような殺気を感じる体が震える。
「兄上が言っていた人間はコレですか?…なんとも…汚らわしい…」
軽蔑する視線を私たちに向けるアドマリアスに、呂雉はさらに目を釣り上げた。
「お前には分からんだろうな!」
アドマリアスは、呂雉から漏れ出る殺気を感じ、たじろいだ。
(な、なんだよこの殺気は!)
驚きつつもそれを表情に出さずに、アドマリアスはフッと笑った。
「兄上がおままごとをしたいとは驚きでした。あの兄上が、ね…まぁ、兄上は私と違って父上に鎖で…ッ!」
アドマリアスはそこで言葉を切って呂雉を見た。
心臓が止まりそうな殺気が襲いかかってくる。
「アドマリアス。早く死にたくなければそれ以上言わないことだ…」
「ッ!ハッ!父上のせいで自由に出来ないくせに!お前がしようとしていることは全て筒抜けだからな!」
アドマリアスはそう言って部屋を出ていった。
呂雉はその後ろをずっと睨みつけていた。
学級転移〜転移したらあの日死んだはずの友達がそこにいました〜 @Tenra
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