答え合わせ(1)
自宅の前が騒がしい。
すぐにでも臨戦状態になれるまおーは、しっぽと背中を逆立て玄関先に居るであろう何者かに威嚇声を向ける。すると間もなくして最愛の妃、伊佐見法子の気配がした。宥めるような甘い声が板一枚の向こうから聞こえ、やはり法子だと気づく。間もなくしてドアの鍵穴がロック解除されたことを示す音が鳴り、まおーはようやく人心地ついたのだった。ホッとして心から思っていたことがつい口をついて出てしまう。
「わが妃、ようやく帰還したか……っ!」
「……」
「…」
「……まおーが喋った…」
「あぁ!我が王…このような姿に…」
突き刺さるような視線を受け、困惑するまおーの前に跪いて顔を腹に埋める岡本真弓。そして自分の妻が猫の腹に顔を埋める様子を唖然と見ることしかできない岡本真弓の夫。まおーが喋ったことに興奮気味の伊佐見法子と、これから何が起きても驚きはしないだろうと悟る姫の四人は塊になってリビングに向かった。
× × ×
二時間目が始まる前の休み時間にイサミとタテノを連れて来いと言われたジンは、これから何が起きるのか分からない状態で姫に言われるがまま二人を連れて伊佐見家に向かう。 タテノは学校を出る直前、以前伊佐見渚から預かっていた『ダガーの剣』の最新原稿のコピーを取り、文芸部の部室である図書準備室を後にした。
伊佐見渚とカトラス…否、ナギラスは自分がこの世界おろか、ダガー王国にすら生きていない創られた人物であると言う事実に打ちひしがれていたが、持ち前のふてぶてしさで気を取り直し『何故自分がこの世界にやって来たのか』を冷静に分析することにした。それ故に、姫の申し出は大変ありがたかった。正直なことを言うと授業の内容はちんぷんかんぷんで、自分が学んできた学問とはおおよそかけ離れたものであったからだ。
イサミとジンのクラス担任、岡本真弓が居ないので、タテノのクラスの担任に事情があり早退する旨を話し、三人は学校を出ることにした。
「…ジン、姫は何と言っていたんだ?」
「おまえと館野を連れて来い、としか言ってなかった」
「…なんだと?」
「もしかして、おまえんちにいるまおーって猫は魔王シャム・シールなのかもな」
「おれもそれは薄々感じていた。そうだと言われても、納得できるとしか…」
タテノがやはりと心得たように呟いた。猫を抱えて伊佐見法子の勤めている動物病院に駆け込んだ時、抱き上げていた猫は苦しそうに呻き声を上げていたのを思い出したと言う。それも猫らしからぬ声で、「おのれ…」と言っていたように聞こえた。聞き間違いだと自分に言い聞かせていたが、確かに魔王ならばそう言うのも頷けてしまう。それにナギラスは小さく呻くように「ああ」と短く肯定した。
「確かにまおーの正体は魔王シャム・シールだ。何故か知らんが俺の…いや、伊佐見渚にやたら懐いている」
「猫の本能でナギが自分の恩人だって分かるのかな?魔王からすれば、伊佐見渚は見ず知らずの小僧だろうけど…カトラスは仇敵な訳だろ?そこまでべったりしてるなら、猫の本能の方が強いってことなんだろうな」
分からないことが多すぎるまま、三人は伊佐見家に辿り着いた。玄関先には誰もおらず、通りに面した窓から中の明かりが漏れていることに気が付き、ナギラスが玄関の扉に手を掛ける。
「…姉上も帰還されたのか?」
玄関で靴を脱ごうとしたところへ、リビングからやってきた法子が三人を出迎えた。
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