真相
2階にある2年生の教室を出たあと、ふたりは連れ立って階下にある図書室へと向かう。タテノと姫がいないのは二人共にとって若干心もとないが、タテノは違うクラスで授業を受けており、姫は担任を見舞うため病院に行っている。仕方なしと割り切ることにした。
「ここがうちの学校の図書室だ」
「ふむ…やけに小規模だが」
「そりゃ、市営図書館とかよりは小さいけどさ」
ジンがスライドドアに手を掛ける前に、イサミは中の気配を探ってしまう。既に数人、恐らく高校生とやらであろう人の気配がした。イサミは咄嗟に腰に手を触れ愛剣を握ろうとしたが、悲しき哉、現在の彼は勇者ではなくごく普通の高校生である。
「ナギ、そんな力むなよ」
「…つい、癖で」
「ははっ、そんな癖あったっけ…?」
揶揄うような声でナギが言うと、扉の向こうからガタガタと扉が動く気配がした。
「……なんだ、やっぱりお前らか」
「タテノ!」
「あれ?館野も自習…?」
突如現れた友人に、イサミは小躍りしそうになった。先程まで不安になっていたのはイサミだけでなく、ジンも同じく喜んでいるように見える。ゆっくりとした足取りで図書室に入ると、イサミは辺りをくまなく見渡した。
「それで、ふたりはなんでココに」
「それがなー…いろいろあって」
ジンが今朝教室の前でタテノと別れた後から、ホームルームが終わるまでのいきさつと探しているものをかいつまんで説明する。対するタテノは国語の授業で、図書室から一冊の本を取りに来る必要があり訪れていたと言う。
2人が会話している最中、イサミは本がずらりと並んでいる棚を端から眺めた。初めて訪れた場所にも関わらず、どことなく懐かしさを感じさせる造りになっている。そして何故、本の背表紙に書かれている言葉の意味が汲み取れるのか不思議でならない。
カトラスの故郷であるダガー王国の公用語はダガーロ語であるが、この世界の書物や言語のつくりはそう見えないのに意味が分かるのだ。
そもそも自分が喋っているのもダガー王国の言語であるというのに、この世界で目が覚めてから普通に喋れていること、話が通じていることに今更ながら驚いてしまう。まおーに至ってはそこまで考えていなかったが、本来ならば魔物たちが使う言語で喋っていた筈である。
(…なぜ俺はこの世界の言葉も、まおーの言葉も分かるんだ…。ひょっとして俺は、あの魔族たちと同じ出自なのか?いや…)
「ナギ、おーい」
立ち尽くすイサミに対し、ジンとタテノが交互に呼びかける。しかし本人は聞こえているのかいないのか、びくともしない。
「…ダメだな、トリップしてやがる」
「まぁ、無理もないよな…渚の書いた小説はこれに纏めてあるから、本人に読ませてみよう」
「あいつ、混乱しそうだけど…でもこれで分かる筈だ」
タテノが持っている中綴じで綴られた冊子の表紙には、紛れもなく『ダガーの剣』と書かれていた。
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