凱旋

 玄関の扉を開くと、イサミの学友たちが揃って待ち構えていた。

「おはよー、渚」

「おはよ、ナギ」

「ああ…おはよう」

「おまえ、顎にパンの欠片ついてるぞ」

「フン、そんな手には乗らないからな…!」

「くそっ、バレたか」

 最早慣れたやり取りのようになってきた会話にニヤリと笑いながら、イサミは伊佐見法子と交わした会話を忘れようと努めた。彼女が今の弟は伊佐見渚ではなく、カトラス・マクスウェルだと知っているならば、彼らに対しても最早誤魔化すことは出来ないのだろうと思い悩む。

「…どうしたんだよ、暗い顔して」

「今朝…姉上に不可思議なことを言われた」

「なになに?彼女いるのとか?」

「…伊佐見渚ではないだろう、と」

「……」

「……あ~…」

 何か納得した様子のジンの言葉に、タテノも苦い顔で数度頷いている。やはり二人も何か知っているようで、イサミは重い溜息をついた。

「法子さんなら一番分かるかもな…妃のモデルになってるし」

「ナギ、細かい話は学校で、だ。…たぶん、謎はそれで解けると思う」

「そうなのか?」

「ああ」

「でも、かなり驚くと思うぞ。俺達も半信半疑だし」

 やや暗い気持ちで足を動かし、高校への道のりをぼんやりと歩く。カトラスがこの世界にやってきてから何度か歩いている登下校の道は、今思えばダガー王国の首都、ブレイドにあるブレイド城へ続く参道に似ていた。

「…俺はこの景色を知っている」

「そりゃあな。その理由も、多分後で分かるぜ」

 勇者としてでの凱旋ではないが、高校生としての登校には慣れたかのように思えた。まだ3日程しか、高校生活を経験していないが。

(…待っていろ、伊佐見渚の過去たちよ)

 学ランを着た勇者は、校門から見える校舎を睨むように見上げた。

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