猫ちゃん
「わかった!」
唐突に両手を叩いた少年が、謎は全て解けたと言わんばかりに声を上げた。カトラス・マクスウェル、ではなく伊佐見渚と名札の貼られているベッドの主は、胡散臭そうに少年を見遣る。
「魔王ってあれか、助けた猫ちゃんのことだな!」
今度は伊佐見少年がポカンと口を開くターンになった。
「猫?」
「ああ。渚は学校に行く途中、車に跳ねられそうな猫ちゃんを助けたんだ」
「そうそう。でもおまえも猫ちゃんも頭を打って気絶して、おまえは救急搬送されたんだよ。猫ちゃんは今、動物病院に行ってる」
助け舟を出してくれたのは、3人のうち一番聡明に見える眼鏡を掛けた少年だった。服装は黒服と同じだが、初対面で名前が分からないため黒服、眼鏡、村人Aと仮称することにした。
「……そうだったのか」
ふたりの解説を聞いた甲斐があり、なんとなくだが自分の状況が掴めるようになった。まずひとつは今いる場所がダガー王国ではないこと。そして自分はカトラス・マクスウェルではないこと。伊佐見と呼ばれて自分の身体が反応することから、間違いなく伊佐見渚と呼ばれる少年の肉体にいるのだと言うことだ。そして彼は猫を助けた反動で自ら危険な状態に陥り、今までこのビョーインとやらで寝ていたのだろう。なんと言う愚かな奴だとカトラスは鼻で笑いそうになったが、そこまで他者のために無茶ができる奴は嫌いでは無い。
状況がわかった所で、また新たな問題に直面する。これからどうするべきなのか、それが分からない。先程の反応を見るに、自分はカトラス・マクスウェルであり伊佐見渚ではないと正直に言ったところで、自分の話を彼らが信じるとは思えなかった。となれば。
「…俺は…」
「ん?」
「…どうやら、記憶が混濁しているようでな…おまえらの名前も、今いる場所も…全く分からないんだ」
「それなら早く言えよ、オレは」
「そんなことより先生呼びましょう!」
伊佐見渚になりきる決意をしたところで、今まで押し黙っていた村人Aがいきなり声を荒らげた。ベッドの傍らに寄り、スイッチのようなものを押すと、何処からともなく女の声が聞こえてくる。しかし、姿は見当たらない。
(なんだここは!魔女の棲家か!!)
『どうされました?』
「伊佐見が目を覚ましたんですけど、なんか変なんです!」
『わかりました、すぐに向かいます』
次から次へと目まぐるしく状況が変わり、頭が痛くなりそうだった。しかし、今を生きなければ明日は無い。
【勇者】カトラス改め【ナンカヘン=ナンデス】伊佐見渚の新たな人生はこうして幕を開けることになる。
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