出会い
「……」
やけにリアルな夢を見ていた、ような気がする。自分が魔王と対峙して、負けたなどありえない。そんな筈はないのだ。自分は平凡な人間でしかないのだから。
……本当にそうなのだろうか?
真っ白な天井をぼんやりと見上げていた彼は柔らかいベッドで上体を起こし、微かに呻いた。頭部に包帯を巻いた、まだ幼さの残る顔立ち。苦しそうに重い息を吐き出していても、今すぐに泣き出してしまいそうな表情に見える。
ベッドの上に手を這わせて、傍らにあるはずのモノを探す。しかし、何を探しているのかはよく分からない。ほぼ無意識で動いているようなものだ。そして、探し物は結局見つからないようだった。
(此処は何処だ?今は、…)
『いさみっ!あんた、まだ寝ているの!?』
『なぁ、目ェ覚ませよ』
『おまえの帰りを待ってる奴が沢山いるんだぞ!』
「起きてるよ」
離れた場所から呼ばれる声に、自然と口が滑らかに動く。いさみ、と呼ばれた名前に聞き覚えはなかった。彼の名はカトラス・マクスウェルであっていさみなどと言う名ではないのに、何故返事をしたのだろう。
今いる場所が何処なのか、部屋の内装ではすぐに分からなかった。どうやら自分は転移魔法か何かで、宿屋のような場所に飛ばされたのではないか──そんな仮説を組み立てながら情報を探る。
白い箱のような室内には、本や文房具、花瓶が並ぶ机があり、その側面には大きな鞄が掛かっていた。その鞄には、汚れた四角い通行手形のようなものがぶら下がっている。
何処から何処までと場所らしきものがふたつ書かれた表面には、『
「イサミ……ナギサ」
口から出る声は、何度聴いても自分と同じ声ではなかった。
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