我輩は「まおー」である。
椎那渉
第一章 エピローグ
「貴様、よくぞここまで来れたな。敵ながら褒めてやろう」
「御託はいいからさっさと始めるぞ」
月の光も届かないその場所に、ひとりの人間の男と強靭な肉体を持つ魔族の長が対峙している。男は頬に走る傷に指先を当て、一筋流れる赤いものを拭い取った。そこまで来るのにどれだけの時間を費やしただろうかと感慨深くなる程、感傷的になるような男ではないようだ。
片手に握っていた剣の柄を両手に持ち変え、握る力を強くすると横に一閃叩き込み、その場で空気を薙で切りにした。対する魔王は両手に力を込め、長く伸びる爪の鋭い切っ先を鞭のようなしなやかさで振るう。
勇者と魔王が己の命を掛けた戦いは三日三晩続き、体力が尽きかけた勇者はヒーリングアイテムで微量な回復を繰り返すばかりとなった。魔王の剛爪は次々と折れ、身体中傷だらけになり真紫の血液が流れている。
「……精々、次は無害な生き物に生まれ変わることだな」
「フン、貴様こそ…次世では平伏すがいい!」
勇者は最後の一太刀を浴びせ、魔王は折れた爪を拾い上げ眼前で構えた。刃が重なり、火花が散ると瞬く間に火が燃え広がる。
闇夜を煌々と照らす炎の中で、魔王の嗤い声だけが響き渡った。
ふたりの物語は、ここから始まる。
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