第18話 遠距離攻撃

 ヴァンくんが戦闘訓練を受けるのは今日が初めてだ。そのためボクと模擬戦をすることはなく、シグノアさんが付きっ切りで色々教えている。

 ヴァンくんがボクに対して殺意を向けていると言っていた。しかしシグノアさんはヴァンくんに対して適当に接することはなく、ヴァンくんに対して丁寧に接しているように見える。何も考えていないということはないと思うが、ボクにはシグノアさんの考えが読めない。


 今はヴァンくんに合う武器選びをしている。ボクの場合は魔力が紫紺の魔剣だったので武器選びはしていない。ヴァンくんの場合は色々な得物を振ったりして確かめているようだ。ヴァンくんは自分の身長よりも少し長い両刃の槍を振っている。


 ボクは意識をヴァンくん達から引き離し、自分のすべきことについて考える。

 それは長い間合いの攻撃を手に入れることだ。魔猿との戦いで気付いたことだが、ボクは遠くに対する攻撃手段を持っていない。魔猿がボクに対して近づいてこなければ、そのままハメ殺されていた。


 シグノアさんはどういうふうに遠距離攻撃に立ち向かっているのだろうか? シグノアさんの魔力はボクと同じでロングレンジを得意としない。

 ヴァンくんの武器選びが一段落着いたところでシグノアさんに声をかける。


「シグノアさん、シグノアさんは遠距離攻撃にどうやって迎撃しているんですか?」

「そうですね、もともと私は戦闘向きの魔力ではありませんので表立って戦わないんですよ。私が得意とするのは剣術や棒術、暗殺などですので。純粋な戦闘ならガーリィさんの方が長けていますし」

「そうなんですね」

「強いて言うなら相手の心を読んで見切るくらいでしょうか」


暗殺が得意というなんとも恐ろしい特技を聞いてしまった。確かに心を読めるなら不意をつくことも容易に行えるだろう。暗殺術はどこで身につけたのか気になるところだが、ボクは本題に戻って質問を続ける。


「それじゃあどうやって攻撃するんですか?」

「簡単ですよ。攻撃を見切って自分が得意とする間合いに入れば良いんですよ。相手の得意とする場で戦うのは不利ですから。私の場合は投げナイフも選択肢の一つです」


 言われてみれば魔猿からの攻撃を凌いで自分が得意とする近接戦に持ち込んで戦った。シグノアさんが言っていることはボクも図らずとも行っていたようだ。


「攻撃を見切ると言っても難しいでしょうからコツをお伝えしますね」


 そう言うとシグノアさんはボクから距離を取った。


「私に向かって歩いてみてください」


 ボクはなんだろうと思ったがとりあえず促されるままに歩いてみる。シグノアさんがボクの間合いに入った時、なんだか不思議な感覚がした。その感覚は軟膏に指を入れたような、ヌルっと絡みついてくるような感覚だ。


「これは瘴気の応用の一つです。やり方としては瘴気を使って自分中心に斥力、または引力を発生させます。そうすることで物が力場を通ると力場が変化して感知することができるのです」

「これで攻撃とか防げないんですか?」

「防げないこともないですが、防ごうと思ったらとんでもない量の瘴気が必要になります。それを自分一人で補っていたら感情に飲まれて廃人になってしまいますよ。まぁ、一人それができる人を知っていますが」

「その人はどんな人なんですか?」

「クロウですよ。ただし効率が悪いので行わないらしいです。さぁ、ヴェリドくんもやってみてください」


 ボクは瘴気を自分の周りに溢れさせる。薄く広く伸ばすような想像をして瘴気を扱う。戦闘訓練ではこのような瘴気の使い方はせずに一点に集中させていた。だからだろうか力場を作るだけで疲れてしまった。

 シグノアさんがボクの方へ近づいてくると周囲の空気が揺れるような感覚がする。ボクの方に近づくにつれてその感覚が強くなってきた。


「できたようですね。これの弱点としてはヴェリドくんも感じたと思いますが、力場に入ったことは相手にもわかります。先程はヴェリドくんがわかりやすいようにわざと強めに作りました。あまり力場を強くすると飛び道具の軌道もおかしくなってしまいます」


 シグノアさんは手に持っていたステッキを軽く山なりに放り投げると、空中で勢いを止めて地面に落ちた。


「なのでどれだけ力場を弱くして相手に気づかれないようにするかというのが大切になります。しかしながらそれにも限界があります。戦いの中に身を置く立場からすれば力場に気づけない者は三流も良いところです。話が大きくそれましたね。遠距離への打点ということであれば、良ければ投げナイフをお教えしますよ」


 シグノアさんはかすかに微笑みながら投げナイフを胸元から抜き、ボクが気付いたときには投げナイフはボクの目の前に飛んできていた。その自然な動作の流れに全く気付く事ができなかった。

 鋭いナイフの動きに力場が歪み、空気がボクの肌を斬りつけるように震える。シグノアさんから射出されたナイフはボクの目の前でピタリと止まり、蛇のような動きで手元に戻っていく。

 どうやら投げナイフには紐が付いていてシグノアさんがナイフの動きを操作しているようだ。


「少し練習すればこのくらいはできるようになりますよ。それと、日常的に力場を展開しておいてください。瘴気の操作に丁度良いので」

「了解です」


 ボクが返事をするとシグノアさんは頷いて「よろしい」と言って笑った。

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