IF94話 社会勉強って奴(立花視点)

 最近番長が妙に機嫌が良い。顔がニヤけている時があったり、鼻歌なんか歌っている時があったりする。厳つい顔をしているのに似合わなくて不気味過ぎる。まぁしかめっ面でクラスがピリピリしているよりかなり過ごしやすいので、俺的には良い傾向だと思う。


 噂では番長に女が出来たらしい。他校の生徒らしいので相手が誰なのか知っている奴は俺の周囲にはいなかったけれど、この前薔薇の花束を抱えて女と歩いている所を電脳部の部長が見かけたそうなので、その噂は本当の可能性が高いと思っている。

 ゲームに登場する番長は硬派なイメージだったけれど、中身は俺と同じ女好きの男だったという事なのだろう。


「それに比べて最近の川上は暗いよな」

「うん・・・親から小遣いの使い方が荒いって言われて減らされちゃってさ」

「マジかよ、風俗通いでもバレたのか?」

「ううん、それは無いみたいだけど・・・」

「小遣いの前借りでもしたのか?」

「うん、そんな感じ」

「それで俺の部屋にゲームしに来たのか」


 普段なら、お気に入りの泡嬢が店に来るまでの暇つぶし程度にしか寮の俺の部屋に長居しない川上が来るようになったのは、小遣いが減らされて風俗通いが出来なくなったかららしい。

 俺の部屋にはテレビゲーム自体はあるけれど、風俗に使う金があればすぐに手に入る程度のソフトしか持っていない。川上がわざわざ俺の部屋にまできてゲームをしている意味が分からなかった。


「ちょっと親と顔を合わせづらくてさ」

「あん?やっぱり風俗通いがバレたんじゃねぇのか?」

「そっ・・・それは無いよっ!」

「それなら何で顔を合わせづらいんだよ」

「ちょっと喧嘩しちゃってさ」

「ふーん」


 昔はなんか強気でいけ好かない奴だと思っていたが、話してみると川上は結構気弱な奴だと分かって来た。だから、親に反抗とかし無さそうだと思っていたけど、そうではなかったようだ。女を覚えて一皮剥けたのだろうか。


「ツケで遊んだりすると、家まで金の回収に来るから気をつけろよ」

「うっ・・・うん」

「なんだ、ツケで遊んでたのか」

「うん・・・お金が無いからしばらく遊べないって言いにいったら、ツケで良いから遊ぼうって言われてさ・・・」

「そんな律儀な事してたんか・・・相手は風俗嬢だぞ?」

「うん・・・」


 かなり溺れやがんな。大丈夫か?


「ねぇ・・・彼女を恋人に出来ないのかな?」

「はぁ?風俗嬢をか?」

「だって、とっても相性が良いんだよ?」


 体の相性が良いってか?風俗嬢が良いとかイクとか言っても演技らしいぞ?まぁ俺も違いが分かるほど行けてねぇから前世のネット情報だがな。


「付き合えても後悔すると思うぞ?」

「何で!?」

「考えてみろよ、風俗嬢は稼いだ金を何に使ってるんだ?」

「えっ?病気の家族がいるとか?」

「違ぇよ、男に貢いでんだよ」

「男っ!?」


 借金背負って体売ってるって奴もいるだろうが、ホストに入れ込んだとかで借金背負ってたりする奴が多いらしいからな。


「ホストかヒモかは知らないがな。別の男に貢ぐために体売ってんのが殆どだと思うぞ?」

「まっ・・・まさかっ!」

「病気の家族の為にって奴がいねぇとは言わねぇが、家族に体売らせて病気の治療って子持ちか毒親か毒兄弟付きって事だし、良い未来は見えねぇよ」

「毒親?毒兄弟?」

「体売らせて平気なぐれぇ薄情な家族って奴を毒っていうんだよ」

「そうなんだ・・・」


 こっちの世界では言わない言い回しだったか。


「まぁ金遣いが荒いだけとかヤク中って場合もあるだろうが、金に困ってんのは間違いねぇよ、付き合ったらお前、まとわりつかれるぞ?」

「ヤク中?」

「麻薬中毒だよ。お前の前でおかしい行動を取ってねぇなら違うだろがな」

「おかしい行動って?」

「いきなり不機嫌になったり、ちょっといなくなったあと、呂律が回らなくなったり、恍惚した表情を取ったりだな。あと気持ちよくなる薬とかいって何か勧めて来たら売人も兼ねてるからさらにヤベぇぞ」

「それは無いよ・・・」


 まぁそんな変な奴を恋人にしようなんて誰も思わないよな。


「どっちにしても金に困る理由を持ってんだよ。そんなの俺ら学生が抱えられる訳ねぇだろ?」

「でもっ!」

「もし付き合えても金づるとしてだぞ?例えば川上の親が成金だと知ってそっから金引っ張ろうと企んでいるとかよ」

「金を引っ張る?」

「ガキが出来たから責任取れって言って無心に来んだよ」

「えっ!?」


 やっぱり知らないのか・・・ネットが普及してないし、こういった情報知る手段は限られるもんな。


「薬を飲んでるからとか大丈夫だとか、安全日だから生で良いよなんて言われて、そのすぐ後に子供が出来たとか告白されんだよ」

「・・・えっ?」

「あんのか・・・」

「うん・・・」

「マジかよ・・・」


 随分とよろしくやってたんだな。


「でも子供が出来たなら恋人になれるよね?」

「それが本当にお前のガキかは分からねぇぞ?」

「えっ?」

「別の男のガキが出来たが、そいつに逃げられて、1番金引っ張れそうな川上に押し付けようとしてるかもな。堕胎するにも金かかるし、しばらく体も売れなくなるだろ?」

「そんなまさかマイさんが・・・」


 川上が入れ込んでいるのはマイって女か。確かに顔は可愛くはあったな。俺は綺麗系で胸がデカいの好みだから指名した事はねぇがな。


「そのマイって女は店の外でも会ったりしてるのか?」

「同伴とアフターならあるよ」

「そういうんじゃねーよ! 普通に街で会ってデートとかすんのかって聞いてんだよ!」

「なっ・・・ないけど・・・」

「それは風俗嬢の営業でしかねぇんだよ、暇になりそうとか絶対に客を取りたい日に片っ端から連絡先に電話してんだ。キャバ嬢とかバーの女も同じだからな?」

「そんか・・・」


 そんな事も分かんねぇのか?この時代の男はネットが無いから情弱って事は分かるが、それぐらい知ってねぇと破滅するぞ。


「あのな・・・、一緒になりたいなんて思ってる相手に店に来て金使わせるなんて事はしねぇんだ。風俗で使う金は、風俗嬢にそのまま渡るんじゃなく店に中抜きされんだからな?勿体ないからもう来ないでって言う女以外は信頼すんな」

「うん・・・」

「良い女は、通えなくなったって言いに行った時に、ツケまでさせて遊ぼうなんて言わねぇよ」

「うん・・・」


 おー、おー、意気消沈しちまって。


「風俗嬢とは遊ぶだけにしとけよ?」

「うん・・・」


 反応が薄いな。まぁこれ以上は川上の問題だな。痛い目見るかもしれねぇが、それもまた社会勉強って奴だ。

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