IF91話 未来を見据えて

 混合部門に出場した八重樫達のチームは決勝でドレッドヘアーの選手が率いているらしいワンマンぽいプレイが多いチームに対して優勢に試合を進めてコールド勝ちをおさめていた。準決勝で戦った外資系企業のチームの方が苦戦したぐらいだった。


 ポイントガード的な役割をしていた早乙女は、ドリブルが非常に低い事もあり長身の相手選手が非常に取りずらそうにしていた。そして強引に接触してボールを奪おうとする選手に対してファールを誘って翻弄し続けていた。

 躍起になって早乙女を囲うと、早乙女がフリーになった八重樫かジュンにパスをしてシュートを決めさせていた。八重樫のミドルレンジからのフックシュートは決定力が高く、そんな八重樫を警戒してマークするとフリーになったジュンが外から2Pシュートをするという、相手はなすすべがないといった感じで試合を優位に進めて優勝を勝ち取っていた。


「さすが次期キャプテン! さすがっすね!」

「なんだ望月、その口調、気持ち悪いぞ」

「望月さん、相手チームの応援してたっすよ」

「ちょ!」

「何だと!?」

「俺がシュート外した時に「ヨッシャ!」って言ったお返しっす」

「田宮ぁ!」


 大丈夫だろうか男子バスケ部。


「お腹空いたね~」

「望月のおごりで祝勝会しようか」

「良いっすねぇ」

「ちょっ! 田中っ!」


 まぁ足りなければ俺も出すさ、こうやって割を食うという態度を示せば八重樫の腹の虫だって治まるだろう。


「望月、何か文句があるのか?」

「さすがに全員分は・・・」

「望月の手持ちでは足りなかったら、他の男共が割り勘で払えばいいだろ?」

「良いっすね」

「それで我慢するか」

「俺の財布は空にするのかよ・・・」

「こんなに綺麗な女性達と食事できるんだぞ?」

「そうっすよ」

「全員彼氏持ちじゃねぇか!」


 望月が魂の叫びの様な咆哮を放った。


「お前・・・それだからモテないんだぞ?余裕を持った方が女は寄って来るんだ」

「へぇ・・・カズ君詳しいんだね」

「チ・・・チエリっ! 違うんだ!」

「カーズーくーん? 寄って来た女って誰の事ぉ?」

「たっ・・・助けてくれっ!」

「こんな時に、私以外の人に助けを呼ぶなんてっ! ムキー!」


 あぁ、城前中の連中はこうなった八重樫と早乙女を暖かい目で見守るべきだと思ってる奴らだからな。多分同年の男子部員も知っているのだろう。

 八重樫は唯一の救いの手を差し出しそうな依田を見たようだけど、近くにいたオルカが丁度腹を鳴らしたのでそちらを凝視してしまった。不可抗力みたいなものだけど早乙女的にはオルカに助けを請う行為になるらしくギルティらしい。


「どこに行く?」

「早乙女ん家行くか?」

「少し遠いだろ、オルカが餓死しちゃうぞ?」

「大丈夫だよっ!?」

「早乙女先輩の家に行くっすが大丈夫っすか?」

「良いけどムキーっ!」

「相変らず器用な返事をするのね」


 早乙女は自身は男子から声をかけられても返事をするのに、八重樫が女子から声をかけられたり、話しかけようとすると嫉妬をするんだよな。八重樫はその理不尽さを良く我慢できるよ。


△△△


 早乙女の家の喫茶店に入り祝勝会をした。店に並んでいる間に漂って来る香りにやられたのか、オルカのお腹が盛大に鳴り続けて、恥ずかしさの余り顔を押さえて蹲るという一コマがあった。


「いっぱい食べる子の方が僕は好きだよ」

「ありがとう・・・」

「ああいう態度が良いらしいぞ?」

「依田っ! いえ依田師匠!」

「えっ!?師匠!?」


 依田がオルカと良い雰囲気を作っている様子を見て、望月が依田の手をガシっと握り師匠呼びしていた。そういう望月のガツガツした所が女子から軽く見られるポイントなんだけどな・・・。隣の寡黙気味に頷いている築地と名乗った男子バスケ部員と足して2で割ったら丁度いい具合になるんじゃないのか?


「今年のバスケ部はどんな感じなんだ?」

「田宮が入って得点力はかなり上がりそうだな」

「へぇ・・・やっぱジュンは凄いんだな」

「ただ田宮はスタミナとディフェンスに難があるな、でも外からスポスポシュートを入れる奴がいると相手のディフェンスが広がるし、入れないという選択肢は無い」

「インターハイは期待できる感じか?」

「うちは強豪校に比べて高さが足りなんだよ」

「えっ? 八重樫や望月や築地の高さで足りないのか? 哀川だって結構背は高いだろ?」


 望月と築地は190㎝近い長身だし、哀川だって175㎝はゆうに超えた身長を持っている。


「190㎝は無いと厳しいな・・・強豪校は190㎝超えのビッグマンを多く持ってやがるんだ。そんな奴らにマークされれば、俺や田宮でも外しやすくなる。外したボールを拾うのは背の高く手の長い奴が有利だからどうしても悪い流れになりやすいんだ」

「なるほどな・・・」


 八重樫も望月や築地程ではないけれど185㎝ほどはあるので長身だと思うのだけれど、バスケ選手としてはそこまで高いという訳では無くなるらしい。八重樫は県選抜に選ばれる程の選手だけど、それでも背の高さという、どうしようもない才能には勝てない部分があるようだ。


「ジュンのシュートで相手ディフェンスが外に広がるなら、外からシュートを打つ奴を増やしたらどうだ?」

「田宮みたいな天才シューターなんてそうそういないぞ」

「マークされてもある程度入るってのは難しいかもしれないが、フリーなら入るって状態には出来るんじゃないか?」

「バスケはそうそうフリーなんてならないぞ?」

「全員外からフリーになれば決定力のあるシュートを打ち始めたら相手ディフェンスはもっと広がって、一人一人のマークは薄くなるんじゃないか?」

「それは・・・」


 俺は前世で最後に務めていたスーパーの親会社が、プロバスケットボールチームのスポンサーになっていた事もあって結構バスケが好きだった。アメリカのプロリーグの試合も良く契約していたインターネットのスポーツチャンネルで結構見ていた。だから小学校4年の時にカオリに負けてムキにならなければ、スイミング通いをやめてミニバスのチームに所属したいと言っていたと思う。


 この世界のバスケの事情が書いてあるスポーツ雑誌をジュンから借りて読む事があるけれど、バスケの本場アメリカでスターとなっている選手は、ドリブルしてゴールに切り込みダンクを決める選手ばかりだった。そしてそのスター選手に対抗するため、体格が良く背が高いビッグマンと言われる選手を多く起用するチームが増えている様子だった。

 けれど俺が前世で見ていたバスケットチームは外から高い決定率でシュートを打つ選手がスターとしてもてはやされていた。背が高かったり、ドリブルが上手かったりディフェンスが上手い選手も、プラスアルファで外からシュートが打てる事が求められていたのだ。


「チーム練習は1人じゃ出来ないけど、シュート練習はやり気がある奴なら一人で続けられるだろ?」

「まぁそうだな・・・」

「公園にバスケットゴールがあったり、フリーのコートがあったりと、この街って学校以外でも個人練習が出来る環境があると思うんだよ」

「もしかしたら田宮みたいな才能が開花するかもしれないのか・・・」

「あぁ」


 ジュンだって最初からすごいシューターだった訳じゃなかったからな。背が低くて足も余り早く無くてミニバス時代はベンチ入り出来ていなかった。俺がジュンの射撃の才能の高さから、何気なく「外からシュートを打つのが得意になるんじゃないか?」と言ったら、それがどハマりしたようでシュート練習を繰り返して才能が開花した感じだった。


「自分のシュートフォームとかちゃんとビデオに撮って見たりしてるか?」

「試合の様子はビデオに撮っているが・・・」

「上手い人の真似して体を動かしていても全然真似できていないって事あるだろ?水泳部では泳ぐ様子をビデオに撮って何度も見直しているぞ」

「そうだったのか・・・・」

「あぁ・・・オルカは凄い伸びのある泳ぎをするから、みんなフォームを真似しようと挑戦するんだ。誰も成功はしないんだが、ビデオに撮って比較する事で自分の泳ぎを見直す機会にはなるんだよ。どのフォームでシュートしらたらブレが出にくいとか分かるかもしれないぞ?」

「それは良い事を聞いた。早速監督に話してみよう」


 八重樫は次期キャプテンが内定している状態らしいしいからな、未来を見据えて素晴らしいチームを作って貰いたいと思う。

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