IF87話 大きな失言
涼宮の話を聞き終えたあと、カオリとオルカの2人と合流して、シオリとユイとジュンの学校案内に付き合った。
「涼宮さんの話って何だったの?」
「オカルトも観測によって科学で説明出来る事もあるって話かな?」
「相変わらず変わった人みたいね」
「あぁ」
カオリには、催涙スプレーのお礼にたまに実験に付き合っている事を伝えているので、科学部の部室に行くという事情は理解してくれている。
「じゃあ私も行くわね」
「あぁ頑張ってな」
学校案内のあと、カオリとオルカは午後からの県営プールでの練習に向かい、シオリとユイとジュンも帰っていった。俺は部活をするため学校に残っている。
部室でトレーニングウェアに着替えてグラウンドに向かうと、依田は既に走り込んでいた。
俺は柔軟をしながら前世の東日本大震災の事を考えていた。涼宮と話したオカルトの話や、ゲームで水泳部に所属すると取れる必殺技の大海嘯や、権田の親分に言われた宗像家の再興の話が頭の中で組み立てられ、一本の道筋を作り出したからだ。
俺がいるのはゲームの設定が反映された別世界のようだけど、前世で起きた自然現象がほぼ同時期に起きる並行的な世界でもあった。
関東大震災に相当する地震が教科書に掲載されているし、約10年前の巨大彗星の接近の騒ぎも前世と同じ様にあった。そして1年と少し前の阪神淡路大震災に相当する地震も起きた事で、確かにここは俺が知っている地球でもあるんだと思うようになった。
首都が京都になっているためか、関東大震災に相当する地震が起きた9月1日は防災の日になっていなかったり、阪神淡路大震災に相当する地震を前世よりも被害は小さいわりに、大きく報じられていたりと差はあるけれど、同じタイミングで地球規模や宇宙規模の現象は起きると分かった。
その他の台風や洪水などの自然災害や天体現象はあまり覚えていないので比較できないけれど、あの前世の戦後の最大の国難とも言える東日本大震災も同時期に起きるのではないかと今では思っている。
この世界は第二次世界大戦に相当する戦争で、日本はアメリカに原爆を投下される前に停戦交渉を行い、無条件降伏もしなかった事から、核アレルギーは殆ど無く、電力会社も化石燃料の価格に左右されない安定的な価格の原子力発電所を好んで建設し続けた。そのため前世の日本に比べて海岸部に原子力発電所が沢山作られていた。もしその中に福島第一原発の様な欠陥がある原発があったとしたら、もっと大きな災害が日本で起きそうに思う。だから俺が何か行動を起こして国難を防ぐ事は出来ないかと考えた事がある。涼宮との会話では無いが地震の予知がオカルトと言っていいほど難易度が高い事だと知っているのでどうしたら良いか分からないでいる。
出来る事と言えば発信力を増やして原子力発電所が電源喪失する可能性を発信して改善して貰うぐらいしか思い浮かんでいない。
けれどそれを信じて貰うには、情報発信力を持たなければならない。
将来、カオリと共に政界に進出したら、そういった活動が出来るかもしれないとは考えていた。
俺は権田家から、宗像家の再興について打診を受けた。
宗像家は、沖津宮の田心姫神、中津宮の湍津姫神、辺津宮の市杵島姫神という3柱の女神を祀る宗像大社と縁が深い家らしい。
3柱の女神は、大陸と繋がる重要な交易路であった玄界灘での航海の安全を祈願する神様としての側面があり、今でも九州地方ではかなり敬われているらしい。
地震による津波が起きる事は防げないだろう。けれど危険を訴える事で避難する人が増えれば被害は減る。宗教というのはオカルトそのものだ。だけど津波が起きることを知っているのに何もしないのは気分が良くない。けれど宗像になると俺の話はオカルトと考えられてしまう可能性がある。そんな事を考えてしまっていた。
ストレッチを終え、ケンタがまだやってくる様子が無いので先に走り込みをしようとしたところで、真田がやって来た。
「何か用事か?」
「「私の弟はどう?」って聞こうと思ってね」
「お前の弟はお前に似てるな」
「えっ?どんな所が?」
「メガネに誤魔化されるが、外せばそっくりになるんじゃないか?」
「外見の事か・・・良く分かったね」
前世には、双子の姉妹が入れ替わる事で読者のミスリードを誘う有名な同人ミステリーサウンドノベルがあった。だから真田弟から真田が姉だと聞いた時に、それを考えてしまった。そしてわざとらしい大きなメガネは俺へのミスリードを狙っているのではと勘繰ったのだ。
「あのメガネは少しわざとらしいからな、似ている事を隠しているのかと思ったんだよ」
「・・・良い目を持っているね・・・」
「そうか?」
結構当たっていたようだな。
「マモルはメガネを外すと私にそっくりだよ。でもメガネはパソコンのし過ぎで目が悪くなったからだけどね」
「パソコン?」
「うん、マモルはハッキングが趣味なんだよ」
「ハッキングって犯罪じゃないのか?そんなの堂々と告白して良いのか?」
「田中君は、同志になって欲しい相手だし、知られても良いよ」
「買い被り過ぎじゃ無いか?俺はカオリほど優秀じゃないぞ?」
「うん、最初は綾瀬さんを同志にしようと思っていた。私やマモルに釣り合うのは綾瀬さんぐらいだと思ってたから」
「随分と自分への評価が高いんだな」
「うん、私やマモルはとても優秀だよ。私はテストでは手を抜いているんだよ。まぁ私やマモルが本気になっても、いつも満点を取る綾瀬さんには勝てないと思うけどね」
「何でそんな事を・・・」
「目立ちたく無かったんだよ」
もしかして真田は革命でも狙っているのか?同志という言葉は偏った政治思想を持っている奴が使いそうな単語だしな。
「何でカオリじゃなく俺なんだ?」
「最初は田中君を綾瀬さんの足枷だと思って排除しようとした。でもそれは間違いだった。田中君は人を惹き付ける才能がある。だからどんどん優秀な人が集まっている。そんな人たちには私の邪魔なんか殆ど効果が無かった」
「俺に対する実験だったんじゃないのか?」
「それは間違いだと知った後だよ。邪魔した方が優秀な人が選抜されていくようだったから続けたのよ」
「なるほど・・・」
噂を信じて俺と距離を取ろうとする奴を排除する為か・・・。
「社会の何が不満なんだ?」
「・・・話が急に飛んだね・・・どうして私が社会に不満があると分かったの?」
「同志を集めるなんて、何かの変革を望む奴しか使わない言葉だろ」
「・・・それもそうか・・・」
真田は俺に感心したという顔を見せていた。そんなに難しい推理だったのだろうか。
「田中君はさ、今の日本を浮かれてるって思ったりしない?」
「経済が好調過ぎるからか?」
「私はこれが世界恐慌の直前に見えるんだよ」
「なるほど・・・、確かにそっくりだな」
世界恐慌というのは第二次世界大戦に相当する戦争が起きる前に、アメリカの証券取引所での株価大暴落をきっかけに起きた世界的経済不況だ。現在のバブル状態の日本と似通っている所が多分にある。
「日本の株価暴落を発端として世界同時不況が起きてまた大戦の世になる気がしてるんだよ。そして次に起きるのは核戦争だよ?」
「だから革命なのか?」
「うん、日本のメディアが国の権力者により統制されているのは知っている?」
「多少はあるだろうとは思ってるよ」
「高校の新聞部や放送部にも検閲があるんだよ」
「それは知らなかったな」
前世の日本と違い、貴族階級が残った日本だから色々違いはあるとは思っていたけど、高校生が発信する事にも検閲があるのか・・・。
「核爆弾の実験が成功したあと、アメリカの大統領が「アジア猿を駆逐出来たのに」と言ったというのは知っているよね」
「あぁ、結構有名だからな」
「日本が経済的に発展してアメリカの座を追い落としそうになっていて相当恨まれているのは知ってる?」
「テレビでは友好国だと言っているが違うのか?」
「違うよ・・・、アメリカは日本を経済的に追い落とそうと色々画策しているんだよ」
「具体的には?」
「他にも最近爆発的に広がってるパソコンのOSを使った状態で通信回線に繋ぐと、情報を全てアメリカに抜かれるよ」
最近アメリカから非常に使いやすいOSが発売され、今では家電ショップでパソコンを買うと初期からそのOSが搭載されている状態にまでなっている。
「何で知っている?」
「マモルがハッキングでアメリカの情報局から盗んだんだよ」
「ヤバい事してるんだな・・・」
アメリカの情報局から情報を盗むってどんだけすごいハッキング能力を持ってんだよ。
「だから私やマモルは自分たちで開発したOSと暗号プログラムを使っているよ」
「何だよそのハイスペックぶり」
「金融や行政にまでそのOSが侵入してきたら、簡単に書き換えられちゃうよ?銀行は預金者の通帳にある金額は持っていないんだよ。お金っていうのは、殆どが記憶装置の中にある数字なんだよ。私の名前と銀行口座が書き換えられたら、社会から私と言う存在を抹殺できるんだよ?自分の情報はちゃんと守らないとある日消されちゃうよ?」
「消されるって・・・」
「毎年約6万人が失踪しているんだよ?この豊かな日本で・・・」
「それが消されているからだと?」
「全部じゃ無いけど、そういうのに紛れてかなりの人が消されているんだよ・・・」
「そうなのか・・・」
きっと真田は優秀過ぎて社会の裏が見え過ぎるんだな。知っている事が不幸になるという典型だろう。
「それにアメリカが設計して導入された原子力発電所にはわざと脆弱な部分が残されているよ」
「えっ!?」
「日本が地震大国だと知って、自然災害が起きた時の為の罠を作っているんだよ。日本を苦しめつつ、事が起きた時に助けて恩を売る気でいるよ」
「それは電源喪失によって起こるメルトダウンか!?」
「っ! どうして田中君が知っているの!?」
「あっ・・・」
大きな失言をしてしまった。真田を無視すべきだと思っていたのに面白い話の連続に言ったらまずい事を言ってしまった。
電源喪失によるメルトダウンは前世で実際に起きた事例から言っただけだ。けれど真田にはまるで既に予測していたかのように聞こえてしまっただろう。
「田中君凄いよっ! もしかして凄い情報源でも持ってるの? もしかして権田家・・・いや将軍家の諜報機関が掴んでいるのかな?」
「いや・・・」
将軍家の諜報機関って何だよ、そんなの知らないぞ。
「じゃあ私の話を聞いたあとの僅かな時間でそこまで想像が行きついたの!? 凄すぎだよっ!」
「・・・参ったな・・・」
前世で見たとも言えないし・・・いや言うのはアリなのか?さすがにこの世界はゲームの世界だなんて信じて貰えないだろうけど、過去に戻って生まれ変わった的な感じで説明したら信じて貰えたりしないか?
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