IF2章 高校2年生編

IF85話 出来過ぎている

 学年があがり始業式の日になった。シオリと一緒に学校に登校するのは1年ぶりとなる。シオリの制服姿自体は、学校の指定店の1つになっているマサユキさんの店から受け取った日に、シオリが家族のみんなに見せびらかせたため見ている。それに入学式の日に親父やお袋と出かける所を見送っていたので目新しいものではなくなっていた。けれど、こうやって一緒に学校に行けるようになる事は、俺にはとても嬉しい事だった。


「あっ、おはよう!」

「おはようございます」

「そっちもおはよう」

「おはよう」

「オルカとユイさんおはよう」

「そっちも一緒に登校か」

「うん、楽しみにしてたからね」


 学校前のバス停から降りたところ、ちょうどオルカとユイと依田が一緒に登校してきたところだったので挨拶を交わした。

 オルカは俺と同じ様に妹分であるユイと一緒に登校するのが楽しみだったらしく満面の笑みになっていた。


 ゲームではユイと偶然校門でぶつかり、そのあとひょっこり現れた立花にユイを紹介されるという流れになっていた。しかし俺は去年の4月の時点でユイと会っており、夏祭りや花火大会で遊んだり、家族旅行にも一緒に行くという関係になっていた。


「みんな同じクラスになれたら良いなぁ」

「婚約者になったら確実になれるぞ」

「婚約かぁ・・・」


 オルカはチラっと依田に視線を投げかけていた。


「ちょっと両親に話してみるよ」

「私もお婆ちゃんに相談する」


 同学年に婚約者がいた場合、基本的に同じクラスに振り分けられる事になっていた。基本的にという理由は文系と理系の選択で別れる事があるからだ。ただしそういった選択をした婚約者は不和だと周囲から言われる事になる。文系や理系を選択しても、多少授業の配分が変わる程度で、大学に進む際に大きな影響が無いからだ。


「ユイちゃん行こう」

「うん!」


 俺やカオリやオルカは校舎に入る前に、2年のクラス分けが張り出されている紙を見に行く必要があるが、シオリとユイは既に入学式の日にクラスが判明しているので見に行く必要が無かった。


「私達はまた1組みたいね」

「ケンタと一緒だな、サクラとオルカは2組か・・・」

「僕は4組だね・・・」

「婚約しとけば良かった・・・」

「でも修学旅行は同じコースになれたわね」

「確かにそうだな」

「田中君に任せれば迷わなくて済みそうだね」

「うん、一緒に回ろうね!」


 修学旅行は1組から4組と、5組から8組の2グルーブに別れて回る事になる。そのため同じグルーブでなければ自由行動の時に一緒に回る事が出来なかった。

 オルカは苦手な英語の授業が週で1回少ないからと理系を選択したがっていたけれど、依田が文系を選んでいたので同じクラスになれる可能性をあげるため文系を選んでいた。

 今井が3組だったけど、古関は5組と別のグループになってしまった。田村と丹波と早乙女と八重樫と望月は理系を選択したので7組と8組にクラス分けされていた。


「丹波君って歴史オタクなのに理系を選んだんだね」

「丹波は田村と八重樫に合わせているんだよ」

「仲がいいもんね」

「あぁ」


 丹波は中学校時代に、早乙女と口論になった際に、「胸の無い女は女じゃねぇ!」と口を滑らせて泣かせてしまった事がある。

 早乙女は、自身がチンチクリンである事を思いのほか気にしていたし、年齢的に情緒不安定になっていた時期だったこともあり丹波の暴言が聞き流せなかったのだ。


 俺はクラスが離れていたのでその辺は後から聞いたのだが、丹波はクラスの女子から総スカンを食う事になり、男子からも距離を置かれて苛めにすら発展しそうになっていたそうだ。

 その際に状態をおさめたのが、同じ商店街仲間で幼馴染の田村と八重樫で、丹波は田村や八重樫に対して特別な恩義を今でも感じているらしい。


 余談だが、丹波と同じクラスだった田村は、丹波といつもと同じ様に接する事で孤立させないように立ち回ったそうだ。そして、早乙女と同じバスケ部だった八重樫は、早乙女に「女性は胸じゃないよ、チエリは可愛いんだからさ」と慰めて丹波と和解させたらしい。

 その事がキッカケで八重樫は早乙女にストーキングされるようになり、八重樫は逃げ回っていたけれど、1月後に何故か恋人関係になっていた。


 丹波が早乙女に「俺がキューピッドだな」と調子の良い事を言い、また早乙女を怒らせて女子の顰蹙を買う事になったため、顔立ちは悪くないのに、中学校時代から丹波は女子達から「あり得ない」と言われ続けていた。

 高校に入っても丹波の失言癖は抜けていないので、一緒にいる事が多い田村が割を食って、一緒に女子から敬遠されていた。


「真田マモルなんて同級生いたっけか?」

「覚えが無いわ・・・放送部の真田さんは2組よね?」

「あぁ、それに真田マモルは左側の列に書いてあるから男だ」

「編入生かしら?」

「そんな感じか・・・」


 なんか放送部の真田は不気味な女生徒なので、語呂が近い聞き覚えの無い名前に不気味さを感じた。


「一緒のクラスなのはは羨ましいな~」

「3年では一緒になれるだろ」

「うんそうだね」


 ゲームでは婚約という描写は殆ど無かった。俺の知ってる限り、3作目に許嫁がいるというヒロインが出て来た事と、4作目に婚約しているけれどまだ相手とは会った事が無いというヒロインが出て来たぐらいだ。


 この世界の日本では、婚約という儀式は残っていて、役所に書類を届けて受理して貰う事も出来る。ただし法的には何の条項も無く、拘束力も無い不要式行為になっている。

 但しお互いに将来を約束し合ったという契約事項ではあるので、不貞や暴力など過失によりそれの履行が不能になった際には、過失側が賠償の責を負う事になる。

 つまり婚約とは結婚のように扶養控除や相続税の免除などメリットが享受されないのに、デメリットを負う行為だったりする。

 しかし、婚約者同士は性行為が発覚しても不純異性交遊とみなされないというメリットがあった。学生の婚約者同士の性行為が判明しても停学や退学にはならないし、成年と未成年の性行為が発覚しても青少年保護育成条例違反とみなされず、立件されて会社を解雇されるなんて事も起きなくなった。

 その制度が悪用されたという話はありはするけど、届け出の段階で役所が家庭内の異常を察知する事が出来るため、児童相談所が独自に調査して、早期に被害者の児童が助けられるといった事も起きている。


 上流階級では、相互の家を繋げるという意味で小さい頃から許嫁を持つ事もあるし、上流階級以外でも結婚秒読みとなっている恋人同士や、もうお互いしか無いと思い合った若いカップルが婚約を役所に届けたりしている。また婚約によって虫よけの効果があったりする。カオリの下駄箱に投げ込まれるラブレターの数は婚約後に激減したからだ。但し俺の下駄箱に投げ込まれる不幸の手紙は激増した。依田とオルカが婚約した場合、同じ現象が起こるんじゃないかと思う。


「おはよう、一年宜しくね」

「あぁ、宜しくな」


 クラスに入り、1年の最初の時と同じ、教室のある真ん中の右側、後ろから3番目の席に座ると、ケンタがやって来て話しかけて来た。


 クラスの中では1年の時に同じクラスだったり同じ部活だったり同じ中学出身だったりと共通点がある同士で話をしていた。カオリも同じ中学校出身の佐々木と篠塚の2人と話していた。


「僕も話して良い?この学校戻って来たばかりで知り合いが少ないんだ」

「・・・もしかして真田マコトか?」

「えっ!?僕の事を知ってるの?」

「クラス分けの紙の中に見慣れない名前があったからな、それになんとなく放送部の真田に似ている気がしたんだ」

「へぇ・・・、僕が姉さんに似ていると思うんだ・・・」


 どうやら、こっちの真田は放送部の真田と姉弟だったらしい。俺はなんとなく警戒していたので、近づいて来た小柄な男子生徒が、大きなメガネをかけて男子の制服を着ただけの真田に見えていた。そういう目線で見ていなければ、前世で見た22世紀からやってきた猫型ロボットと同居している小学生みたいな奴だと思っただろう。


「僕の後ろの席の人だね、よろしく」

「うん」


 なるほど、出席番号的に坂城の次が真田になるのか。


「編入したのか?」

「違うよ、僕はこの高校の生徒ではあったけどアメリカの学校に交換留学していたんだよ」

「復帰?」

「復学じゃ無いか?」

「留学終了の証明書を出しただけだからどうなんだろう?」


 そういえばこの高校には交換留学制度があったな。成績上位者じゃないと選ばれないそうなので、真田はかなり頭が良いのだろう。


「アメリカって学年の切り替えが夏頃じゃなかったか?」

「うん、9月だったね、でも問題なかったよ」

「良く知ってるね」

「大学は海外に行くことも選択肢にしてるからな」

「へぇ・・・」

「そうだったんだ」


 カオリが行くと言ったら目指すんだけどな。


「試験で単位を取る事が出来たんだよ、だからそれを受けられるだけ受けて、それでは取れない単位の授業を受けてきたんだ」

「それって飛び級?」


 アメリカは優秀な子をどんどん飛び級させる学校があると聞いた事があるな。


「うん、だから既に米国の高校卒業の資格を持ってるよ」

「じゃあ高校に編入する必要ないんじゃないの?」

「そのままアメリカの大学に行った方が良かっただろ」

「うん、でも姉さんがこっちも面白いから編入した方が良いって言ったんだ」


 これも真田姉の実験だと思った方が良いんだろうな。下手に考えると馬鹿を見そうだしスルーしておこう。


「うちは普通の高校だよ?」

「普通か?」

「どっちなの?」

「僕は普通だと思うけど・・・」

「文化祭で起きた事を考えろよ・・・」

「あっ! もしかして異臭騒ぎ?」

「僕、その騒ぎ知らなかったんだよ、その時美術室にいてさ」

「美術室でも色々あっただろ・・・」

「何?何?何があったの!?」


 あー、なんか真田弟のツボを押してしまったらしいぞ。もしかして真田姉弟って、愉快犯の姉に、快楽主義の弟だったりするのか?


「なんか、美術室で愛の告白をする人が続出したんだよ」

「なんかロマンチックな絵でもかけられてたの?」

「デッサン画と、風景画と、静物画ばかりだよ。まぁとっても綺麗な絵があったけど」


 今井の絵があっただろ。写実的要素は皆無だったし、デッサン画とか風景画とか静物画では無いよな?


「もしかしてヌードモデルのデッサンとかしてた?」

「石膏の胸像のデッサンはしてたけど」


 ヌードモデルのデッサンしてたら愛の告白が起きるってどうして思うんだ?他人の裸みて興奮した奴に告白されたら100年の恋も冷めるだろ。


「じゃあ何でそれで愛の告白が起きたの?」

「それが良く分からないんだよね・・・、絵を描いた今井さんも心あたりが無いって言うし」

「ふーん・・・」


 文化祭では、依田がオルカに突然愛の告白をしていたな。同じような人物が他にもいたのか。


「それじゃあ異臭騒ぎの方は何なの?」

「科学部が、刺激臭で相手を制圧させる煙を出す薬を開発して校庭で人を集めて実験したんだ」

「えっ?毒?」

「人体に無害らしい」

「何それ、すごい発明じゃない!?」

「かもしれないな、興味あるなら、7組の涼宮に会いに行くと良いぞ」

「分かった!」


 テストで0点連発しそうな見た目なのに頭が出来過ぎらしい真田弟が、真田姉みたく変な干渉してくると面倒だと思う。俺の平穏の為にも興味の対象は俺以外に行ってもらいたいと感じていた。

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