IF84話 自身の力
権田の親分から至急会いたいと言われたので、権田家の屋敷に向かった。
権田の親分に会うのは今回で3回目だけれど、直接呼ばれたのは初めてだった。
「田中は華族になりてぇと思ったりするか?」
「えっ!?華族ですか?」
もしかしてカオリから、「ミノルを重婚が出来るようにする手段もある」なんて言われている事が伝わっているのか?庭で話してしまっていたし、誰かに聞かれてもおかしくなかったしな。
「もしかしてカオリを田宮本家の養女にして私を婿にするって話ですか?」
「あぁ・・・そっちの方を考えていたのか」
あれ?そっちの話を進めてやる的な事かと思ったけど違ったらしい。
「田中の母親の旧姓は小早川だよな?」
「えぇそうですが」
なんだ?なんでお袋の話が出てくるんだ?
「実は田中のお袋さんは、戦国時代に絶えた宗像っていう家の末裔なんだよ」
「宗像というと宗像大社に関係する家ですか?」
「宗像大社を知ってるのか。そうだ、あそこの大宮司を祖とする家だ」
要は神社の神職の末裔って事か。だけど、戦国時代に絶えてる家。それってただの平民って事じゃないか?お袋の実家は西国の武家と同じ小早川の姓ではあるけれど、華族では無かったし、別口だと思っていた。
「えっと・・・でも戦国時代に絶えてるんですよね?」
「あぁ・・・だからその家を田中を当主にして再興しようって話があんだよ」
えっ?いきなり当主?あっ・・・絶えてる家だから再興すれば自ずと当主なのか。
「・・・何故ですか?」
「まず・・・大戦で多くの華族が当主を含めて死に、絶対数が減ってんだ」
「聞いた事があります・・・」
第二次世界大戦に相当するこの世界での戦争で、日本は職業軍人の殆どを失い国家総動員令を発令した。当時職業軍人は公家と華族の男性で構成されていたため、働き盛りの公家と華族の男性の8割が亡くなる事になった。生き残ったのは華族の女性と未成年の男児と老人ばかり。
男児がおらず、分家等から養子を迎えられなかった家は断絶する事になった。
現在、日本があの大戦後に国家独立を保てているのは、皇家や将軍家やそれに連なる者たちである公家や華族の献身によると世間では言われている。
公職が平民に解放される事で公家や華族の力は衰退していると言われる事もあるけれど、それでも国民の尊敬を集めている状態である事には変わりはなかった。
「それで絶えた家を再興しようって事になってるんだが、ろくでもねぇ奴を当主に据えたら華族ってものの全体の格が下がっちまう。だから実績と人格が伴った末裔が出てきたらそいつを当主にしようって事になってんだ」
「私に実績があるとは思えませんが・・・」
華族は生まれながらそうなるように教育を施されている。ジュンはあんなに軽い感じの性格なのに、権田家に関わる事には徹底的に秘密を打ち明けなかった。何の教育を受けてこなかった人物が華族になってそういったものが徹底できるものじゃない。ろくでもない人物を華族にして格が下がるという言葉はとても納得が出来る事だった。
「まぁそうだな・・・でも田中にはなって貰いてぇと思ってんだ」
「何故ですか?」
「田中には格が必要だと思うからだ」
「私に格ですか?」
「あぁ・・・田中は将来リュウタの義兄になるだろ」
「そうなりそうですね・・・」
あぁ、シオリとの事か。確かに将軍家に縁のある家が、ただの平民の女と結婚したとなれば問題になりそうだな。
だから俺を華族にして、シオリを華族の妹って形で権田に嫁がせる訳か。
「それはだたの平民がなれるもんじゃねぇんだ・・・権田っていうのはそういう家だ」
「・・・そうなんですか・・・」
確かにそうだろうな。西洋の中世で言えば公爵家の嫡男が、村娘を正妻にするのに等しい行為だ。周囲から大いに反感が起こる事だろう。
「これは田中の将来性を買って言ってんだ。だから田中が実績を上げないのなら宗像はやれねぇ」
「実績とは何ですか?」
「政治、経済、工業、芸能、武道、スポーツ何でも良いな。ただ人格も見られるから犯罪者と馬鹿は駄目だ」
スポーツねぇ・・・俺が今頑張っている水泳だと、どの程度を求められるのかな。
「例えば水泳でオリンピックに出るとかは?」
「足りねぇ、国家の栄誉レベルが必要だ」
「つまりメダリストになれと」
「そうだな・・・宗像だとそれぐらい必要になる・・・」
「なるほど・・・」
なんだ、今掲げてる目標より低いじゃないか。
「政治とはどの程度?」
「衆議院議員を3期務めて国務大臣になるぐらいだな」
カオリだったら総理大臣になれそうだな。
「経済は?」
「起業して一部上場するぐらいだな」
カオリだったら世界一のベンチャー企業を作るだろう。
「工業は?」
「誰もが認める発明を発表するぐらいだな」
カオリが理系に進んだら前世のノーベル賞的なものを取るような発明をするだろう。
「芸能は?」
「国際的な栄誉がある賞を日本人初で取るだな」
カオリはどちらかというと芸術家だけど、ゲームではこの世界のテーマソングを歌ってるんだし、世界の歌姫になっちゃうだろうな。
「武道は?」
「門下生1000人以上の流派の長になるぐらいだな」
「なるほど・・・」
カオリは暴力的な所は苦手だ。だけど俺やシオリがちょっと道場で学んだ事を教えただけで、型をマスターしてしまった。気持ちさえ強ければ流派を開くことだって出来そうだ。
「私はカオリと並ぶ事を目標にしています。カオリは政治家になれば女性初の総理大臣になり、起業すれば日本一の社長になり、発明家になれば世界で賞賛され、歌手になれば世界を席巻すると私は思っています」
「・・・そうか・・・」
そう、親分がいった事は、その一つの分野だけ、カオリに近づけと言うことだ。ただどれも新たに目指したら何年かかるか分からないものばかりだ。シオリは適齢期を過ぎてしまうだろう。ただ20代前半がピークと言われている水泳選手ならドンピシャだ。
「カオリは過去に誘拐されそうになった経験から、少し暴力的な所に弱く武道は不得手です。私はカオリの欠点といえばそれぐらいしか知りません」
「そうか・・・」
だからか、物凄い高い目標の筈なのに簡単に感じてしまった。カオリは目の前にあるのに手の届かない存在、華族になるは目に前に転がって来れば手が届く存在、そう思ってしまったのだ。
「2年後のオリンピックでは私は届かないと思っています。けれど6年後のオリンピックまでにはカオリに並ぼうと思っていました。カオリが金メダルを取るのなら私も金メダルを取らないとと思っていたんです」
「そうか・・・」
なんて無謀な挑戦をしているのだろうかと思うけれど、中学校の頃は、それぐらいにならなければカオリを振り向かせられないと思っていた。
「これを口にしたのは初めてです。言ってしまうと驕っている様に思われると考えたからです」
「あぁ、大言雑言に聞こえるな」
世界一になるのが目標なんて、今の俺の実績なら気が狂ってると思われても仕方ない。
「だから6年後、私がその目標を達成したら、宗像を下さい」
「田中は宗像が欲しいんだな?」
「はい、私には必要になります。カオリの婿で華族になるのではなく、自身の力でそれに足ると認められる必要があるんです」
自身の力で華族の当主になる事が出来るなら、カオリからサクラと付き合うようプレッシャーをかけられても臆する事はなくなる。むしろサクラを悲しませないために頑張ろうという気持ちがわき上がって来るのだ。
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