IF81話 男だし仕方ない

 家族旅行は4泊5日の行程で帰って来る事が出来た。

 3泊目は、冬場は鰤の水揚げが多いという港の近くの温泉宿に早めにチェックインしてゆったりと湯を堪能した。


 その翌日は、街まで途中休憩を挟みながら帰る予定だったけれど、連日の強行軍が祟ったためか、行きに寄る予定だったらしい三河県のウナギ屋で昼食を取ったあと、家に向けて走り始めたのだけれど、高速に乗ったあと、マサヨシさんが疲労のためか眠気が襲って来てしまっているとカオリから電話があり。権田の勧めで駿河県で降りて「安東」が経営するホテルに一泊し翌朝ゆっくりと帰る事になったからだ。


 ちなみに親父の会社には、権田が手を回して白川でマサヨシさんのブランド関係の仕事と、サクラエビの煎餅の商談をもぎ取って来たという仕事をしていたという根回したようで、親父に2日分の休暇の延長をもぎ取らせていた。

 そのため家族旅行から帰った翌日に行われたシオリの高校の入学式に、親父も参加する事が出来た。


 シオリの入学式の翌日、ロードワークから帰宅すると、シオリから「リュウタさんが、仲間と城址公園で花見をするから、お兄ちゃんも来て欲しいって」と言われた。シオリはユイと一緒に行くつもりらしく既に出かける準備を終えて俺を待っていた。


「ジュンにも連絡したのか?」

「うん、あとオルカさんにも連絡している。お兄ちゃんはカオリお姉ちゃんを誘うんでしょ?」

「そうだな」


 急な権田からの誘いではあったけれど、特に用事は無かったので行くことにした。


「権田から、城址公園で花見をしようって誘われたんだけど、カオリも来るか?」

「サクラも誘いましょう」

「今日は店番をしているんじゃないのか?」

「途中で寄って確認して誘うだけで良いのよ、全く声がかからなかったなんて後から聞いたら悲しいじゃない」

「なるほど・・・」

「支度するから少し時間を頂戴」

「俺もロードワークから帰って来たばかりでシャワーを浴びるから時間はあるぞ」

「じゃあ準備を終えたらミノルの家に行くわ」

「わかった」


 携帯電話でカオリに電話をして用件を伝えると、サクラを誘うように言われてしまった。


「カオリにサクラも呼ぼうって言われた」

「お兄ちゃん・・・」


 シオリは、既にカオリが俺にサクラとくっつけようとしていると勘づいていた。けれどシオリはサクラを応援しているからかそれ以上何も言わなかった。


△△△


 急いでシャワーを浴びて外向きの服に着替えたあと、カオリとシオリとユイが待っているリビングに入ると、3人はお袋と朝の連続テレビドラマの録画を見ながら、「ここ行った場所!」「本当だ!」「私達はここに行かなかったわね」と言いながら盛り上がっていた。そのため家を出るまで5分ほど待つ事になった。

 

 家を出てショッピング街を桃井生花店に向かって歩いていると、反対方向から新春学校別駅伝で同じ区間を走った須藤と、文芸部の古関が並んで歩いていた。「運命の人になってくれ」と発破をかけた記憶があるけれど、本当に出会って運命の人になってしまったのだろうか。


「あっ! 奇遇だね!」

「須藤・・・、マジで古関の運命の人になったのか?」

「えっ? もしかしてあの時田中君が言ってた知り合いって彼女なの?」

「あぁ・・・」


 今、須藤は古関の顔を見た後チラッと一瞬下に視線を落とした。やっぱり須藤はデカい胸が好きなようだ。男だし仕方ないというものだろう。


「それが偶然なんだよ。たまたま今日、僕のクラスメイトが強引に彼女をナンパしているところを見かけて制止したんだよ」

「なんだよその運命的な出会いは、もしかしてそのクラスメイトは須藤のサクラじゃ無いだろうな」

「そんな事はしないよ、本当に偶然なんだ」

「それなら良いが・・・」


 須藤は真面目そうなので、そんな事をしなそうだけど、そこまで深く知っているわけでは無い。古関はオルカの親友のようだし、須藤が変な奴じゃないか確認する必要があるだろう。


「あの・・・、田中君ってヨウタさんの知り合いなんですか?」

「あぁ・・・駅伝で同じコースを走った仲だよ、須藤が区間1位で俺が2位だったな」

「そっ・・・そうだったんだ・・・」


 何か既に名前呼びしてるし顔が真っ赤だし、完全に堕ちて無いか?「私も見に行けば良かった」と小声でつぶやいているし、完全に恋する乙女だぞ?


「田中君達はどこに行くの?」

「城址公園の花見に誘われてるんだよ」

「あっ! 良いねっ! ついて行って良い?」

「別に良いと思うけど・・・誘って来たのは少しガラが悪い連中だぞ?」

「ははは! ガラの悪い連中なんて、僕の通ってる学園にいっぱいいるよ。田中君の友達だし大丈夫でしょ?」

「それもそうか・・・」


 そのガラの悪いクラスメイトから古関を守って惚れられたんだったな。という事は須藤はクラスの中で、それなりに恐れられてる奴だったりするのか。


「もう1人誘いに行くから、ちょっと寄り道するぞ」

「うん了解」


 俺とカオリとシオリとユイの中に、須藤と古関という2人が加わり桃井生花店に向かった。


「いらっしゃいませ~・・・ってミノル!」

「あっ、今接客中か?それなら先にそっちを優先してくれ」


 桃井生花店の店内に入るとサクラは丁度接客中だった。俺達はお客様という訳ではないので、サクラには客の方を優先させた方が良いだろう。


「あれ?田中先輩?」

「秋山じゃないか、お前もうちの高校に合格したんだってな、おめでとう」

「はい、また後輩になりますからよろしくお願いします」

「うちの高校でも秋山の種目は層が厚いぞ」

「そうですか・・・でも水泳部に入ります」


 秋山は中学校の後輩で同じ水泳部に所属していた。不器用なタイプらしく、自由形以外は不得意だった。そして自由形もそんなに早い方では無く市の大会でも入賞をした事が無いぐらいだった。

 けれど秋山は練習にはきちんとついてくるし、多くの部員が毎日続く練習のきつさに嫌気がさして幽霊化するなか最後まで逃げなかった。


「秋山は花を買いに来たのか?」

「えぇ・・・母の月命日なので・・・」

「そうか・・・」


 秋山は約2年前にお袋さんを病で亡くしていた。去年も月命日にお墓にお参りにいっていると言っていたが、今でもずっと続けていたらしい。


「それにしても相変らず田中先輩の近くは綺麗な人が多いですね」

「おっ! なかなか良い目を持ってるじゃん」

「シオリを除いて・・・」

「ガーン!」


 調子に乗ったシオリを秋山が一刀両断にした。


「最近のシオリは綺麗になってきただろ」

「先輩は相変らずシスコンですね」

「普通だろ?」


 普段は紳士的な秋山だが、シオリに対しては結構辛らつだった。最初はシオリに気があってツンデレしているのかと思ったけれど、どうやら素でそう思っているという事が今では判明している。


「シオリも最近彼氏が出来たんだぞ?」

「えっ!? どこのもの好きが!? あっ! 田宮ですか!?」

「秋山君! さすがにちょっと酷くない!?」


 そう、こんな感じに話すので、シオリに気が無い事がまるわかりなのだ。


「姉妹校の生徒だな。結構良い所のおぼちゃんだぞ?」

「うわぁ・・・玉の輿狙いですか・・・ひくな~」

「違うの! 一目惚れしたの!」

「一目惚れでは無いだろ、確か2回目にあった時に惚れたんだろ?」

「何ですかそれ」

「リュウタさんは私を暴漢から助けてくれたのっ! 私を女の子として扱ってくれたのっ!」

「・・・まぁそういう事らしい」

「シオリを襲う暴漢って・・・どこの勇者ですか!?」

「一人はシオリに股間と顎を潰されたらしいな」

「襲い掛かってきたんだから仕方ないでしょ!?」

「うわぁ・・・」


 俺達の学校では、シオリが柔道で活躍していて、田宮の道場にも通って居る格闘少女というのは有名だったからな。秋山がそう思うのは仕方ないかもしれない。


「それで、私に何か用なの?」

「城址公園に花見に誘われたから、サクラもどうかと思って誘いに来たんだよ」

「お母さんが休憩で仮眠しているから、それが明ける20分後に交代出来るわ」

「そうか、じゃあ問題無かったら来てくれ」

「分かったわ」


 サクラは少し遅れて花見に来るらしい。


「秋山も来るか?」

「うーん・・・僕は母さんの所に寄ってから参加します。花見をしているのはどこら辺ですか?」

「管理事務所の近くらしい。俺達と同年代が結構大勢が参加しているらしいから分かるだろ」

「わかりました」


 誘われない事は寂しいという話をしたばかりだったので、なんとなく秋山も誘った結果、用事を終えたあとに合流する事になった。


「田中君の知り合いって綺麗な人ばかりだね」

「あぁ・・・でも特定の相手がいないのは古関だけだぞ?」

「男が放っておかないんだろうね」

「確かにそうかもな・・・」


 桃井生花店を出て歩いていると須藤が俺が連れている女性陣の見た目を賞賛した。シオリがウンウンと頷いているけれど、秋山の反応からするとシオリを好きになるのは物好きだって言われるらしいぞ?まぁ俺はどんなシオリでも可愛いと思うけどな。


「あぁ、こっちが俺の婚約者の綾瀬カオリだ、そしてこっちの頷いているのが俺の妹の田中シオリ、そしてシオリの友人の立花ユイだ」

「新年の駅伝で田中君と同じコースを走った須藤ヨウタです、宜しくお願いします」

「よろしくお願いするわ」

「よろしく~」

「よろしくお願いします」


 城址公園に行くと多くの花見客がいて宴会をしていた。マナーの悪い客が多いらしくゴミが結構散乱していた。


「おう! 来たか!」

「誘ってくれてありがとうな、見事に満開だな」

「あれ?権田君?」

「須藤じゃねぇか、なんだ田中の知り合いだったのか?」

「あぁ、須藤は権田と同じ学校だったな、顔見知りか?」

「権田君とはクラスメイトだよ」

「こいつはうちのクラスでも骨のある奴なんだ」

「そうか・・・」


 権田は存在感の塊で岩のような印象を持つ奴で、須郷は風のように軽い印象を持つ奴だ。随分と対照的な2人だけど気が合っているように見えた。

 権田が須藤を高く評価しているので、須藤が問題無い奴だと思って良いだろう。須藤がサクラを使うような悪人と考える必要無いなと思い、警戒する事をやめる事にした。


「権田君と田中君の共通点が分からないんだけど」

「え~っと・・・どういう関係って言えば良いか?」

「田中は将来の俺の義兄だな」

「義兄?」

「あー・・・権田はシオリの彼氏なんだよ、つまり権田とシオリが結婚すれば俺と権田は義理の兄弟になる訳だ」

「なるほど・・・」


 権田の発言を聞いてシオリが口に手を当てて感動したような表情をしていた。もしかして権田はシオリにはっきりとした態度を示していないのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る