IF80話 運命的な相手(立花視点)
冬休みは寮から家に帰ったが、とても居心地が悪かった。
ユイちゃんは俺を避けるように友達の家に泊まりにいってしまっているらしくずっといなかったし、義父は空気のように俺を無視していたからだ。だから春休みは家に帰らず寮にいた。こっちで自由にしていた方がずっと気楽だからだ。
「立花君、また遊ぼうよ」
「良く金が続くな」
「親が成金だからね」
「奢ってくれるなら行くがよ」
クリスマスイブの夜にゲーセンで出会い、夜の遊び方を少しだけ教えた小林は、すっかりパチンコと風俗にハマってしまった。そして妙に懐いている。
俺の事を「ガリ勉」とは呼ばなくなったし、春休みの間暇なのか、寮の俺の部屋に良く遊びに来る。
ただこうやって夜の街にも誘って来るけれど、あの日のようにパチンコで大勝ちする事は滅多にない。この世界は釘が甘い台が良く見つかり、設定も緩いようで、結構当たりは引ける。スロットも俺の目押し技がちゃんと通用している。それでもやはりギャンブルなだけあって、勝てそうな台を選んでもトータル的には若干プラスの収支程度におさまってしまう。最近は小林に付き合って散財気味だったので、今日は付き合う金が残っていなかった。
「うーん・・・」
いくら成金の親を持つ小林でも、俺と同じように散財していたので2人分を払うのには抵抗がある状態のようだ。小林はパチンコでの勝率が低い。甘い台の見極めも出来ないし、引き時が分からねぇのか粘着して大負けする。たまに大勝ちするけど、それでもかなりマイナスになっている筈だ。
それにしても不動産というのはかなり儲けるものらしい。前世で、土地は相続税やら固定資産税やらで面倒臭いものと言っている奴がいたし、相続放棄されて放置された屋敷が不気味で危険だとかいう話も聞いた事があったので、何でそんな厄介なものを売り買いするんだと思っていた。
まぁ今の日本は好景気だと言うし、意味もなく高く買う奴でも見つけて売ったりするのだろう。前世でもネットで転売して儲けてる奴がいたからな。
「最近、ちょっとマンネリ化しているから別の遊びを教えてよ」
「奢ってくれるのか?」
「うん良いよ」
「じゃあ行こうぜ」
あか抜けた小林は見た目が良くなっていた。街に出てナンパしても成功するんじゃないかと思う。そして金を持っていると知れば、女なんていくらでも股を開いてくれるもんだ。女を抱いて自信をつけている小林なら挙動不審になる事も無いだろうし大丈夫だろう。俺もそろそろ素人童貞を卒業したいと思っているので、ナンパに挑戦してみてもいいんじゃないかと思うのだ。
△△△
「とりあえず数多く声かける事が重要だ、断られても次の女がいるんだし気にするな」
「うん」
「狙いは少しボサッたい女だな、メガネをかけているとか、猫背だとか、ちょっと男に縁が無さそうな感じだ。軽そうな女を狙っても良いけど、ああいうのは声をかけられる事に慣れてやがるから、ダメな時はすぐに引け、粘着してもあしらわれるだけだからな」
「分かった」
俺と小林は昼間のショッピング街にナンパするために向かった。小林と出かける時は夕方からが多かったけど、今日はナンパが目的なので昼前だ。別にホテルでベッドインするまで行かなくても良い。連絡先を聞くだけでも充分だ。それなら健全と思われる日中が良い。何度か電話に誘うとまた来る奴がたまにいる。そういう奴は脈ありだと考えて夕方以降に誘ってみるのが良いだろう。それに来ればもうOKだと思っても良いはずだ。
俺は前世で何回かナンパに成功した事があり、2回目のデートぐらいまではした事がある。その際に小林に説明したタイプの女が次も来ることが多かった。ホテルまで行った事は無いけれど軍資金さえあれば、相手の気を引く手段も多く取れるしイケる気がしている。
ただし、派手で遊んでそうな女をナンパしてそいつの彼氏にボコられて、しかも学校にまで押しかけられてしまった事は未だに俺のトラウマになっている。こっちで同じ目にあったらたまらない。狙うならボサったい女だ。
「あの子なんてどうかな?」
「あん?あいつか?」
小林が指さす方を見ると歩いているのは、ゲームヒロインの古関だった。文芸部に所属してかなり卑猥な作品を文化祭で出品するという描写があるのでムッツリスケベだと言われていた。確かにボサったい黒縁のメガネをかけていて下を向いて歩いているので条件にあう。
古関はゲームヒロインなだけあって顔立ちは整っていて綺麗だ。しかも巨乳で俺の趣味にもあう。ただ根暗っぽい所がちょっと好きになれず、ゲームで攻略している時はなんか乗れなかった。ただこうやってリアルで見るとそんな事は構わないと思うぐらいいい女だった。
田中が綾瀬狙いなので、古関は当然フリーだろう。ゲームでは古関は運命的な出会いを求めているという描写もあったので、それを使って引っかけられないか考える事にした。
「・・・あいつは前の学校で一緒だった奴だ」
「そうなの?」
「あぁ、それでああボサったく見えるが、ムッツリスケベで運命的な出会いを求めているという奴だ」
「ムッツリスケベ・・・」
「俺がしつこく絡むから、少し時間を空けて小林が助けに来いよ、俺は小林に怖気づいて逃げたってフリするからよ。そうしたらあいつは小林の事を運命の相手だって思うかもしれないぞ?」
「運命の相手・・・」
俺がものにしたい所だけど、ゲームでは古関はユイと仲が良いという設定があった。今は知り合っていなくても、学校で俺の噂が出回り醜態を知っている可能性は高い。俺がナンパ出来る可能性は限りなく低いだろう。
「あいつは顔立ちは整っているし胸はあの通りデカい。今はボサったいがこれから自分好みにしてやるっていうのも悪くねぇかもな」
小林がゴクリと唾を飲み込む音が聞えた。ロリコン趣味な小林でも、デカい胸は好きみたいだな。
「良ければ行くぞ?」
「う・・・うん」
俺は小林から離れて古関に近づいていった。
「よう、俺と遊ばねぇか?」
「えっ?」
「遊ぼうと言ってるんだよ」
「あなた・・・ユイさんのお兄さんね?」
「何だ知っているのかよ」
「えぇ・・・」
まだユイちゃんは高校の入学前で、古関とは知り合ってねぇと思うんだが、どういう繋がりがあるのか、ユイちゃんの事を知っているらしい。何か嫌そうな顔をされているので、俺の醜態も知られているのだろう。ただ、俺は絡む方の役だしむしろ好都合って事だ。
「それで遊ぼうぜ」
「お断りするわ」
「いいじゃねぇかよ」
「ちょっと腕を掴まないでっ!」
おっ! 良い感じに抵抗するじゃねぇか、ここで颯爽と小林が登場すれば運命の相手になれるんじゃねぇのか?
「その手を離しなよ」
「誰だ!?」
小林のつもりで振り返ったら、そこにいたのは別の奴だった。
「女性に無理やりっていうのは良くないよ」
「お前誰だよっ!」
小林はどこに行った?
「同じクラスの須藤だけど・・・、立花君見覚えない?」
「げっ!」
良く見たら陸上部の須藤だった。私服なのでクラスで見る時と印象が違っていて分からなかった。
須藤は、どちらかというと陽キャでクラスカーストでも上位に位置している奴だ。番長とも良く話している。寮でもガタイの良い上級生とも親しげに話している。カースト最下位の俺や川上が抗える相手では決してない。
「それで彼女を離さないの」
「はっ・・・離すよっ」
クラスカーストの上位と揉めて良い事なんて無いからな。
「あっ・・・小林君と遊びに来てたんだね。余り女性に無理な事をしちゃダメだよ?」
「分かったよ」
「うん・・・」
小林! 来るのがおせぇよ! 何で須藤に譲ってんだよっ!
「君大丈夫だった?」
「はいっ!」
おいおい古関の顔が真っ赤だぞ、どう考えても須藤が運命の人になってるじゃねぇか!
「それは良かった、僕は行くけど気を付けてね」
「あの・・・お名前を・・・」
「須藤ヨウタだよ」
「ヨウタさん・・・」
うわ~、古関がテンプレ通りの助けられたヒロインムーブしてやがる。
「まだ怖いのでついて来て貰っても良いですか?」
「僕は彼らと同じ高校のクラスメイトだけど平気なの?」
「ヨウタさんなら平気ですっ!」
「そう・・・どこに行く予定なの?」
「本屋です、丹波書店ですけど・・・」
「なんだ、すぐ近くだね」
そう言いながら古関と須藤は俺達の前から去っていった。
「・・・完全に須藤に取られたな」
「運命的な出会いって感じだね・・・」
「本当はお前がなる予定だったんだぞ!」
「仕方ないだろ!? タイミングが良く分からなかったし、そろそろ行こうと思ったら、須藤君に後ろから追い抜かれちゃったんだから!」
「くそぅ!」
足のはええ奴は女に手を出すのも早いのかよ。
「別の人狙う?」
「何か萎えたな・・・」
「うん・・・」
「面倒な事を抜きにパーッと発散したい気分だぜ」
「でもまだ昼前だよ?」
「風呂屋はやってるよ、主婦とかが旦那が働きに出てる時に客待ちしてたりすんだよ」
経産婦は尻や胸が柔らかくて結構好きなんだ。前世よりモノがデカいから、少し緩い女の方が具合が良いみたいだしよ。
「そうなんだ!」
「おっ!? もしかして小林って人妻とかに燃える感じか?」
童顔で小柄な女を指名する事が多いから、ロリコンだと思ってたぞ。
「そっ・・・そうじゃ無いよっ! 今日はいつもと違う事がしたかったんだよっ! ほらマンネリ化してるって言ってたでしょ!?」
「そういう事にしといてやるよ!」
おーおー、動揺しちゃって、好きなのがバレバレなんだよ。分かるよ、他人のものを奪うっていうのは快感だもんな。
俺もババアなのは嫌だけど、人妻を抱くのは好きなんだ。特に若妻タイプだと超燃えんだよな。
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