IF68話 大吉(サクラ視点)
私には好きな男の子がいる。カオリの幼馴染のミノルだ。
カオリの幼馴染のミノル・・・というのは少し間違っている表現だ。厳密に言えば私とミノルも幼馴染だからだ。けれど私はミノルを長い間自身の幼馴染だと認識して来なかったため、カオリの幼馴染という表現の方がしっくり来るのだ。
私とカオリと出会った理由は、私の実家の花屋と、カオリの両親が経営している呉服店と着物の着付け教室がある建物が近く、元々家族同士で面識があった事から始まった。
着付け教室のお客様は、生け花や茶道やガーデニングなど、花を愛でる感性を持つ人が多く、着付け教室に行く前に花屋で注文をし、帰りに受け取って帰る人が多くいた。その結果、自然とお互いの母親同士の知り合いが重なりあっていた。
私が物心ついた時は、カオリの母親であるハルカおばさんは、時々仕事帰りにカオリを抱っこしながら私の実家の店にやって来て、花の苗の注文や配達を依頼する常連様だった。同じ年の娘がいるという共通点から、育児の悩みを相談しあっていて、店内で花をそっちのけで話し込んでいる事もあり、自然と私とカオリも仲良くなっていった。
カオリは同性である私が見てもとても綺麗な子だった。8分の1英国人の血が入っているそうで、髪はアッシュ系の淡い色で、瞳は少し青みがかっていて、肌は白く、彫りが少し深い顔立ちをしていた。
手足もスラッと長く言葉も綺麗で、私はカオリを絵本に出てくる外国のお姫様みたいだと思っていた。
私の髪は北欧系の血を引く樺太県人であった曾祖母の影響もあり、ウェーブのかかった栗色の髪をしていて、目も緑がかっている。だから黒目黒髪ばかりの近所の子供達と違い、私とカオリだけが違う色を持つ特別な存在の仲間だと思っていた。
幼稚園に入ったあたりで、私は同じ商店街の友達の家に1人で遊びに行くという事を覚えた。そしてそれと同時に、カオリの家に配達に行くお父さんについていく事でカオリの家にあがるようになり、そのうち近所に住むショッピング街仲間のチエリと一緒に歩いてカオリの家に行くようになった。
そのカオリの家に行くと高頻度で顔を見せるのがミノルだった。
ミノルは黒髪黒目のどこにでもいる普通の男の子だった。だから、その頃の私はミノルの事をカオリの隣にいるだけの存在としか認識しておらず、私は殆どカオリにしか話しかけなかった。
カオリとミノルの2人と同じ小学校に入学したけれど、4年生までカオリとミノルの2人と同じクラスにはならなかったので、一緒に遊ぶ事の多いカオリと違い、ミノルに対しての認識は変わらなかった。
こんな感じに、私とミノルと幼い頃に出会ってはいたけれど、私はずっと幼馴染とは認識して来なかった。だからミノルを私の幼馴染という表現には違和感を持ってしまうのだ。
私と違い、カオリは私と出会う以前から、ミノルの事が大好きだった。
私がカオリの家に初めて遊びに行った日、カオリはミノルの妹である1つ年下のシオリと、ミノルを取り合って腕の引っ張り合いをしていたぐらいだ。
カオリとミノルは家が隣同士で、シオリも含めて三兄妹のようだった。学校の登下校も一緒、英会話教室も一緒、スイミングも一緒、休日に何をしていたのかとカオリに聞くと、ミノルとシオリの3人で遊んでいたと言われる事が殆どだった。
ミノルとカオリは学校のテストでいつも満点を取っていた。九九も先生から教えられた日にすでに一の段から九の段まで知っていたし、漢字も学校で習った事の無いものまで読み書き出来ていた。
私なんかよりずっと先を歩いている2人に劣等感を感じるようになり、私は段々とカオリに距離を置くようになってしまった。そして段々とカオリの家に遊びに行かなくなってしまい、チエリにカオリの家に遊びに行こうと誘われても断るようになってしまった。
ミノルを初めて特別な存在だと認識したのは小学校4年生の夏休みの少し前だった。
その頃、クラスの男の子たちの中でスカートめくりがとても流行っていた。4年生の時に別の小学校から転校して来た男の子がその悪戯をクラスの男の子達に教えてしまったからだ。そして、それが段々とエスカレートしていき、プールの授業で着替えている時に、体を隠しているタオルをズラして裸を見始める男の子も出だしていた。
当時の私は、とても小柄で、どもり癖があって、うまく言い返せない子供だった。だから加虐心を持つ子に特に狙われてしまっていた。
ある日の給食後の昼休みの時間、私はクラスメイトの男の子に集団で囲まれスカートめくりをされ続けた。逃げようとしても男の子達の真ん中に突き飛ばされて、嫌だと言ってもやめてくれなかった。友達だと思っていた同じクラスの女の子達も私が嫌がる様子を見て笑っていて助けてくれなかった。
私は恥ずかしくて男の子の目が気持ち悪くて、クラスの女の子達も同じように見えてきて、視界がぐるぐる回って泣きだしてしまった。
そんな時に隣のクラスにいたミノルが私のクラスにやって来て、泣いている私の前に立ちふさがり庇ってくれた。男の子達に「隣のクラスの奴が来るな」とか、「弱い女の味方」言われながら叩かれても一歩も退かず、「女の子は守るものだ!」と雄叫びをあげて、男の子達を私に近づけさせなかった。
ミノルは田宮の道場に通い出していた事もあった事もあり、喧嘩が強い男の子だった。
本気になってミノルを叩き始めた男の子を突き飛ばし、コロコロと転がし、ひっくり返したりしながらどんどん制圧していった。休み時間が終わり担任だった女教師が戻って来るまでミノルがそれをし続けたので、その日の私は、それ以上スカートめくりをされる事は無かった。
その翌日のプールの授業の前の休み時間、嫌がる私のタオルをはぎ取ろうと、多くの男の子たちに囲まれた。けれどまたすぐにミノルがやって来て立ちふさがって助けてくれた。どんなに罵声を浴びようがミノルは一歩も引かなかったし、叩いて来た男の子は、面白いように転がっていった。そんなミノルは私にとって世界で1番カッコいい王子様だった。
クラスの男の子はミノルが教室に入って来るのを嫌がった。そのため次の日の昼休みに教室の扉を内側から施錠して私のスカートめくりを始めた。
けれどミノルには関係無かった。私が泣きながら助けてと言ったら、扉に体当たりして鍵を壊して入ってきたのだ。クラスの男の子は扉を壊したミノルを責めた。だけどミノルは「だから何だ!」と怒鳴り、クラスの男子を転がして私の前で立ち塞がってくれた。
その日、担任の女教師は珍しく、昼休みが終わる前に教室に戻って来た。そしてミノルを糾弾するクラスの男子に同調して、ミノルが扉を壊した事をヒステリックに責めだした。
ミノルは、「一人の女の子が集団で男の子にイジメられているのを放置した無能教師! それを放置しておいて扉が壊れた程度で叫ぶあんたは扉相手に教育すればいい!」と言って私の手を引いて自分のクラスに連れ出した。
その行動はすぐに問題となってしまったようで、私とミノルはミノルのクラスの担任に呼ばれて校長室に連れていかれた。
校長は、私とミノルをギロっとした目で見て来て私はこわくなって震えてしまったけれど、ミノルは私の手を握って「大丈夫だよ」と言ってくれた。
校長に睨まれながら立たされている校長室に、教頭と女教師と共にミノルの両親が入って来た。
最初に、教頭がミノルが格闘術で子供達を投げ飛ばした事を責め、続いて女教師は教室の扉を破壊したうえ自分を侮辱したとヒステリックに叫んだ。校長が全校集会でミノルに女教師と子供達に謝罪をしなさいと言った。
私はそこがとても怖くて、ブルブルと震えて涙が出て来てしまった。ミノルは「こいつら本当に教師かよ・・・」と呟き、私の手を握って励ましてくれた。
ミノルのお父さんは、その様子をしばらく見た後、「何だこいつら」と呟き、教師達を無視してミノルに「何があった」と聞いた。
無視された教師たちは顔が真っ赤になり激昂したけれど、ミノルのお父さんは「しゃあしかばい」と言うだけだった。
ミノルは、ミノルのお父さんに、私が教室内でクラスの男子に囲まれてスカートを捲られ続けて泣いていたこと、昨日は裸にひん剥かれて泣いていたこと、今日は教室を施錠して私を虐めていたこと、私を助けるために扉を破壊して教室に侵入したこと、女教師がそんな状態にあるクラスを長い間放置し続けたばかりか、クラスの男の子達に同調してミノルを責めたこと、ミノルが震える私をクラスから連れ出して守ろうとしたことを冷静に話した。
ミノルのお父さんはそれを聞き、「良く女の子を守った!」と学校中に響き渡るような大きな声で叫び、校長を憤怒の顔で睨みつけた。そして学校の姿勢を糾弾し始めた。
校長は青い顔をして腰を抜かし、教頭は右往左往し、女教師は泡を吹いて倒れた。
ミノルのお母さんは「辛かったわね」と言って私を抱きしめてくれた。
ミノルのお父さんは王様のように頼もしく、お母さんも聖母のように優しい人だった。
ミノルのお父さんとお母さんは、そのまま情けない状態の教師たちを無視して、私とミノルを連れて校長室を出ると、そのまま私を家に送ってくれた。
翌日、珍しく家に泊まりに来た桃爺ちゃんの車に乗って学校に向かった。桜爺ちゃんがもう大丈夫だと言ってくれたし、私もミノルにとても会いたかったから勇気を出して車に乗った。
教室に行くと女教師は休んでいて拍子抜けした。ミノルの家族は学校に勝ったのだと思った。
私は女教室が来ないため騒いでいるクラスメイトと一緒にいるのが嫌だったので、休み時間になるとすぐにミノルの教室に行った。休み時間の終わりのチャイムが鳴った時に「戻りたくない」と言ったら、ミノルは「こっちにいたらいいよ」と言って笑ってくれた。
その日から、私はミノルのいる隣のクラスに居座るようになった。クラスの男の子がわざわざやって来て私を責める様な事を言うけれど、ミノルが睨みつけると悲鳴をあげて逃げて行った。
ミノルがトイレに行っている間などの隙に狙ったようにやってくる男の子がいたけれど、その子もミノルが戻って来ると急いで逃げて行った。私が学校で安心する場所はミノルの近くしか無いんだと思った。
ミノルのクラスの担任は私の存在を無視し続けた、だけどミノルと同じクラスにいたカオリとチエリが2つの机とくっつけてくれ、椅子も半分ずつ分けてくれて3人並んで座って授業を受けられるようにしてくれた。学校中で流行り続けているスカートめくりも、ミノルが睨みを利かせているためか、ミノル達のクラスでは全く流行っていなかった。
その事を大きな問題にしたくなかったのか、5年生と6年生に上がった時に私はミノルと同じクラスになった。担任も優しいおじいちゃん先生になり、ミノルのほか、カオリとチエリも一緒にいたので卒業までの2年間は、それまでの4年間よりずっと楽しかった。
小学校では男の子3名、女の子3名の6人で班を作っていた。私は、ミノルとカオリとチエリと、高校で姉妹校に行った郡司君と塚本くんと同じ班であり続けた。
ミノルは、郡司くんと塚本くんの3人でパソコンの話をしている事が多かった。何でも郡司くんの家にパソコンがあって塚本くんと一緒に触らせて貰いに行っているのだそうだ。
ミノルはこれからはパソコンの時代だから使いこなせるようになりたいと言っていた。ただパソコンは子供が持つには高額で、お小遣いでは買えないものなので、小遣いを使わず貯金をしていると言っていた。
私はお小遣いをすぐに使ってしまっていたのでミノルは凄いなと思った。
私は、ミノルに対する思いは恋だとすぐに気が付いた。当時、私の趣味は演劇鑑賞で、見たものの中には恋の話も多かったため、少しおマセさんだったのだ。
けれどミノルとカオリは、私が入り込む隙間が無いと思うほど相思相愛だった。私は小学5年生にして失恋したことを自覚した。何故なら恋を題材にした演劇には失恋を題材にしているものが多く、それを良く知っていたからだ。
ミノルは小学校6年生の時にカオリを誘拐犯から助けた。誘拐犯は複数人の大人だったらしい。ミノルは私を虐めた男の子達から守った様に、大人たちに立ち向かってカオリを守り通したのだ。
ただミノルは頭を怪我して入院してしまった。お見舞いに行った時にミノルは頭に包帯を巻いたまま眠っていた。カオリは学校に来ていたけれど目の周りを腫らせていた。私の知らないところで泣いていているのだと思う。
私は、私が泣いていた時に助けてくれたミノルを思い出し、今度は私がミノルを助ける番だと思って泣く事はしなかった。だけど出来る事は神頼みぐらいなので、学校が終わると神社に行きミノルが元気になるようにお祈りをした。神社の祈る所と鳥居の間を100回往復して参りすると願いが叶うと聞いたのでそれをした。ただ当時の私は体力が無かったので1日に10回往復するだけで足がプルプル震えて階段が登れなくなってしまった。
私の祈りが通じたのか、合計で100回のお参りが出来た翌日にミノルが目を覚ましたという話をカオリから聞いた。そしてその言葉の通りに病院に行くとミノルが笑顔で私を迎えてくれた。
私はミノルのためにもっと色々したかった。何か出来ないかと考えた結果、私が花屋を手伝ってお駄賃を貰えるように、ミノルにも店の手伝いをして貰ってお駄賃を貰えたら良いと思った。
お母さんは少し考えたあとにお爺ちゃん達に電話をしてくれ、ミノルをお爺ちゃん達の仕事を手伝う事でお金を貰えるようにしてくれた。
私は時々ミノルが働いている所を見に行った。ミノルはとても一生懸命に働いていた。自分の目標の為に懸命に働くミノルはとてもカッコいいと思った。
私は中学校で演劇部に入った。発声練習を続けたおかげで、声がハキハキ出るようになってどもり癖が無くなった。背も急に伸びて体が大人に近づいていって、みんなに可愛いと言われるようになった。自分を特別な色を持つ特別な存在だと思っていた昔のように自信を取り戻していた。私は演劇にのめり込むと共に、将来は女優になりたいと思うようになった。
ある日、ダンサーを目指す少女を主人公にした映画を見て感動した。その中で、その少女のライバル的な先輩ダンサーが、芸は見て盗ものだと言っていた。だから私はすごい演劇をもっと見たいと思うようになった。
けれどすごい演劇のチケットは高かった。だからもっとお小遣いが欲しかった。その結果、私はお店の手伝いを増やす代わりにお駄賃も増やして貰えるようにお願いした。
ある日、私が休み時間、有名な劇団のパンフレットを見ているのをミノルに見られた。その時、丁度開いていたのはハンサムな劇団員の紹介ページだった。
ミノルは「やっぱサクラは美形が好きなんだな」言った。私は私を失恋さたミノルのその言葉にかなりイラっとしてしまった。だから、「当たり前でしょ?ミノルみたいな不細工よりずっと良いわよっ!」と言ってしまった。
ミノルは怒ることなく「サクラらしいな」と言ってその言葉に納得していた。
「全然私らしくないよ、私はミノルが好きなの」、そう叫びたかったけど、カオリの顔がチラついて出来なかった。
ミノルは高校生になった今でも週に1回、桜お爺ちゃんか桃お爺ちゃんの仕事を手伝うバイトを続けている。そして夏休みなどの長期休みは3日に1回の頻度で働いている。パソコンは既に手に入れたそうだけど、将来の為にお金は貯めておきたいと言ってた。
お爺ちゃん達は真面目なミノルを気に入っていた。特に桜お爺ちゃんには私しか孫がいないため、私とミノルが結婚して会社を継いで欲しいと思っているようだった。
中学校2年生の夏休み、私がこの世に生を受けた日に桜お爺ちゃんが植えたという城址公園の桜の手入れをすると聞いていたので、私は桜お爺ちゃんとミノルにお茶と桜餅の差し入れを持っていった。
私が行くと2人は手を止めて休憩を始めた。ミノルは青々とした葉っぱを茂らせる桜を見上げてお茶を飲みながら、「綺麗な桜の木だね」と言った。
それに対する返事なのか、突然桜お爺ちゃんが「将来、サクラを貰ってくれんかのぉ・・・」と呟いた。しかしミノルは返事に困っていた。ミノルが好きなのはずっとカオリだったので返事が出来なかったのだ。
私はお爺ちゃんのその言葉に、口に入れていた桜餅を喉に詰まらせた。咳き込みながら涙を流しながらも何とか吐き出せたのでそこまで苦しい思いはしなかったけれど、ミノルの困った顔を思い出して涙が溢れて来てとても悲しくなった。だからか「こんな不細工は嫌よっ!」と心にも無い事を叫んでしまっていた。
ミノルは「うん、サクラは面食いだもんな」と言いながら私の背中を擦っていた。ミノルの方を見ると私に「お茶を飲んで」と言って私に差し出した。私がそれを受け取るとミノルはホッとした顔をして笑った。私はそれがさらに悔しくてとても悲しかった。
それ以来、私はミノルに対してそっけない態度を取る様になってしまった。私がそんな態度をするようになっても、ミノルは特に私に対する態度を変えなかった。ミノルは私に女性としての興味が無いので私がどんな態度をしてもどうでも良いのだと思った。
ミノルにベッタリする事が無くなった事で、ミノルとカオリを外から見れる様になった。その結果、ミノルとカオリの間に昔より距離がある事に気が付いた。
なぜそうなっているのか理由は全然分からなかった。ただ私はチャンスだと思ってミノルにアプローチを始めた。ただ私は素直な性格じゃ無かった。恥ずかしくてそっけない態度からうまく変える事が出来ず、かなり不器用になってしまった。女優になる事を目指しているのに何故かミノルの前だけ素直な自分を演じる事が出来なかった。
チエリから、「もっと素直になりなよ」と言われたけれど、なかなかうまく出来なかった。分かっているのに変えられなくてもどかしかった。だけどカオリとミノルの距離はどんどん離れていっていた。自分なりにアピールしていたので、ミノルはいつか私の気持ちに気が付いてくれると思っていた。チエリだって気が付いたのだから、当事者であるミノルならすぐに気がつく筈だからだ。
私は少しづつアプローチを増やしていった。私の頭では入るのが難しかったミノルの志望校の高校も、知り合いの中でカオリの次に頭が良いチエリに教わりながら頑張り、苦手を克服して合格した。
高校に入るとミノルとカオリの心の距離がさらに離れていった。
そして高校1年生の夏休みの日に、私のアプローチに対してミノルが始めて反応したのを感じた。私に花冠を選んだあと、私が照れた態度をしたらミノルが戸惑った表情を見せたのだ。
私は勝利を感じ始めていた。後はゆっくりと距離を縮めていけばいいと思っていた。それなのにミノルとカオリは夏休み開けたしばらくあとに婚約した。そしてその日からミノルとカオリの間に感じていた距離が嘘のように無くなっていた。
私は2人が婚約したと知った日に、体調不良を理由に学校を早退し、家で泣き続けた。朝起きると本当に微熱があってさらに3日寝込んだ。
声がガラガラになり文化祭が近いのに練習の追い込みが出来なかった事もあり、演目でドジってしまった。幸い私は端役で、先輩たちがフォローしてくれたので事なきを得たけど、とても情けないと思った。
神様は私よりカオリが好きなんだと思った。カオリは神社で必ず大吉を引くのに、私は神社で大吉を引いた事が一度も無かったからだ。
私の気持ちに気が付かないミノルと、ミノルを手に入れたカオリが憎くて仕方無かった。
正月に、神様に文句を言おうと神社に行こうとしたら、ミノルとカオリに出くわした。新年早々見せつけてくれるなんて神様は本当に私が嫌いなんだと思った。
カオリから、ハルカおばさんが病気をした事で苦しんでいて、それをミノルに慰められてミノルしかいないと思ったのだと聞いた。
そんなのズルい、私はミノルしかいないと思い続けていた。なのに何でミノルがカオリを選ぶの?
商店街や神社でカオリと痴話げんかのようなものをしたあと、私はカオリの家に泊まった。そして、その日にお互いの気持ちをぶつけあった。
私が「ミノルじゃないと幸せになれない私はどうしたら良いの?」と泣きながらカオリに問いかける私に、カオリは私を強く私を抱きしめて「何とかするわ」と言った。そのあとパソコンに向かい色々と調べ始めた。
カオリの家のパソコンは電話回線に繋がっていて、世界中から最新の世界の事を調べられるようになっていた。日本では、まだそれがあまり普及していないけれど、海外ではとても発達していて色んなことを調べられるんだそうだ。
カオリは外国語で書かれた文章をいっぱい読んでいた。そしてカオリはお互いが幸せになる方法をいくつか提案し出した。
私はそんなカオリを見て、ミノルが英語を勉強していたり、パソコンを買いたいと言っていた理由が分かった気がした。パソコンを使えると、世界はこんなに広がるのだと目の前で見せつけられたからだ。
私は翌朝、カオリの家から帰る途中で神社に行き、拝殿で「騒いでごめなさい」と謝罪した、そして少し気になりおみくじを引いてみた。
結果は生まれて初めての大吉を引いた。恋愛に「すぐ叶う」、待ち人に「すぐに来る」、そう書かれていた。素直になった私に神様が微笑んでくれたのだと私は感じた。だからもう一度拝殿に行って神様に「ありがとう」と感謝を伝えた。
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