IF56話 最高の体験(立花視点)
「チッ・・・どいつもこいつも浮かれやがって、マジでリア充死ね」
寮の奴らがクリスマスイブだからとバカ騒ぎをしていてあまりに煩かったので、外に出たのだが、街もクリスマスイブで浮かれていて、1人で出歩いている俺には居心地が悪かった。
駅前のイルミネーションの方に行くと、水辺と、クラスメイトだった依田がカップルのように寄り添って見てやがった。
なんだ、水辺の奴は田中じゃなく別の奴がいたのかよ。なんかムカついて後ろからドツきたい気分だったけど、股間がキュッとなって腹が痛くなっちまったので苛つきながら立ち去る事しかできなかった。
パチンコ屋にでも入って暇つぶししたかったけれど、月末で小遣いが3000円を切っていて軍資金には足りなすぎた。
「お袋も前倒しでくれよなっ!」
今日、「年越しの日はユイちゃんいないから家に来なさい」と言って、多分クリスマスプレゼントだと思われる5000円分の図書券を置いていったお袋だが、早めに小遣いをくれたりはしなかった。
仕方なしにショッピング街の方にあるゲーセンに向かって歩いていたら、田中と綾瀬がカップルのように寄り添ってこちらの方に歩いて来やがった。
ゲームではかなり好感度が高いヒロインとクリスマスにデートが可能だった。綾瀬は高難易度のヒロインなのでチートなあだ名でも使わない限り1年目からデートをするのが難しかった。
田中の奴はあだ名が「コアラッコ」だったりしねぇだろうな。そうじゃなきゃ色々おかしいだろ。
こいつらにも何か嫌がらせをしてやりたかったけれど、田中がすごく強いのをこの前見ちまったから手を出す事は出来なかった。股間もズキズキ痛くなってくるので、そちらも見送る事しか出来なかった。
ゲーセンの中に入ると、プリント機やUFOキャッチャーとメダルコーナーにカップがいたけれど、俺と同じように男1人で遊んいる奴も多くいた。なんかやっと同類にあったようで少し居心地が良くなった。
俺は結構音ゲーやダンスゲーが得意だった。「俺の美技に酔いな」と思いながら。早速財布の中の小銭をマシンに投入して高い音量で流れるリズムにのって俺はステップを踏み出した。
△△△
「ガリ勉・・・上手だね・・・」
「上杉か・・・何だよ文句あんのかよ」
「いや特にないけど・・・」
ちっ・・・嫌な奴に会っちまった。
上杉は俺が転校した当初、番長にビビった俺に「腰抜け」というあだ名をつけ、あまり周囲に広がらなかったからか、中間テストの後に「ガリ勉」とつけて来やがった奴だ。
「ガリ勉」は定着し、クラスの男子のほぼ全員が俺を「ガリ勉」と呼ぶようになっている。
そんな上杉だが、俺が番長に睨まれるようになった頃からあまり関わって来なくなった。
そうなってからクラスを観察すると、上杉の奴は所謂クラスのカースト最下位だった。俺を自分より下だと思って調子に乗り関わって来ただけで、実際は俺よりも陰気なクズ野郎だった。
「なんだよクリスマスイブだっていうのにゲーセンかよ」
「がっ・・・ガリ勉だってそうだろ?」
「まぁそうだがよ・・・」
ちっ・・・自爆だったか・・・。
「じゃあな」
「まっ・・・待ってよ」
「何だよ?」
「僕と遊ぼうよ・・・」
「何だよ気持ち悪ぃな」
「一人だとつまらないだろ?」
「まぁそうだがよ・・・」
だからってこんな陰気な奴と遊びたいとは思わねぇぞ。
「金ならあるよ」
「いくらだよ」
「三万円・・・・」
「はっ?随分と金持ちだなっ!」
「小遣いだけは多いんだよ・・・」
「金持ちかよ」
「親が成金なんだ・・・、優秀な兄貴と違って僕は味噌っかす扱いだけどね・・・」
「そうかよ・・・」
金があんなら色々遊べるな。それなら上杉と遊んでも良いかもしれねぇ。
「じゃあパチンコ行こうぜ」
「えっ?18歳未満は駄目だよ!?」
「はっ! 俺たちあんな高校通ってんだぞ?パチンコぐらいみんな行ってるよ」
「そっ・・・そうなの?」
なんだ、上杉の奴って箱入りか何かか?
「ほら行こうぜ」
「まっ・・・まってよ、メダル預けて来るからさ」
「金持ちの癖にみみっちいな、その辺に置いとけよ、誰かが勝手に拾って遊ぶだろ?」
「わっ・・・わかったよ・・・」
どうせ容器一杯のメダルでも1000円程度だろ?成金ならもっと豪快にいけよな。
△△△
「パチンコって楽しいねぇ!」
「あぁ! 大勝ちしたな!」
5000円分の玉でパチンコ初体験という上杉にも分かりやすいドラム式の機体で遊んだのだが、上杉はビギナーズラックを引いたのか1000円分も打たない内に確変大当たりしやがった。
俺も釣られて玉が切れる直前に当たって確変に入り、その後も確変を重ねて気がついたら上杉が15箱で、俺が7箱重ねた状態で閉店時間になった。
俺は前世でもどちらかというとスロット派だったけど、ビギナーの上杉に合わせて隣の台で打って正解だった。
軍資金5000円が上杉が約11万となり、俺が 約5万円となって返って来ていた。こういう事があるからパチンコ屋はたまんねぇんだよな。まぁ程々にしねぇと沼るんだけどな。
「このまま帰んのも勿体ねぇな、どうせだし風呂行こうぜ」
「お風呂?銭湯かい?」
「馬鹿! こういう時風呂って言ったらソープに決まってんだろ!」
「そ・・・ソープって風俗の!? 僕達まだ18歳未満だよっ!?」
「はぁ?パチンコ行ってんだし今更だろ?」
「えっ?・・・あっ・・・・うん・・・そうだね・・・」
「ほら景気よく行こうぜ! 12万もあれば3周出来るぜ」
「3周って?」
「1人終わったら別の子指名すんだよ、若いんだし1日3回ぐらいシコってるだろ?」
「しっ・・・してないよっ!」
「いい子ぶんなくて良いって、好みの女指名して楽しもうぜ、気に入ったら延長しても良いんだしよ、今日はクリスマスイブだぜ?」
「う・・・うんっ・・・」
なんだよ、やっぱ興味津々なんじゃねぇかよ。童貞はやだねぇ。まぁ俺もこっちではまだ童貞だけどな。
「ガリ勉ってこういうの良く行くの?」
「金があればな」
「そうなんだ・・・」
俺は上杉に少しだけ見栄を張った。前世では親のクレカを使って通販で買ったものを、リサイクルショップに売り飛ばして現金を手に入れていた。そんなに金にはならなかったけど、時々パチンコで大勝ちした金で風俗にも行けていた。恋愛SLGのゲーム実況を動画サイトにあげていたからか、童貞臭いと煽られる事があったけど、童貞では無かったのでダメージは無かった。
「今からキャッチの奴に店聞くから堂々としてろよ?」
「うん・・・」
ショッピング街の一角にある風俗店が並ぶエリアに入り、キョロキョロとしている上杉に釘を刺して、ピンクの法被を着て呼び込みしている兄ちゃんに近づいていった。
「社長入ってかない?」
「あー、俺ら本番出来る風呂屋探してるんだけど、知らない?こいつの筆下ろししてやりたくてさ」
「それは目出たいねっ! もちろん紹介できますよっ!」
「じゃあ案内してよ」
「ちょっと待って下さい、店の方に声かけて来ますんで」
そういうと兄ちゃんは、自身が雇われているらしいキャバクラが入ってるらしいビルに入っていった。店から離れて良いか許可を貰いにいったのだろう。
「慣れてるね・・・」
「こういう事は、一度経験しちまえば大した事はねえんだよ」
客引きの兄ちゃんは、法被を脱いで店から出てきた。そして俺たちに「アルカナディア」というキャバクラの名前が書かれたカードを渡して来た。
「案内する店に、このカードを見せてハチに紹介されたって言えば30分延長してくれるんで、出して下さい。こっちの店でも同じ事してくれれば女の子を30分2名保証するんで次の機会に来てくださいよ」
「そうすると、兄ちゃんに紹介料が行くんだろ?」
「へへへ・・・詳しいですね、でも飛び込みよりサービスされるってのは本当なんで、よろしくお願いしますよ」
「有り難いから使うよ」
キャバで稼げなくなったり、そっちだけでは金が足りなくなった女が、今から案内される風呂に沈んだりしてんだろうな。ようは繋がってる店なんだろう。
キャバ嬢は酒に弱かったり、喋りが下手で続かねぇ奴もいるらしいしな。
「このビルです」
「案内ありがとうな」
「いえいえ、楽しんで下さいね」
キャバクラの客引きと別れ、秋山を伴ってビルのロビーに入ると、蝶ネクタイをした男性がいるカウンターがあった。女性の写真パネルが張られていて、その中から選ぶ店では無いらしい。
「いらっしゃいませ、ご指名はありますでしょうか」
「いや、特に無いな、どんな子を紹介してくれるんだ?」
「こちらからお選び下さい、ジュリア、キャシー、アリサは現在おりません」
「分かった」
顔写真とスリーサイズが書かれたメニュー表が渡されてそこから選ぶらしい。前世とは随分とシステムが違うようだ。
「チェンジは効くのか?」
「1回まで大丈夫です」
「値段は?」
「最初の1時間2万円、1時間延長で1万円です」
「追加のサービスを依頼する場合は?」
「そちらはお客様の方で相手と交渉して下さい」
「本番が出来ると言われて紹介されたんだが」
「交渉次第です、こちらでは関知いたしません」
多分、出来るとは言えないのだろう。
売春は違法だが、たまたま立派な風呂付きのホテル内で出会った男女が意気投合して恋人になるから合法だという抜け穴で営業している筈だ。こうやって写真を見せて紹介しておいてたまたまも無いだろうけれど、店側は出来るとは言えないという線引きでもあるのだろう。
「朝は何時までやってる?」
「5時まででです」
「最後まで1人を指名し続けた場合いくらだ?割引してくれるだろ?」
「・・・5万円でどうでしょうか・・・」
「ここのハチって奴に紹介されたんだが」
「そうでしたか、それなら4万5000円で・・・」
「もう一声欲しい、今日はこいつの筆下ろし記念なんだよ」
「それは当店をご利用頂きありがとうございます、それでは4万円でどうでしょう、それ以上はこちらも無理です」
「精算は?」
「前払いでお願いします」
筆下ろし記念におめでとうと言ったら、出来ると言っているようなものだが、こちらはいいらしい。
「5時までまでで4万でOKだってさ、チェンジは1回までできるらしい」
「チェンジって?」
「部屋に来た奴が気に入らなかった時、する前なら交換できんだよ、写真だけだと思ったのと違うやつが来たりするだろ?」
「なるほど・・・」
写真詐欺やプロフィール詐欺あるだろうしな。ウェスト60以下とかあきらかにおかしいんだよ。まぁ俺は抱く女は鶏ガラ女より、肉が詰まってる方が好きだから、そっちのサイズは気にしないがな。
俺がチェンジをするときはペッタン女が来たときや、ババア過ぎる女が来た時だ。
「折角だし朝まで楽しんで、女の子もアフターに誘おうぜ」
「アフターって?」
「店を出たあとだよ、飯を一緒に食って帰ろうって言うのさ、すぐに別れたら味気ないだろ?」
「うん・・・」
「俺はこの胸のデカそうな女を指名するけど上杉はどうする?」
「うん・・・僕はこっちの可愛い人が良いな」
小柄で胸は小さそうだが顔は確かに良いな。筆下ろしの相手としては良いかもな。
「店は6時間だからな、前払い制みたいだし4万出せよ」
「うん」
「2人ともアフター誘えたら一緒に飯食いに行こうぜ、金はあんだし場外市場の方に行ってそこの寿司屋でも食いに行こう」
「うん」
場外市場の関係者向けの寿司は美味い割に安いからな。24時間のファミレスやファーストフードしかあいて無いような時間だけど、市場周りの店は普通に開いている時間だ。
「じゃあ6時間後な。最高の体験して出てこいよ」
「うん」
金を払い、少し歳はいってそうだが色白で胸や尻が柔らかそうな女を指名すると、受付から鍵を受け取り、ポケットから財布がうまく取り出せずにもたついてしまっている川上に先んじてロビーの少し奥にあるエレベーターに乗った。
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