IF53話 代表者

 カオリによるオルカのお婆さんへの説明があらかた終わった。お婆さんも分からない部分が多いようだったけれど、噛み砕いて説明していくことで理解してくれた。


「それで私が保護者になるってどうすれば良いのかしら?」

「それは俺の親父が務める会社の弁護士が手続きをしてくれます。オルカはまだ未成年ですが、自身で意思表示が出来と見なされる年齢にはなっていますので、本人同士が認めあえば、現在の保護者の意向とは関係無く保護者を変えることが出来ます」

「ワダツミさんの意向と関係なく出来るのね」

「はい」


 俺は今井に向かって頷くと、古関と二人で口を開いた。


「中学校の時の水辺さんは凄く寂しそうだった。家に帰っても誰もいないからってずっと学校に残ってた。凄い寂しがり屋なのに水辺さんのお父さんは全然それを埋めてなかった」

「高校に入って水辺さんは本当に明るくなったわ、幼馴染と再会して、陽気な部員仲間と一緒に泳いで、そして家に帰ると家族がいる生活。今の水辺さんは寂しくないんだと思いますわ」

「そう・・・、確かにこの子は、この家に戻って来た頃より、随分と明るくなったわね」

「えぇ、中学の時より今が幸せなんだと思います」

「お父さんの所にいるよりお婆さんと一緒に暮らす方が水辺さんには良いのよ」

「・・・そうなのね・・・」


 俺は最後のダメ出しだと思い、依田に合図を送った。これからオルカの家族になるかもしれないんだしな。ちゃんと決めて欲しいと思ったのだ。


「僕は依田カケルと言います」

「覚えていますよ、小学校の頃は良く買いに来てくれたわね」

「覚えていてくれたんですか・・・結構久しぶりにこの店には入ったのですが」

「えぇあなたの事は良く覚えているわ。足が早くて、お店にお友達と駆け込む時、必ず先頭で「1番~」って言う子だったもの」

「確かにそうでしたね、店まで競争なんて良くやっていましたから」


 依田が小学校の頃この店に来たことがあるといっていたけれど、結構常連だったのかもしれないな。


「そこの子も小さい頃たまに来ていたわね・・・、えっと団地に住む坂城くんの従兄弟だったかしら?」

「僕の事も覚えているんですか?確かにあそこの団地に住む従兄弟と来たことがあります」

「えぇ、この前この子の部活仲間と花火をしていた時に見かけて、随分大きくなったわねって思ってたのよ」

「そうなんですか・・・」


 ケンタは従兄弟と来たと言っているけれど、家はそこまで近くないから、本当にたまに親戚の集まりとかで来た時に従兄弟とお菓子を買いに来たとかだろう。

 オルカが、お婆さんは、公園で遊ぶ子を見るのが好きと言っていたけれど、これだけ子どもたちのことを覚えているなんて、筋金入りという感じが良く分かった。


「僕は水辺さんと交際させて頂いております。将来は結婚したいと考えています」

「まぁっ!」

「寂しそうに、お父さんの所に行かなければという水辺さんを見たくはありません。僕と一緒に楽しい年末年始を過ごして欲しいんです」


 決めろとは思っていたけれど、随分と思いきったシュートを打ちやがったな。スプリンターらしい高速シュートというべきなのか?


 オルカを見ると、口に手を当てて依田の顔を見ながら涙ぐんでいた。それを見守るオルカのお婆さんも嬉しそうに笑顔になっていた。


 うんこれは完全に落ちたな。後ろで2人で手を取ってピョンピョン跳ね喜びを表しているシオリとユイも、それを物語っている。だけど店はそんなに広くないから落ち着こうな。よろけて陳列棚にぶつかって商品が散らばったら大変だぞ?


△△△


 その後、オルカの家の電話を借り、親父の会社に連絡をした。5時半を回っていたけれどまだ残っていたので、オルカとお婆さんの説得が出来た事を伝える事が出来た。

 親父は、今夜にでも親父の会社の人と会社の顧問弁護士を連れてこのお店まで訪ねると言ったので、俺はその事をオルカのお婆さんに伝えた。


「私もワダツミさんのやり方はどうかと思ってたわ。でも娘があんなに愛した人だもの。大丈夫だって思いたかったの」

「お父さん、多分あっちに愛人いるよ、昔はパスケースにお母さんの写真を入れてたけど、今は金髪の人の写真になってるもん」

「そうなのね・・・」


 既に配偶者と死別してるんだし恋愛は自由だけど、オルカやオルカのお婆さんにとっては複雑な心境だろう。


「私お父さんよりお婆ちゃんの方が好き」

「そう・・・」


 オルカのお婆さんは複雑な表情をしていた。ちゃんと父親に愛されて欲しいという気持ちでもあるのかもしれない。


「ワダツミさんには、この子の様子を連絡していたのだけど、意味が無かったのね・・・」

「私の家族はお母さんとお婆ちゃんだけだよ」

「オルカは四姉妹なんだろ?」

「四姉妹?」

「私とカオリとユイとシオリで四姉妹なんだよ」

「あと依田も家族みたいなもんだろ、それと俺とカオリは婚約者だから、俺もオルカの家族だ」

「私、お赤飯炊かないと。あの人とミナミにも明日報告に行くわ」


 あの人というのはオルカのお爺さんで、ミナミというのはお母さんかな?


「あなたがこの子達をまとめてる代表者かしら?」

「えっ?」

「そうね」

「お兄ちゃんだよね」

「代表者といえば田中君だね」

「ミノルさんがリーダーです」

「特に決めてないけどミノルかな」

「私とエリカはまだ今日呼ばれただけの関係かしら」

「うん・・・」

「うんミノルだよっ!」


 いつの間にか代表者にされてしまった。確かに親父に相談したりと発案者ではあったけど、別に軍団を作りたかった訳じゃないぞ?


「これからもこの子をよろしくね」

「勿論、こんなに楽しい奴はなかなかいませんから」

「楽しい奴って何!?」

「それは・・・」

「ねぇ・・・」

「オルカちゃんイジられキャラだからね・・・」

「良いわねぇ!」

「保護者の承認が得られたし、オルカは正式に俺達のマスコットになったな!」

「うわーん、カオリぃ〜」

「頑張りましょうね!」


 どうやらカオリもオルカはみんなのマスコットだと思っているようだ。

 カオリの言葉にオルカはショックという顔をしているが、他のみんなは笑顔になってオルカを応援していた。


△△△


 その後すぐに手続きがされ、お婆さんがオルカの正式な保護者となった。

 オルカの父親には、学費や養育費がもう不要であることと、今後オルカに面会をしたい時は保護者であるお婆さんの同意を得る事という内容証明送られた。

 またオルカの父親の務める外資系の会社の日本支社にも、似たような内容と、オルカが父親の扶養から外れた旨を知らせる内容証明が送られた。


 そのあとオルカはお婆さんの同意を得て、カオリと同じく今井物産のオリンピック応援のイメージキャラクターとしての契約を行った。日本は景気がいいため、多くの企業が広告費にお金をかけている。だからオルカに支払われる報酬も銀行員の初任給以上の金額が支払われるらしい。

 他にも、県外で開催される大会に出場する場合は旅費が支給されるらしく、かなり経済的に余裕が出来そうだ。オルカは完全に父親から独立出来たといえるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る