IF43話 容量(立花視点)

 番長に言われた用事のため、日曜日のショッピング街で不良達を田中にけしかける事には成功したけれど、なぜかいきなり話し合いを始め、さらに河川敷の方まで歩いていき、全員ではなく田中と3人だけが喧嘩をするといった流れになっていた。俺は隠れてついていったので何を話していたのかは良く分からなかったけれど、ゲームの強制力ってこうやって起こるのかと気持ち悪く思ってしまった。


 確かにゲームでも戦闘パートは背景が河川敷になっていたし、相手をするのは3人だったけれど、わざわざ示し合わせたように大人しく移動していきまるで試合かのように喧嘩するのは全く意味が分からなかった。

 俺がゲーム舞台から弾き出された事で、この世界はゲームの世界ではなく、リアル寄りなのかもと思い始めていたけれど、こういう所を見るとゲームの世界でもあるんだなと思い知らされた。


 喧嘩の場面を俺は遠くから見ていた、河川敷は見通しが良いので、会話は聞えなかったけれど、奴らの様子は良く見えた。

 田中の相手をした3人は、ゲームのイベントで相手をする不良のように3対1なのに田中の奴にあっさりと制圧されていた。

 俺から見ても明らかに強そうな喧嘩を見ていた2人の方が相手をすれば違った結果になりそうなのに、ゲームによる強制力の力でそうはならないようだ。


 その後不良の1人が田中から何かを渡されたように見えた後、そのあと奴らは急に田中に平身低頭して。そのあと必死の形相でこちらに向かって走って来た。

 喧嘩の負けの責任を取らされたりしたら面倒になる気がしたので、俺は急いでその場から逃げる事にした。幸い不良達は別の方に走っていったので捕まる事は無かった。


 ゲームでは主人公は不良との戦闘後に経験値とアイテムとお金を得ていた。奴らが急いで逃げて来たのは、田中からカツアゲ的な事を言われたのかもしれない。ヤクザの息子である番長の舎弟達が何かを見せられて平身低頭するのは、田中もその筋の人間だったとしたら辻褄があう気がした。


 明けた月曜日、番長の舎弟達から出会い頭に「お前のせいで恥をかいた!」と怒鳴られてしまった。お前たちが弱いのがいけないんじゃないかと思ったけれど、俺は喧嘩はからっきしなので黙る事しか出来なかった。

 それ以降、番長が俺を睨みつけるようになって来た。今までは空気のように無視されている感じだったのに、明らかに俺に対して不快感を感じているようだった。


 どうやら、俺が騙して奴らを田中にけしかけた事がバレたらしい。番長が俺に直接何か言って来る事はないけれど、番長の舎弟達と話す事で向上していたクラスでの立場が急降下してしまっていた。

 ただヤバい事に巻き込まれたくないのか、俺をガリ勉呼ばわりして来て絡んで来ていた川上どころか、クラス中が俺を遠巻きにするようになって、ある意味不快な思いをする事が減ったため居心地が良くなった。


「タカシ、学校ではちゃんとやっているの?」

「何の問題もねぇよ」

「そう?まぁこの学校なら成績で困る事は無いと思うけど、暴力沙汰とかやめてよ?」

「そんな事しねぇよ!」


 むしろ俺が暴力振るわれる立場だろ。番長がイライラしているのが伝わるのか、授業中のクラスの雰囲気が最悪だしな。


「それなら良いわ、一応これが今月のお小遣い、無駄遣いしないでね」

「わーったよ!」


 小遣いが月2万円とか少ないんだよな。朝飯と夕飯は寮から出るけど、昼食は自前で用意しなければならない。もっぱら学食で食っているけれど、日替わり定食でも260円。学食がやっていない日曜に外食すれば月に1万以上消えてしまう。自由に使えるのは1万円未満。買い食いしてゲーム買ったらすぐに無くなっちまう。くそっ、あの時残ってた8万円がまだ手元にあったらなぁ。


△△△


 俺は電脳部という所に入部した。部室にインターネット回線が引かれていて楽しそうだと思ったからだ。

 部員は俺以外に8人いるそうだけど、幽霊部員化し3年生で部長の西と、1年生の郡司と塚本の合計3名しか活動していなかった。


 電脳部は昔はベーシック言語でゲームを作って発表するという活動をしていたらしい。先輩の中にはゲーム会社を立ち上げて成功している人もいるそうだ。

 けれど最近は前世のウィンドウズ的なOSが発売された事で、そちらを使って世界に自分たちの存在を発信しようとブログ的なものを作ろうとしていた。何でも小さい写真1枚を載せるだけでページを開くだけでも物凄い時間がかかるらしい。まだインターネット回線が遅く、サーバーの能力も低いため、そういった事が起きるようだ。

 部員たちはいかにページの容量を下げて見やすいページを作り上げるか苦心していた。スマホで撮った写真や動画をペタっと貼り付けて世界中に発信していた俺からすると考えられない活動だった。


 インターネットの動画配信サイトというのはまだ存在していないらしい。インターネット上にある動画を落とす場合は、リンクを伝って動画を長い時間をかけてダウンロードする必要がある。小さな動画でも放課後にダウンロード開始しても次の放課後にまだ落ちていない事もある。そして途中で切断したらその動画はまともに見れない。見れたとしても10分程度の荒い映像だ。


 俺は前世でゲーム実況者というものをやっていた。こんな状態じゃ相手に動画を見せて再生数を稼いで収益化など出来る訳がない。時代がまだ俺について来ていないのだ。

 それに動画を録画する装置がものすごく高い。未だにカセットテープに映像を録画しているのだ。テレビもブラウン管テレビにアナログ放送をしている状態で、俺が思う活動が出来る状況には無かった。

 一応駅前広場の向かいのビルにプラズマ方式とかいう大型モニターが設置されているように、ブラウン管じゃないテレビもあるらしいけどな。


「立花君の言う奴ってこのチャットって奴じゃないのかな?」

「似ているが違うな」

「そうなのかい?」


 前世ではインターネット上にある巨大掲示板という奴に人が好きな事を書き込んでいた。こんな身内しか書き込まないようなものじゃ決してない。


「立花君のアイディアは面白いね、確かにそんな機能があったらみんな書き込むと思うよ」

「そうだろ?何とか作れないか?」

「うーん・・・どうやったら作れるか僕には分からないなぁ」

「ちっ・・・使えねぇなぁ」


 確か前世で巨大掲示板を運営していた奴は莫大な利益を生み出していた筈だ。文字だけ乗せるので、今の遅い回線でも対応で出来るものじゃないかと思う。


「チャットにしても容量を少しづつ食うからね、もし毎日何万人も書き込みに来るなら、学校パソコン程度じゃすぐにパンクしちゃうよ」

「あぁ?」

「文字1つだけでも、それだけメモリを食うんだよ、多くの人が書き込み公開し続けるようなものを作るなら、それを保存する巨大な記憶容量が必要なんだ」

「それはいくらぐらい必要なんだ?」

「この電脳部が1番新しいこのパソコンは30万円したからね、それでも10万人も書き込めばパンクしちゃうよ」

「はぁ!?」

「1年間分を保存するだけでも1千万円分のメモリーが必要なんじゃないかな?」

「マジかよ・・・」

「まぁメモリーは年々安くなっていくからね、だからその内立花君の言うような巨大掲示板が運営出来る時代は来ると思うよ」

「それっていつ来るんだよ」

「さぁ?それはそういったものを開発している人に聞いて欲しいな」


 ここでも時代の壁が阻んで来るのか! ほんとこの時代は使えねぇな!


「部長、キリ番が出たっすよ」

「あぁ、123番だっけ? 誰が踏んだの?」

「俺っす」

「塚本君が自身で踏んじゃったのかぁ・・・」

「111番は郡司だったっすよ」

「まだ他の人が殆ど来ないからね・・・」


 部長と塚本が123番とか111番とか言っているのは、立ち上げたページを開いた人の数を現したものだ。既に1年を超えるのに123回しか電脳部のページは開かれていない。しかもその内殆どは電脳部の部員が開いたもので、外部の人は殆ど開いていない。


「100番は姉妹校の科学部の人が踏んでくれただろ?」

「あっちの方のページのカウンターは2万を超えてるっすよ」

「あっちはなんか面白い実験してその結果を公開していて面白いからね。この前は、人体に無害だけど刺激臭で人を制圧する煙を発生させる実験だっけ?」

「あれ面白いレポだったっすよね」


 どうやら俺が元々いた高校の科学部は、やってみた系の動画配信者の走りの様な事をページに乗せ人気を取っているらしい。


「僕達も何か面白い事して載せないといけないね」

「カレーの美味しい作り方でも載せるっすか?」

「何でカレー?」

「俺はカレーが好きっすから」

「好きこそ物の上手なれって奴か、じゃあ何か書いてみてよ、人気が出たらシリーズ化してみたいしね、僕もお勧めのラーメンのトッピングの記事でも書いてみようかな」

「了解っす」


 郡司が下らない事をページに書くといい始め、部長がそれを認めていた。そんなのが人気出る訳ねぇだろうによっ!


「僕は小説でも書いてみるかな。小中の時、女の子に対して凄く優しい同級生がいてカッコよかったんだよね」

「ミノルの事か〜」


 くそっ! 転校さえしていなければ、あっちの科学部で俺も面白い事出来たのかもしれないのに。性格に難があるけど見た目は結構好みなゲームヒロインの涼宮も所属していたしよっ!

 何もかもうまくいかねぇなぁっ! 

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