IF37話 ガリ勉(立花視点)

「ガリ勉、このプリント見せてよ」

「あぁ・・・」


 この姉妹校に転校して初めて受けた中間テストで俺は学年21位、クラスで3位という成績を取った。そのせいで俺はクラスの連中から「ガリ勉」とあだ名を付けられるようになった。


 俺がユイちゃんの下着にイタズラした事や、水辺を掴もうとして反撃を受けた事は知られていた。「女に手を出すのは許せねぇな」という事を、1年生にして番長になっているというクラスメイトに言われたからだ。


 その番長はすごい威圧感がある奴で、俺は思わず腰を抜かしてしまった。だからしばらく「腰抜け」とあだ名されていたので、その時に比べたら「ガリ勉」というあだ名はまだマシな方と言えた。


 番長は、地元のヤクザの親分の息子らしい。取り巻きも多く従えていて、かなり態度がデカい。生徒会に所属しているのに空手道場に通っているらしく、よく入っていくところを見かける。

 空手部と柔道部の練習場になっている格技場で、3年生の先輩達を全員入学早々倒してトップに君臨した事で番長になったそうなので、道場自体が番長が君臨する城のようなものにでもなっているのだろう。


「ガリ勉の妹って立花ユイなの?」

「あぁそうだが・・・」

「今度僕に紹介してよ」


 なんだ、こいつユイちゃん狙いの奴か。ユイちゃんは中学校の時にもモテていて、こんな感じに俺に言って来る奴は多かった。

 まぁユイちゃんは小学校の頃にガキどもに結構揶揄われていたらしく、男嫌いだ。初対面の時から俺にも全く懐かなかったし、今では完全に毛嫌いされてしまっている。


「・・・俺は嫌われてるから無理だ・・・」

「なんだよ使えないな・・・」


 それなら俺の英語のプリント返せよ。


「おい立花、リュウタさんがお呼びだ」

「えっ?」


 急にクラスメイトでは無いのに休み時間にはよくきて番長の周りをウロチョロしている取り巻きの1人が俺に声をかけて来た。番長その取り巻きが、最初に俺に威圧をかけて来た時から、俺に対して空気でも扱うように無視を続けて来たのに、何だろう。


「来るのか来ねぇのか!?」

「行きますっ!」


 俺が返事を戸惑っていたら、急に怒声をかけられすぐに返事をした。


「じゃあこっちに来い」

「はい・・・」


 あの暴君に逆らう気は無かった。とりあえず痛い思いをしないようにと願いながら、番長の取り巻きについて行った。


△△△


「リュウタさん、立花を連れて来やした」

「入れ」


 連れて行かれたのは校内にある空手道場だった。中からドスンという重い音が響いて来ているが、一体何をしているのだろうか。


 道場に入ると、中にいたのは道着を着た番長だった。サンドバッグの前に立っていて、拳をそれにぶつけていた。ドスンという音は番長がサンドバッグを殴った時の音だったらしい。


「木下は立花を置いて道場から出ろ」

「ヘイッ!」 


 どうやら俺だけに用事があるらしい。

 番長は道着から湯気をあげていて、拳をサンドバッグに当てると、ドカンという音が道場中に響いてサンドバッグがかなり浮き上がった。サンドバッグって結構重かったと思うのだが、あんなに跳ね上がるものなのだろうか・・・。


「呼び付けてすまんな」

「いえ・・・」


 番長は「フゥ」と息を整えると、俺の方に向き直り、かなり理性的な言葉をかけて来た。もっと横柄な態度を取られると思ったのでそれは意外だと思った。


「俺は素人には手を出さねぇから緊張しなくて良いぞ」

「はい・・・」


 なんだ素人って?番長は何かの玄人なのか?もしかして人殺しとだったりしないだろうな?


「お前、分校の生徒だったんだってな」

「はい・・・」


 なんだ?あの高校に殴り込みをかけるから情報寄こせとかか?そういえば姉妹校の奴は、自分達の学校を本校と呼び、あの高校を分校と呼んでいるようなので、蔑んでいるのかもしれない。


「1年に綾瀬カオリという女生徒がいるが分かるか?」

「・・・クラスメイトでした・・・」

「渡は付けられるか?」

「・・・わたり?」


 わたりって何だ?


「俺の前に連れて来れるかって事だ」

「えっと・・・綾瀬を所望という事でしょうか?」


 なんだ?綾瀬が番長に目を付けられたのか?綺麗な女だし目に付く女だが・・・何で俺に聞く?


「所望とはちょっと違うが言いたい事があってな」

「・・・なるほど・・・」


 番長が綾瀬に一目惚れして告白するつもりとかか?それは面白そうだな!


「俺はそこまで親しくなかったので・・・」

「そうか・・・」

「でも何人か貸して貰えるのなら連れて来る事が出来ると思います」

「そうなのか?」


 あのお高く留まった綾瀬が、番長の前に連れて来られてどうなるか見てみたいしなっ!


「じゃあ、お前をここに連れて来た木下にお前の言う事を聞くように言っておくから、綾瀬カオリを俺の前に連れて来てくれ」

「はいっ!」


 もしかしてこれってゲームで主人公が不良に絡まれるというイベントが起きているって事じゃないのか?

 ゲームでは主人公が連続3回同じデートスポットに行くと、不良に絡まれるというイベントが発生した。そして3年の秋に主人公と番長が一騎打ちで戦う事になるのだ。

 何故、番長が綾瀬を呼んでいるのかは不明だけど、田中の奴は綾瀬にベッタリだったし、連続3回綾瀬と同じデートスポットに行ったとすればこうういった事になるのも納得だ。


 なんかそういったイベントに関われるって楽しくなって来たな! この底辺な高校に来て、つまらないと思っていたが、なんだよ面白いイベントがあるじゃないかよ。


△△△


 綾瀬は神社の近くに住んでいるらしい。

 ゲームではヒロインの好感度があがると、正月にヒロインが自宅にやって来て初詣に誘われるというイベントが発生する。主人公の家は綾瀬の家の隣にあるので、同じ神社の近くだ。つまり初詣のイベントは、ヒロインが神社に行くついでに、主人公の家に寄ったという状況だったらしい。


 ヒロインが主人公の自宅に来るというのは、綾瀬を主人公の家の近くにある近所の公園に誘ってデートをした時と、主人公と綾瀬を同じ誕生日にしてその日がたまたま日曜日になるという特殊な条件でしか起こらなかった。つまり主人公の家は学校から離れた場所にあるのだろうと推測が成り立つけれど、神社の近くならその条件に当てはまる。


 神社の近くに住むという事は、色々出かける際に、ショッピング街を通る可能性が高い。調べたところ、綾瀬と田中はショッピング街を良く利用している所を見かけるようだ。網を張るならショッピング街が良いだろう。


 田中と綾瀬がデートをしているかは分からないけれど、学校の生き帰りは一緒にしているのを良く見かけた。土日も一緒にいるのならショッピング街にも一緒に出掛けているのだろう。その時に、俺に宛がわれた不良達に綾瀬を攫えと言えばイベントが起こるに違いない。

 しかし俺はこのイベントをそのままなぞるつもりは無い。ゲームでは不良は3人で主人公にかかっていったが、3人である必要は無いからだ。俺は宛がわれた5人全員に一斉にかかれと言ってやるつもりだ。その方が確実に田中をボコれるし、綾瀬を攫えるからだ。


「あの女が綾瀬カオリだ」

「あの女をリュウタさんが御所望なのか・・・」

「確かにすげぇマブい女だな・・・」

「隣にいる女も可愛いな」

「ん?あれはまだ中学生ぐらいだろ?あんなのが良いのか?」

「婚約指輪をしているようだが、リュウタさんの前に連れて行くのか?」


 綾瀬が婚約している?いったいどういう事だ?1年の2学期で田中の奴とゴールインしたって事か?確かに田中の成長は早かったが攻略が早すぎだろ! そんなの許せる訳ねぇよなっ!


「御所望なんだから攫うしかないだろ!」

「そうか?」

「まぁリュウタさんから立花に従うように言われてるしな」

「じゃあちゃっちゃと男を追い払って連れて行こう」

「あぁ、女二人を連れているような軟派野郎だしな」

「リュウタさんがそんな事を望むか?」


 こいつら纏まりがねぇな。綾瀬を攫うのに積極的なのは3人か。もしかしてそれが理由で不良に絡まれるのが3人になるのか?


「とりあえず行くんだよ! 俺は綾瀬カオリを連れてこいって言われてるんだからな!」

「まぁそういう命令なら仕方ねぇがよ・・・」

「そうだぜ!」

「行こうぜ!」

「へっ!ヒョロっとしてて軟弱そうな野郎だし余裕だろ」

「女は傷つけるなよ?リュウタさんに殺されるぞ?」


 何とか5人とも田中と綾瀬の所に向かわせられた。もう1人の女は誰か不明だけど、ゲームのヒロインじゃないしモブだろう。

 あー、ゲーム主人公が不良にボコボコにされてヒロインが泣き叫ぶ所が見られるなんて、きっと楽しくなるぞ?くそっ!スマホが手元にあったら録画してネットにアップしてやるのによっ!

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