IF32話 獅子の心臓

 新人戦の大会で、カオリは個人メドレー2種目で優勝し、オルカも400m自由形で優勝した。

 精神的に少しは落ち着いたのかカオリの記録はインターハイで出した記録は上回ら無かったものの、国体で優勝した選手の記録を上回る記録を出したため、2月のアジア選手権出場は確定したと言って良いだろう。

 他にもカオリとオルカに引っ張られて、水泳部の女子はメドレーリレーと個人メドレーでも2位と3位で入賞する事が出来ていた。


 俺は400m個人メドレーで3位、200m個人メドレーで4位に入賞した。記録も高校総体の標準記録にかなり迫った。

 ケンタは200mと400mの自由形に出場し共に7位に入賞した。けれど、高校総体の標準記録までもう少しとなっている1500m自由型と違いまだ届かない感じだった。

 とりあえずそんな感じで、今年の水泳部の夏シーズンの大会は全て終える事となった。


 新人戦後に学校に行くと、朝のホームルームに担任がおらず、副担任だという須藤先生という女性教諭が教室に現れた。担任が健康上の理由により長期休暇となるので臨時の担任をすると説明を受けた。あと担任がしていた英語の授業は、教頭先生が引き継いで授業をするそうだ。


「ちゃんと対処してくれたみたいで良かったな」

「えぇ」


 カオリはまだ録音を今和泉に渡していないそうだけど、先に問題解決を図ってくれたらしい。それほど不祥事を表沙汰にしたくないのだろう。


「対処って何?」

「うん?・・・あぁ、文化祭の件だよ、カオリは運動部で大会もあるのに、学級委員だからと面倒な仕事をやらされそうになってたんだよ」

「生徒会に訴えたら、ちゃんと文化部の人に代わって貰えたわ」


 部活前のストレッチ中にカオリと話をしたら、それを耳ざとく聞く付けたオルカが質問して来た。

 さすがに学校が表沙汰にしたくないと思ってきちんと対処してくれたのに、こちらから風評を流すわけにはいかない。だからオルカには誤魔化して説明する事にした。


「へぇ・・・ちゃんと動いてくれるんだね、私も何かあったら行ってみようっと」

「1年1組の今和泉が生徒会役員だからな、相談すると良いぞ」

「それって理事長のお孫さんでしょ?」

「知ってたのか?」

「有名だよぉ、女子の間で凄い人気があるんだからっ!」

「へぇ・・・オルカはあんなタイプが良いのか・・・」

「ちっ・・・違うよっ! ああいう感じゃ無くて、もっと一緒に体を動かしてくれるような人が良いんだよっ!」

「うーん・・・そうなると身近にいるのはケンタになるな・・・」

「ケンタは今井さんと良い感じなんだよねぇ・・・」

「なんだオルカはケンタを狙ってたのか?」

「ちっ・・・違うよっ! 特定の相手がいる人に横恋慕はしないよっ!」


 確かに恋愛のドロドロとか面倒臭そうだからな・・・。前世で働いていたスーパーでもパートの主婦が店のバイトの高校生を誘惑して、それが旦那にバレて大事になっていた。


「そうなると・・・依田か佐野になるのか?」

「佐野君には飛鳥さんがいるんだよ」

「飛鳥?」

「飛鳥リオ、音楽部にいる天才ピアニストだよ」


 そういえば、カオリよりピアノが上手だという女生徒が高校の音楽部にいたな。

 カオリは小学校の頃から絵画教室とピアノ教室に週1で通っていて、コンクールに出場していたけれど、絵画では今井エリカ、ピアノでは飛鳥リオには勝てず2位しか取った事が無かった。今井エリカはゲームでもヒロインとして登場したけど飛鳥リオは登場しない。


「佐野と飛鳥さんは交際しているのか?」

「私も詳しくは分からないんだけど、まだ佐野君が注目される前の中学校時代から佐野君のファンで、今でも練習や試合を良く見ているんだって。付き合ってはいないみたいなんだけど、佐野君も意識し始めたみたいって他のファンの子が悔しそうに言ってたんだよ」

「へぇ・・・」


 佐野にはそういう相手がいたんだな。特徴的な人物なのに、ゲームでヒロインとして登場しないのは、既に佐野という特定の相手がいるからなのかな。

 同じ中学校出身でクラスメイトでありカオリの友人でもある早乙女も、背が低くチンチクリンだけど、かなり可愛い容姿をしているので、ゲームのヒロインとして登場したら、ある一定層に人気が出そうな女生徒だ。しかし中学校の時から八重樫という彼氏がいたりと共通点がある。


「・・・というと依田しか心当たりが無いな。練習熱心だし良い奴だし狙い目じゃないか?それとなく後押ししようか?」

「そっ・・・そんな事しなくて良いよっ!」


 否定はしたものの、恥ずかしいの顔に手を当てて俯いていた。顔が日に焼けているため赤くなっているかはハッキリとは分からないけれど、そうでなければ真っ赤になっているんじゃないかと思う。


「もうすぐプール納めで水泳部は冬シーズンになる。陸上部に間借りして練習する事になるから、仲良くなるチャンスが多いんじゃないか?」

「そっ・・・そうかな?」


 オルカは顔から手を離してパァっと明るい表情をした。オルカは結構依田に気があるらしい。

 あぁ・・・もしかして依田って、主人公がカオリと結ばれなかった時の相手じゃなく、オルカが陸上部に入ったパターンの時の交際相手とかになる奴だったりするのか?


「とりあえず依田には彼女はいないぞ?走る事が友達みたいな奴だしな」

「そうなんだ・・・」

「今度遊園地でダブルデートとかするか?」

「遊園地は苦手かなぁ・・・」

「そういえばオルカは高所恐怖症だったな」

「えっ!?何で知ってるの!?」

「・・・何となく分かったんだよ・・・」


 オルカが高所恐怖症というのはゲーム設定で知っていた。オルカは日曜朝のヒーロー特撮ものの番組が好きなので、ヒーローショーをやっている時に遊園地に行くと好感度がかなり上昇する。しかしそうで無い時に遊園地に誘うと断られやすいし、誘えたとしても失敗して好感度が下がってしまう事がある。


「オルカは水族館とか好きそうだな」

「うん、とても好きだよ」


 まぁ浴衣にシャチ柄を選ぶぐらいだし誰でも分るな。


「ショッピングとかも好きか?」

「うん、小物とか見ているの好きなんだ~」


 これもゲーム設定通りか。あとはプラネタリウムも好きだという設定だったけど、これを知っていたらさすがに変だよな。


「じゃあ依田に水族館に行った後、ショッピング街にでも行こうって相談してみるか」

「・・・うん・・・」


 なんだ、結構本気で気があるのかもな・・・。


「カオリも良いよな?」

「良いわよ?」


 俺やカオリも一緒に出掛けたりはしているけれど、付き合っては無かったし、デートという感じで出かけた事は小学生以来無い。けれど今は婚約している訳だしハッキリとしたデートのようなものを始める時期になっていると思った方が良いだろう。


「恥ずかしいからユイに来てもらっちゃ駄目?」

「・・・妹に自身のデートのフォローさせちゃ駄目だろ・・・」

「うっ・・・」


 オルカは、水泳の試合では緊張した事が無いという獅子の心臓を持っているのに、恋愛に関しては蚤の心臓してるんだな。


「まぁ、ユイはジュンと仲良くなりそうだしトリプルデートなんて出来そうではあるんだけど・・・、一緒にデートをするなら、姉としてお手本が出来る程度になってからが良いだろ」

「そっ・・・そうだねっ!」


 神社のお祭りに行ったメンバーでは、シオリだけが浮いてしまった感じだけど、妹に彼氏を世話するなんて事はしたくないからな。

 シオリは可愛いし、そのうちいい男が見つかるかな。格闘好きの相手ってどこにいるんだろうか。もしかして立花が転校した姉妹校の方の生徒か?

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