IF25話 生まれつき(立花視点)

 結局俺は安東から逃げる事が出来ず、両親に引き渡されてしまった。その後、学校に連れて行かれそこで校長というゲームでは出てこなかった人物から「君はわが校には相応しくない」と言われ、自主的な退学が勧められた。

 自主的な退学を勧められる理由は、警察も捜索に協力はしてくれたけれど、丹波の家の店から被害届が出ておらず、事件にはなっていないからだそうだ。ただし私立の名門校である学校の評判を落とす行為である事は間違い無いため、自主的な退学を勧めて来たらしい。


 そんなのに応じる必要は無いと思ったけれど、お袋はそれを飲んでしまった。俺を捜索するため学校にもかなり協力して貰ったらしく、断る事は出来ないそうだ。

 俺は退学の代わりに姉妹校の方に転校する事が勧められて、それもお袋は飲んでしまった。何でも県下から有力なスポーツ選手などを生徒として受け入れている関係で寮が完備されていて、俺はそこから通う事が出来るそうだ。


 姉妹校といえば確かゲームの3作目の舞台となった高校だ。但し俺は少しだけ実況動画を見た程度で、内容を良く覚えていない。ただ脳筋系の生徒や不良やおバカキャラが多く登場していたのをなんとなく覚えていた。


「そんな高校に通うなんて嫌だっ!」

「タカシ・・・このままだと高校を卒業出来なくなるのよ?」

「はぁ?3年間通えば問題無いだろっ!」

「この高校ではタカシを教室に入れられないそうよ」

「何でだよっ!?」

「他の生徒に悪い影響があるからよ」

「何だよそれっ!」


 俺がユイちゃんの下着でした事や、水辺を掴もうとした事などは、既に近所で噂となっていて、非常に肩身が狭い状態になっているそうだ。そしてこの高校は家と近いため、その風評から逃れる事は出来ないらしい。

 その点姉妹校の方は家から離れた所にあるので近所の噂として風評が広がる事は無く、また問題児も多く受けれている高校であるため、俺程度の悪さなら目立ったりはしないそうだ。


「それに、タカシはあまり学校の成績が良く無かったでしょ」

「偏差値が高い高校だし仕方ないだろう」

「でも姉妹校の方は余り頭が良い人が通う高校では無いから、タカシならいい成績取れるわよ?」

「Fランでいい成績取っても意味がねぇよっ!」

「Fラン?」

「最底辺って事だよっ!」

「最底辺・・・」


 くそっ! 時々こっちでは、こうやって意味が通じない事がある。ニュアンスで掴めよニュアンスでよっ!


「そんな事言っても卒業できないんじゃ意味が無いでしょ?」

「どうしてだよっ!」

「授業が受けられないんだから単位だって取れないのよ?」

「学生なんだし受ける権利があるだろっ!」

「タカシ・・・、高校は義務教育じゃないの。それにこの学校は私立高校だから、公立高校ほど生徒の不祥事に甘くはないのよ?」

「なんだよそれ・・・」


 俺の親なのに学校の味方なのか?


「それにね、タカシをユイちゃんと一緒にいさせる事は無理なのよ」

「何でだよ!」

「ユイちゃんがタカシに近寄られたくないと思っているからよ」

「はぁ!?」

「あなたがした事はそういう事なのよ?」

「直接的に手を出した訳じゃないし問題無いだろ!」


 家族内の貸し借りの様なものだ。問題などある訳ない。


「タカシ、あなたのした行為は下着泥棒と同じなの。そして下着泥棒と一緒にいたいと思う女の子はいないの」

「盗んでねぇよ! それに身内だろ!?」

「ユイちゃんに断りもなく手に取ったんだから盗んだのと同じよ。それにあなたとユイちゃんは血が繋がっていない他人のようなものなの」


 他人?血は繋がっていないとはいえ兄妹だろう。


「同じ家に住んでいる家族じゃないか!」

「いいえ、もうユイちゃんはタカシを家族だなんて思って無いわ。そしてタダシさんは血の繋がらないあなたより、実の娘であるユイちゃんを優先するの。そしてあの家はタダシさんの家、だからもうタカシは住めなくなったの」

「じゃあお袋は離婚するのか!?」

「いいえ、ユイちゃんが別れて欲しくないと言ったの、それに私もタダシさんと離婚はしたくないのよ?」

「何だよそれ、俺だけ家から出ていけって事かっ! それなら安東に捕まえさせるような事するなよっ!」

「あのまま清水君の家にずっとなんていられ無いわよ。清水君だって高校が始まったら学校に行くのよ?」

「それは・・・」


 確かに夏休み明けのこの時期ぐらいまでが家出の限界だろうと思っていた。だから丁度いい時期に捕まったとも言える。けれど安東に捕まるんじゃなく、自分のタイミングで帰りたかった。


「俺を捨てるのか・・・」

「捨てたりはしないわよ? あなたは私の息子だもの」

「じゃあ何で俺だけ底辺高校の寮に入れられるんだよ!」

「独りになる事はあなたが望んだ事でしょ?だって私達から逃げ回ってたじゃない」

「それは・・・」


 それはほとぼりを冷ますために仕方なく・・・、というか何で俺がいない間にお袋達は騒ぎを大きくしているんだよっ! そのせいで俺が退学させられたんだろっ!


「あの高校の寮は私の職場から近いの。だから時々見に行くわ」

「・・・なんだよ、俺だけが悪いのかよ・・・」

「えぇ、今回に関してはあなただけが悪いわね。それともタカシには他に悪い事をした人の記憶でもあるのかしら?」

「・・・」


 くそっ! 何で俺の思い通りにいかないんだ! 何故ユイちゃんは俺を嫌う! 何故綾瀬と水辺が同じ水泳部に所属しているんだ! 何故田中が底辺スタートじゃないんだ!


「あなたは時々そうやって遠い目をしながら考え事をしていたわね。でも私が聞いてもうざったそうにするだけだった。男親であれば少しは分かるのかと思ってタダシさんに相談したけど、タカシの事はタダシさんでも何を考えているのか分からなかったらしいわ」

「はぁ!? 勝手に俺の心の内側に入ろうとしてんじゃねーよ!」


 ババアがいちいち気持ち悪い事言うんじゃねぇ!


「私はタダシさんからユイちゃんの母親になって欲しいと再婚を申し込まれていた、けれど再婚なんかするつもりは無かったの。でもタカシをこの街に連れて来た時物凄く喜んでいた。だから再婚する事にしたのよ?」

「ここは俺のいる場所だからなっ!」


 だってこの街は、俺の知ってるゲーム舞台で、俺はそこに登場するキャラだったんだぞ?


「もう、タダシさんの家も高校もあなたの場所では無くなったのよ?」

「何でだよ?」

「あなたがユイちゃんに嫌われたからよ?」

「何で嫌うんだよっ!」

「・・・私も実の息子に言いたくないけれど、あなたがユイちゃんを見る時の表情は、すごく気持ち悪いわ」

「はぁ!?」


 この笑顔が貼りついてる様な顔が気持ち悪いっていうのか!?生まれつきだし仕方ないだろう。


「あなたの顔は、父親であるシンジさんにそっくりよ。でも浮かべる表情は全く違うわ」

「表情って何だよ」

「何も考えていない時のあたなの顔は多分みんなに好印象を与えるわ。でも笑ったり、何か考え事をしている時の顔は、酷く歪んでいるのよ?知らなかったの?」

「知らねぇよっ!」 


 鏡を見る時は大概感情はフラットで、そんな表情をした時に鏡なんて見た事は無ぇよ。


「せっかく高校が変わって心機一転出来るんだから気を付けなさい」

「うるせぇよっ!」


 くそっ! 安東が「お前の目が気に入らねぇ」とか言ってたのはこれが理由かっ! もっと早く教えてくれればもっとうまく立ち回れただろっ!

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