If26話 四姉妹

 新学期が始まり、立花タカシの醜態の件は生徒たちの間で話題に上がりはしたものの、転校したという話が広がった事ですぐに立ち消える事になった。噂の相手がいないのではそういう噂好きも弄りようが無いからだろう。


 席替えの結果、真ん中の後方から後ろから2番目から、教卓の真ん前というある意味特等席になってしまった。カオリは窓際の最前列なので、前の真ん中の後列に比べたら近くなったと言えるだろう。

 

「ふーん・・・じゃあ私達四姉妹だね」

「・・・どういう意味だ?」


 新学期の初日の学校の行事が終わったあとの部活で、ユイとのお別れ会的なものをした事をオルカと昼食の弁当を食べながら話したら、急にそんな事を言い始めた。カオリが始業式の後という事もあり、学級委員としての仕事があるからか遅れているため1コースは俺とオルカだけだったため2人でお昼時間に解放されている学食で向かい合って食べていた。そういえば今日は坂城もまだ来てないな。


「ほら、私とユイって姉妹みたいなものじゃない?」

「確かにそうだな」

「カオリとシオリちゃんも姉妹みたいなものじゃない?」

「その通りだな」

「そしてユイとシオリちゃんが一緒に暮らして姉妹みたいになったじゃない?」

「・・・そうか?」

「そうなの!」


 確かにユイは家にいたけれど、姉妹になるほど長くいた訳ではないと思うぞ?


「それでね、私とカオリが姉妹みたいになれば完璧だと思うの」

「・・・えっと・・・うん?」


 とりあえず血も繋がっておらず姉妹の契りすら結んでいない四人が完璧って何だろう?


「えっと・・・桃園の誓いでもしたいのか?」

「何それ?」


 日本の鎌倉時代ぐらいまで世界も前世と同じ感じの歴史を辿っているので、大陸に三国志の時代は同様3にある。その内魏書に日本の事が書かれているので有名だと思うのだけどオルカは興味無いのか知らなかったようだ。


「昔の偉い人が、「同じ日に生まれはしなかったけど、同じ日に死にたいね」って誓ったって話だよ」

「・・・その偉い人って心中でもしたの?」

「違うって、争いの絶えない時代だったから、いつ殺されてもおかしくない。だから危ない時が来てもお互いを見捨てないでいようって手を取り合ったんだよ」

「ふーん・・・」


 この顔は良く分かってない顔だな?


「服の交換をしあったり、恋の話をしたり、おやつを一緒に作ったりじゃだめなの?」

「それって女友達がしあう事だろ?」

「うーん・・・そうだけど違うんだよ~」


 ファンディスク上ではオルカの友人は美術部の今井エリカだったな。


「今井とはそういう事しあってないのか?」

「エリちゃんとは絵を描いて見せあってたけど、そんなんじゃないんだよ~」

「絵を見せあうって姉妹みたいじゃないか」

「そんなんじゃないよ~、エリちゃんがスランプに陥ってて、私にどうしたら分かりやすい絵を描けるかって聞いて来たんだよ~」

「美術部員の今井に絵のアドバイスをしたのか!?」

「うん、私って実は絵が得意なんだ~」


 確かにオルカの学校で使うノートの隅に特徴を捉えたイルカやペンギンの絵が描かれていた。オルカって絵心があった訳か、今井と気が合うわけだな。


△△△


「・・・って事なんだがどう思う?」

「姉妹ね・・・」


 部活帰りのバス停でオルカが昼食時間に話していた四姉妹の話をしてみたら、カオリは少し考えこんでしまった。

 頭の回転が早いカオリはパッと答える事が多いのでかなり珍しい。


「俺はシオリという血の繋がった妹のいる立場だから良く分からないんだが、同じ一人っ子のカオリなら分かるんじゃないかと思ってな」

「私は結構幼い頃にシオリを妹だと認識し始めたのよ?」

「そうなのか?」


 俺の知るカオリとシオリは、幼い頃結構仲が悪かった。まぁカオリが俺の腕を引っ張り、シオリが置いてかれそうになって泣いたあとイヤイヤモードになり、それで俺がシオリを宥めていると何故かカオリが泣いてしまい、俺がカオリも宥めだすといった感じだった。シオリを置いて何処かに行こうと腕を引っ張るカオリと、その場に居させようとするシオリの間で喧嘩となったあと大泣きを始めて、2人を宥めるのに苦労した事もある。

 カオリがシオリのペースに合わせれば何も起きない事をすぐに覚えてくれ、そういった事は無くなった。次第にシオリもカオリの事をいつも遊んでくれる人だと認識しはじめ、仲の良い姉妹の様になった。


「小さい頃、シオリの事を何をするにも遅い子だって思って頭に来ていたの」

「そうなのか?」

「えぇ、私もミノルも物覚えが良い方だったじゃない?」

「・・・そうだったかな?」


 それは前世の記憶で知っていただけで、物覚えが良かった訳ではないので、そう言われるのは複雑な気持ちになる。


「ミノルは走るのも早かったし鉄棒もすぐに逆上がりが出来るようになった。小学校1年生でプールの反対側まで泳げたのはミノルだけだったのよ?」

「確かにそうだったな」


 それは前世で定年後に体力が衰えていき運動を始めてみたものに全然向上しなかったのに、産まれ変わって赤ん坊になったらやればやるだけすぐに向上していく事が楽しかったからだ。

 あと泳げたのは前世である程度の泳ぎ方を知っていた事と、また海で溺れないようにスイミングに通わせて貰ったからだな。


「あの時の私はこの先何をすればいいのかなんて何も考えていなかった、だから楽しい事を見つけて遊ぶ事が一番だった。けれどその間、ミノルは先を見て効率のいい方法で何かをしていたの」

「そうだったかな?」


 別に先を見ていた訳じゃ無く、何もしていない時間が勿体ないと思って出来る事をどんどん増やしていった感じだな。前世は体が固くてマット運動が苦手だったから柔軟をしていた事と、英語教育が大事になると分かっていたから英語の学習をしたぐらいだ。あとは普通の子供の体力の通り全力で遊んで疲れたら昼寝をするといった感じだと思う。


「そんなに先に進もうとしているミノルが凄い事に気が付いて一緒に先に進もうとしたのよ。でもシオリがミノルの足を止めるような事をしたの」

「シオリが?そんな事なんかして無いだろ?」

「えぇ、シオリはただ普通の子供だっただけね、むしろミノルが近くにいたから成長は早い方だった。でも私は一人っ子だったから隣に住むミノルしか知らなかったの。だからシオリだけが遅くて、ミノルはそれに引きずられてると思ったのよ」

「なるほど・・・」


 多分小学校入学の前後あたりの時がそうだったかと思う。シオリが母親ベッタリから、幼稚園に入り親離れを始めて、俺とカオリにもついて来ようとし始めたあたりがそういう感じだった。


「私はシオリを知る事で、ミノル以外の同級生を認識し意思の疎通ができるようになった。ミノルがシオリに合わせている状態を見て、私も合わせる事を覚え、他の人に合わせる事が出来るようになったの」

「そうなのか・・・」

「そうしたら、シオリは他の誰よりも可愛い子になったわ」

「あぁ、カオリについて回るようになったな」


 可愛いシオリを取られたような気分になって嫉妬した事があったな。前世譲りの大人の精神で耐えたけどな。


「だから他の人から姉妹だって言われても、シオリと違うものだと思ったのよ」

「カオリは難しく考えるんだな」

「そうね、オルカのように勘は良くないもの」

「勘か・・・」

「オルカのように勘が良い子が言う事だから悪い事では無いのでしょうけど、どうしてもシオリと比べてしまうの」

「別にシオリと比べる必要は無いんじゃないか?だって誰だって少しづつ違う物だろ?みんな違ってみんな良いって奴だよ」

「みんな違ってみんな良い?」


 あぁそうか、前世の日本では有名な言葉だが、この世界では存在しない詩の一節だったか。


「随分と素敵な言葉ね」

「そうか・・・」


 そうだろうな。でもカオリに褒められた事は、他人の成果を奪っているようで少しだけ気分が良くなかった。

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