IF22話 どうしたら良いんだ!?(立花視点)
「クソっ!」
まさか丹波の家にお袋達がやって来るとは思わなかった。
田村の家に遊びに来た丹波がノリが良く楽しい奴だったのでついて行った。店の本も汚さなけば好きなだけ読んで良いというし、少し店の手伝いをすればいくらでもいて良いと言っていた。だから都合がいいと厄介になったのだけれど、まさかそれが親に引き渡すための足止めだったとは思わなかった。
無理やり家に連れ戻そうとする2人を、店の本を崩して足止めする事で振り切り駅に向かって走った。
着替えの入ったバッグは置いて来てしまったけれど、金だけは常に懐に入れていたので資金だけは充分だった。
漫画喫茶に飛び込んでパソコンを探したけど置いてなかった。ただ時間制で漫画が読めてドリンクバーがあるだけだった。
しばらく考えて前住んでいた駿河県に住んでいた時代のダチに電話をしてみる事にした。あっちには結構つるんでいた奴がいるので、匿うぐらいはしてくれると思ったからだ。
近所の同世代で良く遊んでいて連絡先を覚えているのは6名。1つ年上の安東と、同級生の清水と長楽寺と堀越と、1個下の大和田と雲風だ。
の中で1番中が良かったのは親が釣り船屋をしていた清水だ。
「はい清水です」
「もしもし立花といいます、チョウジ君はいますでしょうか?」
「立花?・・・って立花か!?」
「えっ?清水か!?声が野太かったから親父さんだと思ったぞ!」
「声変わりしたんだよ」
そうか・・・みんなそんな時期だったな。
清水はどちらかと言うと小柄で甲高い声だったから違和感バリバリだぞ。
「それにしても久しぶりだな、何か用事か?」
「あぁ、今からそっちの街に行くんだが、泊めてもらえねぇか?」
「あん?別に良いけど1人か?」
「他に誰がいるってんだよ?」
「可愛いと言ってた妹とか、彼女とか連れて来るのかと思ってな」
「そんだったら清水の家にも泊めてほしいなんて言わねぇよ」
「あー確かにそうだ」
「そんで泊めて貰えんのか?それともダメか?」
「別にいいぜ、早朝は親の仕事の手伝いをしてるがな」
清水の父親は漁師をしていて、母親はそれを加工し売店で販売していた。
早朝の手伝いという所が漁師の家という感じだ。
△△△
「清水か!? 随分とデカくなったな!」
「おー立花か!?」
清水は中学校までは俺より背が低かったのに180cmは超えるような背になっていた。日焼けで色黒になっているし、声も野太い。目と表情が同じでなければ別人と思っただろう。
「そっちはあまり大きくなってねぇな」
「あぁ・・・背がなかなか伸びなくてよ」
「それであっちの生活はどうなんだ?可愛い妹が出来たんだろ?」
「あぁ・・・あいつはダメだ・・・全然慣れねぇ」
ユイちゃんは出会った頃は同じぐらいの背だったが一気にでかくなって今じゃ180㎝近い。俺好みの顔だが、さすがに見上げる様な女は萎える。
「何だ、嫌われてんのか」
「あぁ、そんだから家の空気が最悪でよ」
「それで家出か?」
「そういうこった」
夏休み入ってから水辺の家に入り浸って殆ど帰って来ねぇしな。そのせいで新鮮なおかずが無くてタンスの中に手を出してバレちまった。
「そんならこっちで息抜きしろよ、長楽寺と堀越も集めて楽しもうぜ」
「あいつら今何やってるんだ?」
「安東さんと海の家で働いてるよ」
「安東さんか・・・」
「あはは、お前安東さん苦手にしてたもんな」
「あぁ、あの人はおっかねぇからな」
安東は近所に住む同世代の中で、一番喧嘩が強くガキ大将をしていた。俺と清水と長楽寺と堀越の1つ上なので高校2年生の筈だ。
仕切り屋で引っ張り回したがるので俺は苦手だったが、清水と長楽寺と堀越は結構懐いていた。
俺は安東に振り回されるより、1つ下の大和田と雲風を従えて遊んでいる方が好きだった。
「大和田と雲風はどうしたんだ?」
「あいつら今年受験だから予備校に通ってるよ」
「あいつらが勉強?」
「みんなお前みたく頭良くねぇんだよ」
「まぁ小学校の時は良かったがよ・・・」
「何言ってる、すげぇ偏差値が高い高校に通ってるんだろ?」
「あぁ・・・だが俺はその中で底辺だ」
「俺らはあんな進学校に通う事すらできねぇよ」
この体は前世より頭のスペックが高いらしく、しかも前世の知識が追い風になり小学校の時はかなり勉強が出来た。しかし中学校では段々と成績が低下し、高校ではついて行くのがやっとになっている。
歴史や地理なんかは前世と微妙に違って知識を生かしづらいし、他の授業も知識ブーストで上乗せされてた分が高校では無くなり、期末テストではなんとか赤点を回避したが先行きに不安を感じている。
「高い所に入っても、そこで底辺はきちぃぞ」
「じゃあ何でそんな所に入ったんだよ」
「ぐっ・・・」
ゲームの設定使ってヒロインゲットしてやろうと思ったんだよ。まさか妹の下着をオカズにした程度で破綻するとは思わなかったがな。
「あんなお利口さん高校に通わず、こっちでもっと馬鹿やってたかったぜ」
「そんな事言ってるから安東さんにボコられるんだぜ?」
「あの人は違うよ、単に俺と合わないだけさ」
安東は、「手前ぇの目が気に入らねぇ」と言って睨みつけてくる人だった。俺が安東をお山の大将と見下し、暴力に敵わないから従ってるだけだって事を見抜いていた。
「駅前少し変わったな」
「そうか?」
「ほら・・・バスターミナルの感じが変わっただろ?」
「あぁ! そういえば変わってるな、もう当たり前になってるから気が付かなかったぜ」
停留所のバスの標識が、古臭い時刻表が貼られているだけの看板から、バスが来るタイミングの予告をするタイプに変わっていた。
その仕組みを設置するためかターミナルの配置も変わっていて、駅から出た瞬間の雰囲気が似ているようで違うものという印象を与えていた。
「別にバス自体が変わった訳じゃねぇよ」
「まぁ確かにそうだな・・・」
多少新しいタイプのバスは走っているが、塗られている色は、同じバス会社である事を示していたし、良く見慣れた古臭い感じのバスもターミナルに入って来ていた。
「あっ・・・そっつじゃねぇぜ、団地入口はこっちに止まるようになったんだ」
「やっぱ変わってんじゃねぇか!」
「当たり前になってて気が付かなかったんだよ」
清水に案内されて団地入口に向かうバスに乗り走り出すと、窓の外に映る景色は昔のままだった。
△△△
夏の終わりの癖に滅茶苦茶気温が上がった日の夜、水風呂を浴びたけど体が火照りやがるからちょっとビール引っ掛けてから寝ようと思い、1本だけ飲んで戻ったら、清水の家の前に安東がいて俺を待っていやがった。
「立花、手前ぇ、あっちでやらかしたみたいだな」
「安東・・・さん、何の事ですか?」
「手前ぇのお袋さんから電話があったぞ、こっちに来てないかってな」
「家出中だから仕方ないじゃないですか」
「俺は、あっち知り合いがいんだよ。まぁ手前ぇの行ってるお利口な学校に通うような奴じゃないけどな」
「・・・」
ちっ・・・安東の知り合いのせいでこっちにも情報が回って来やがったか。
「俺ぁ、手前ぇのお袋さんには世話になったからお前を返すって約束した。清水達にも手前ぇを匿わないように言った。さぁケジメつけに行くから支度しろ」
「は?」
安東の家はホテルや飲食店を経営するが、そのメインとなるホテルで火災があった時、保険金がなかなか下りず経営が苦しかった所を、早くお金を下ろすよう掛け合ったのが、別の保険会社に勤めていたお袋だった。その時の恩の事を言っているんだろうが、逃走する気でいる俺にとっては迷惑でしかねぇ。
「独りで帰れるよっ!」
「俺ぁ、手前ぇが嘘つきだって知ってる。今回、恥知らずな奴って事も知っちまったがな」
「恥知らず!?」
「あぁ、手前ぇは酔って義理の妹にイタズラしているところを、妹の友達に見つかり暴力を振るって逃亡。その後何も知らないダチを騙して潜伏してたが、両親に見つかり、その友人の店を滅茶苦茶にして、その混乱の隙に逃亡したんだろ?」
「ちっ・・・違うっ!」
なんか微妙に誇張されているように感じるぞ!
「俺ぁ女に手をあげる奴は大っ嫌いなんだ、ましてや義理の妹に手を出すって最低だろ。親ぁ通じたとはいえ兄妹になったからには筋を通さなきゃならん」
「手なんかあげてねぇ!」
ただ下着をオカズにしただけだ。
「じゃあ何で義理の妹が家から出てんだ?」
「そんなの知らねぇ!」
「出てんだよ、手前ぇとは一緒に居たくねぇって言ってな」
「俺とは関係ねぇ!」
ユイちゃんには何もしてねぇ、ちょっと水辺の奴を押しのけようとした事で怖がらせたぐらいだろうが!
「関係あんだよ、往来でやってたから目撃者が多数って聞いてるぞ」
「ぐっ・・・でもやってねぇ・・・」
「どうせ未遂で済んだかやってねぇとか思ってんだろ」
「だからやってねぇって!」
別に手を出した訳じゃねぇだろ!
「あと不義理をする奴も許せねぇ。恩を受けたダチの店を荒らすってのはその最たるもんだ」
「本を少し散らかしただけだろ!」
「何が違う?」
「ぐっ・・・」
無茶苦茶にしたって言われる程じゃねぇだろ! それに丹波の奴は俺をチクりやがったんだ! 少しぐらい迷惑かけても問題無い筈だ!
「手前ぇは、自分よがりの目線で世間を見ているだけで、それによって人様がどれほど迷惑してるのか理解出来てねぇんだ。実際、今の手前ぇは受験である大和田と雲風を無理やり連れ回そうとしやがるしな」
「ちょっと遊ぼうって言っただけだろ・・・」
「手前ぇの受験っていうのは相当チョロかったんだな。まぁ頭だけは回りやがったからな」
「遊んだって良いじゃねぇか・・・」
「遊びたいなら流儀ってもんがあるんだ!」
「あんたも俺達を振り回して遊んだだろ!」
「あん?俺は清水達に声をかけたが手前ぇに声はかけた事はねぇぞ?手前ぇは清水達に金魚の糞の様についてきただけじゃねぇか。俺ぁ折角来たんだし、一人だけ無視するのも悪ぃと思って相手しただけだぞ」
「何だよそれ!」
「俺ぁ手前ぇに言った筈だぞ?手前ぇの目が気に入らねぇってな」
「そんなんじゃ分かんねぇよ!」
「手前ぇのお袋さんには世話になったしな、清水達と孤立するような事ぁ言わなかったんだよ」
くっ・・・安東はそんなに足が早くねぇから今すぐ逃走すれば逃げられるとは思うけど、今はちょっと出て来るだけのつもりだったから小銭入れ程度しか持ってねぇ。しばらく肌身離さず持ってたが、懐に入れ続けて札がふやけて来やがったから、こっちで買った鞄に入れてあったんだ。だから今逃げても成功する気がしねぇ。
「安東さん、これが清水の荷物っす」
「清水っ! 俺を売るのかっ!?」
「安東さんには逆らえねぇよ。俺はお前より安東さんの方に大きな義理があるからな」
「くそっ!」
俺の逃走資金が安東の手に渡ってしまった。これで取り戻す事が困難になった。
「手前ぇが家から大金を盗んだ事も聞いてんだよ。これ持ってバックられたら厄介だったからな」
「俺の金だぞ!」
「手前ぇの金じゃねぇよ! 手前ぇのお袋さんの金だ!」
「ぐっ・・・」
その通りだが、俺が持ってたし俺のもんだろ。
「さぁ、早く出ないと新幹線が使えなくなるからな、さっさと行くぞ!」
「くそっ!」
何とか隙を見て荷物取って逃げるしかねぇ。だがそんな事は安東も百も承知だ。俺はどうしたら良いんだ!?
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