IF21話 今更
「カオリの家にも先生から電話があったのか・・・」
「クラス全員の家に確認取っているって言ってた。でもサクラの家にもかかって来たみたいだから、見つからなくて他のクラスにもかけているんじゃないかしら?」
「中学校時代のクラスメイトって可能性もあるな・・・」
「立花君が電車のホームに向かう所を見た人がいたらしくて、市外にいるかもしれないってサクラには言ってたらしいわ」
立花の件はクラスの担任の耳に入ったらしく、捜索に協力をし始めているようで俺の家にも電話があった。部活に行く道中でカオリに聞いたら、サクラの家の方にも連絡があった事を教えられた。
そのまま立花が逃走し続ければ捜索は学校単位に上がり何らかの処分が下されるという話になる可能性もある。噂も消える事無く広がっていくし、逃げれば逃げるだけ捕まった時に損する状態になっているような気がしている。
「市外か・・・そういえば立花って中学校の時からこっち来たんだよな?」
「えぇ、そこまで来るとこちらではどうする事も出来ないわね」
「そうだな・・・」
友人の家を転々とする作戦なら別に地元の友人じゃ無くても良い訳か。でも広域捜査になると大変だな。
家から結構な金額をくすねて逃げているようなので、宿泊にお金を使わないなら結構な期間逃げ続けられるかもしれない。
とはいっても新学期が始まれば同級生関係の家に寝泊まりするのは厳しくなると思うけど、立花はどうするつもりなのかな。
△△△
「お疲れ様」
「お疲れ様ミノル君」
「あれ?今日は1人だったのか?」
「うん、今日はまだ坂城君来てないよ」
「珍しいな・・・」
「カオリちゃんは?」
「今着替えているところ」
「今、このメニューのここだけどどうする?」
「あぁ・・・じゃあ100のキックの所から加わるよ、20分あたりで良いよな?」
「うん、それぐらい」
「じゃあ続けてくれ」
「了解」
オルカと坂城は俺達より1時間早くから練習している事が多い。けれど今日は坂城は来ていないようだ。何か用事でも発生したのかもしれない。
「背中押そうか?」
「お願い」
カオリが水着に着替えてプールに上がって来たので始めていたストレッチを手伝って貰う。小学校の頃からずっとそうだったので、今更男女でも気恥ずかしいとかそういう事は無い。
「少し右側が固いわね・・・」
「昨日少しだけ寝違えたんだよ」
「じゃあ傷めないようゆっくり目でやるわね」
「あぁ」
カオリは俺とペアでストレッチをし続けて来たため、俺の体の調子にすぐ気が付いてしまう。
寝違いは筋肉の炎症だけど、毎日長時間練習していると、常に筋肉が炎症起こし続けている状態になるため、寝違い程度で休んだりはしない。ただ痛みでフォームが崩れる時があるので、そうならないように速度よりフォームに注意して練習する感じにするだけだ。
筋肉を太らせるためならもう少し休みながら練習した方が良いらしいけれど、長距離選手なので水の抵抗の少ないフォーム練習と心肺機能を向上させる高負荷運動の連続を重視している。オルカは早朝のロードワークを20㎞以下にするとスタミナが徐々に落ちていく気がするそうだ。心臓が高負荷に慣れ過ぎて低負荷な生活の方が体に合わないらしい。
そんなオルカだが筋肉を触らせて貰うと恐ろしいほど柔らかくしなやかだ。体の柔らかさもビックリ人間の様な柔らかさを持っている。俺やカオリも体操選手並みに柔らかい体を持っているけれどオルカの体作りにはとても関心させられている。
「じゃあ200アップしたら加わりましょう」
「了解」
昨日の夜間雨が降ったためか、水が冷たいように感じた。季節は暦上とっくに秋となっていて、少しづつプールの温度も下がってきている。様々なトンボがプールの水にチョンチョンと尻尾をつけて産卵をしているけれど、これがアキアカネばかりになる頃には水が冷たくて屋外プールで泳げなくなってしまう。
「ちょっと冷たいわね・・・」
「あぁ・・・アップを400に増やそうか」
「そうね・・・」
体が冷えて縮こまるとフォームが崩れる。それをそのままで続けると癖になってしまう。だからそうならないようアップで水に慣らして体を順応させてから負荷をかける練習に入るようにしている。
頭脳派じゃなく感覚派らしいオルカから「難しい事考えてるんだねぇ・・・」と言われてしまったけれど、俺とカオリはずっとこのやり方をしてきたし、坂城から「参考になるよ」と言われ、実際に導入した結果記録が伸びて行っているので、間違ってはいないと思っている。
△△△
「坂城君遅刻ぅ~」
「ごめんごめん」
坂城が俺達が練習を始めて1時間あとにやって来た、普段より2時間遅くにやって来た事になる。
「何かあったのか?」
「うん、ちょっと美術室で話し込んでいたんだよ」
「美術室?」
「うん、ショッピング街のシャッターに絵を描くって話を桃井さんとしてたでしょ?」
「あぁ」
「だからうちの美術部に話をしに行ってみたんだよ」
「夏休みでも活動していたのか?」
「うん、今井さんって子が1人で活動していたんだよ」
「へぇ・・・」
美術部の今井というとゲームのヒロインとして登場していた今井エリカだろう。前衛的な絵であるため周囲から評価されないけれど、ゲームでは好感度が上がっていると3年の2学期に国展で賞を取って評価されるというイベントが発生する。
文化祭で酩酊感を感じる絵や平衡感覚を失わせる絵を描いて、見ていた生徒が倒れるといったイベントが起きる。
ゲームでは幼少期パートでの行動によって、カオリの趣味嗜好が変化し高校で入る部活が変化する。そのためカオリが美術部に入るルートになる時があるのだけど、その時は今井は声楽部に入りソロのコーラスで同じような現象を起こすキャラになっていた。
ゲームのイメージアルバムに収録された曲はソプラノボイスのとても綺麗な歌声で音痴では無かった。だから声楽部ルートに入った今井を攻略する事をローレライルートだと一部では言われていた。
「それで描いてた絵が物凄い綺麗だったから話し込んでしまったんだよ」
「なるほどな・・・」
どうやら坂城は前衛的な絵を評価できる目を持っているようだ。もしかしたら坂城はゲーム的な能力値が世界に存在した場合、芸術系のステータスがとても高い人物なのかもしれない。
「エリちゃんは私の友達だよ、同じ中学校出身なんだ~」
「そうなのか?」
そういえばゲームではオルカと美術部のヒロインである今井は仲が良かった。
ゲームのヒロインは8人だが、主人公とお助けキャラである立花タカシのように、それぞれに対になっていて、サウンドノベルではその2人で掛け合いをし、イメージアルバムでも同じページに描かれていた。
カオリの隣はサクラで、オルカの隣は今井エリカ、ユイの隣は文芸部の古関フミコ、放送部の真田マコトの隣は科学部の涼宮サイコだった。
「話し込むのは後にして、今は練習をしましょ?」
「そうだね・・・、話し込むとメニューこなせなくなっちゃうね・・・」
「今メニューのここだから15分のあたりスイム200のインターバルから参加しろよ」
「そうだね、ちょっと急いでアップするよ」
「ちゃんと体をほぐすのよ」
「ストレッチはしなきゃダメ~」
興奮している坂城には悪いが今は練習中だ。話は昼休憩の時にでも聞けばいいだろう。
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