IF18話 良かれと思ってしたこと

 1日目の夜、うちの顧問の入浴を覗いた猛者がいたらしい。誰かは不明だけど人影を見たそうだ。うちの顧問は女性ではあるけれど50代で体形はトドだ、犯人はカオリかオルカでも覗こうとしたんだろう。

 ちなみにその時間、水泳部員の女子1年生は、部屋で勉強会という名の課題の写し合いをしていて無事だったらしい。

 サッカー部も、元々3年生に女性のマネージャーがいたけれど、インターハイのあと他の3年生と共に引退し、いない状態になっていたため被害は無かった。


 男子サッカー部の顧問が激怒し、男子生徒全員が集められ犯人探しが行われる事となった。その結果アリバイの無い人が3人いる事が分かり、その中にカオリに言われて1人で花火の買い出しに行っていた俺も含まれてしまった。

 花火とレシートという物的証拠はあるのだけど、走れば出来ない事もないという理由で却下された。

 結局覗きは現行犯じゃなければ成立せず、疑わしきは罰せずで放免される事になった。けれど「犯人が名乗り出るまで花火は禁止」と言われてモヤモヤした気分となった。


「吉岡先生と相澤先生って親子なんだよ」

「えっ?そうなのか?」

「うん、吉岡先生は旧姓を使っているんだって。結婚して相澤アイコになった時、アイアイという猿がブームになっていて、生徒から陰口でメガネ猿って呼ばれちゃったんだってさ」

「あぁ、確かに吉岡先生ってメガネかけてるよな・・・ザマスって言いそうな感じの」

「昔は丸いメガネだったんだって、なんかその時の事がトラウマになって変えたらしいよ」

「なるほどな・・・」


 水泳部の顧問がマダムみたいなスタイルになっているのにも理由があった訳か。


「でも随分と詳しいな・・・」

「僕の父さんって、その当時ここの生徒だったんだけど、美人の吉岡先生に憧れてたんだって。だから結婚した時ショックで寝込んだらしいよ?今は吉岡先生の体型を見てショックを受けてるみたいだけどね」

「美人か・・・まぁ顔立ちは綺麗そうだもんな・・・」

「うん、勿体ないよね、あのメガネ」


 水泳部顧問は太っているからか肌のハリは結構良く顔立ちも綺麗だ。痩せていた時は美人だったと言われればそうだっただろうと思う、だけど何故あのメガネをチョイスしたのだろうか。コンタクトではいけなかったのだろうか。


「そうえばサクラから聞いたんだが、立花が泊まりに来たんだって?」

「うん、急に電話がかかって来て2日泊まって、うちに遊びに来ていた丹波君と意気投合して泊まりに行っちゃったよ」

「何か言ってたか?」

「家でゴロゴロし過ぎて暇になったんだってさ」

「暇にねぇ・・・」 


 暇だったから妹の下着にイタズラしたり、酒飲んで同級生に暴力振ろうとしてたとか笑えないな。


「でも違ったんだね」

「あぁ・・・誰かから聞いたのか?」

「神谷さんが水辺さんと話しているのを聞いちゃったんだよ」

「あぁ・・・神谷は家が近いんだったな」

「立花君、学校来づらくなっちゃうね」

「まぁ自業自得だがな・・・」

「僕、吉岡先生がお風呂で覗かれた時間、丹波君に電話をしてたんだけどさ」

「あぁ、電話している所を見た人がいるっていうのが田村のアリバイだったな」

「立花君のご両親が丹波君の家に迎えに来たんだけど、丹波君に「チクったな!」って言って逃走したらしいよ」

「マジかよ・・・」

「その時店の中の本を滅茶苦茶にされたみたいで、片付けやらで大変だったんだって」

「店で暴れたのか!?」

「うん・・・」


 おいおい、店の商品を滅茶苦茶にしたって、警察沙汰にされても文句言えない奴だぞ。


「学校にバレたら退学案件だな」

「ご両親が謝り続けていていたたまれなかったんだって」

「だろうなぁ・・・」


 なんとか警察沙汰にしないように考えているんだろうな。自身たちの為か、立花の為か、ユイの為か、それは分からないけどな。

 でも大事になる前に警察に厄介になった方が良かったなんて可能性がありそうだ。良かれと思ってしたことが裏目に出る事なんて世の中にはごまんとあるものだからな。


△△△


 合宿3日目は運命の日だ。何故ならゲームでヒロインが所属する部活に入部していると20%の確率で食中毒事件が起こるからだ。


「このセリってやつ怪しくないか?」

「お父さんの知り合いのプロの山菜採りが送ってくれたのよ?」

「だってこの図鑑のドクゼリって奴に似て無いか?」

「プロだし大丈夫よ」

「セリは春の山菜って書いてあるぞ?」

「冷涼なところは夏でも生えるって書いてあるわ」

「この図鑑にも「食べられるかはっきり分からない山菜は食べない」って書いてあるぞ?」

「もうっ・・・心配性ねぇ」


 カオリの荷物が妙に大きいと思っていたら、そうめんの為のめんつゆの材料と天ぷらにするための材料と、その具材である山菜が入っていたそうだ。この山菜の中に食中毒を発生させるXが存在すると考えた方が良い。

 幸い図書室に山菜図鑑があったので、それを持って全て確認していった。間違いやすい山菜も写真付きで掲載されるタイプだったので、それの記載が無いものや、見分け方を確認して問題無いと確信できたものを取り除いたら、カオリがセリだと主張するものだけが残ってしまった。プロでも間違える事があるって書いてあるし、Xがいると仮定するとこれ以外にあり得ないと思う。

 何で天ぷらにするならナスとかカボチャとか玉ねぎとか椎茸とか午房とか無難なものにしないのだろう。いや山菜の天ぷらと相性の良いそうめんをチョイスし、部長に食糧費の提供をお願いした俺が悪いのかもしれないけどさ。


 カオリとオルカの手料理に舞い上がっている他の部員は、「女神と天使に逆らうの?」みたいな感じで、山菜図鑑を借りて来た俺を怪しげな目で見たけど、食中毒を20%の確率で発生させる人間が2人いるんだぞ?今年しのいでもあと2年あるんだぞ?当たらない方が運がいいレベルだと思った方が良いんだぞ?当初部長が考えていた計画では、自炊のメニューはそうめんじゃなくカレーだった。それが毒草といつ焼いたか分からない蠣が混入された山菜海鮮カレーだったら、見た目と匂いで気が付かず集団食中毒まっしぐらだったんだぞ?


「ほら綺麗に揚がったよ~」

「「「おー!」」」


 氷水の中を泳ぐそうめんの前でお預けを食らっていた水泳部の野郎どもがオルカによる天ぷらの仕上がり知らせる声に歓声をあげた。


 オルカは花火が禁止されたと聞いて落ち込んでいたけれど、合宿帰りにみんなでオルカの家の前の公園に集まって花火をする事が伝えられて、すっかり機嫌が戻っていた。

 オルカは家庭の事情でみんなで花火をするという機会が今まで一度もなかったそうだ。ユイも父子家庭で同じ状態だったらしく、一緒に花火をした事は無かったらしい。

 ユイは母親が健在の時や再婚したあとに花火をした事がある可能性があるけれど、機会としては少ないだろう。だから合宿のあと、神社に登った面子とショッピング街で立花に迷惑をかけられた面子を集めて、ユイを囲んでみんなで花火をしようと思っている。


△△△


 合宿最終日に新人戦の出場者の発表があった。新人戦は、カオリとオルカが出場する国体の翌週に開催される1年生と2年生だけが出場できる大会だ。標準記録などは無いけれど、各校個人種目は2名づつまでの参加と決まっているので全員が得意種目に出られる訳では無い。団体種目を除き1人2種目まで出場と決まっていても、自由形の短距離など人気種目は希望者が多いため早い選手を出場から選ぶからだ。

 但し、俺とカオリと坂城とオルカは不人気種目である個人目メドレーと長距離の選手なので誰とも被らなかった。


 平泳ぎが得意な諸見里は問題無く100mと200mで出場が決まったけれど、自由形の短距離が得意らしい豊前と神谷は自由形が得意な2年生の町田先輩と金城先輩に勝てず400mに距離を伸ばして出場する事になった。


 男子はフリーリレーもメドレーリレーも俺と坂城と部長と副部長が出場する事になった。メドレーでは俺が背泳、坂城が自由形、部長がバタフライ、副部長が平泳ぎを泳いだ方が総合タイムで早いらしく、そうメンバー組をすると部長から伝えられた。


 女子のフリーリレーはカオリとオルカと町田先輩と金城先輩で、メドレーリレーはカオリとオルカと諸見里と女子の副部長が出場すると発表された。カオリがバタフライ、オルカが自由形、諸見里が平泳ぎ、女子の副部長が背泳を泳ぐらしい。

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