IF17話 握力つえぇな
立花が意外と近い場所にいた事がすぐに判明した。田村の家に2日滞在したあと丹波の家に向かったとサクラからカオリに連絡があったからだ。どうやらクラスメイトの家を転々とするつもりらしい。
うちはショッピング街から少し離れているけれど、同じ学区内ではあるし駅前の方に向かう時にショッピング街の外れを通るので、意外な近さに気持ち悪さを感じた。
一応ユイの家には立花のいる場所の連絡をしておいた。既に丹波の家からもいなくなっている可能性があるけれど見つかる可能性が一番高い場所だからだ。
ただ立花が外にいるという事はユイは家に帰りやすいとも言える。シオリと楽しそうにしているし、親父も娘のような存在が増えた事が嬉しいのかニコニコしているので、ずっといて貰っても問題無さそうに思う。けれどそうもいかないだろう、第一ユイも父親と義母が離婚して欲しくないと言うほど慕っている相手だ、俺達のようにポッと出の知り合いがいつまでも家族面ではいけない相手なのだ。
とりあえず立花が外で犯罪的な事をしていなくて良かったという感想だ。もしそうならユイの進路にも影響してしまった可能性があった。多少素行が悪くてもスポーツや芸能などの才能があれば受け入れる方針の姉妹校とは違い、うちの高校は学業の名門校として評判をかなり大事にしている。警察沙汰にでもなったら立花は即退学だと言われていただろうし、妹であるユイもかなり心証が悪くなるだろう。
姉妹校は、俺が主人公になっているゲームの後継作である3作目と4作目の主人公が通う高校だ。1作目で癖の強いヒロインが人気投票で低かったため、2作目では正統派ヒロインを増やした結果ゲーム性は良いけどインパクトが落ちたと評価を受けた。だから3作目で同じ街にある別の高校を舞台にしてインパクトの強いヒロインを増やした結果大当たりした、4作目ではさらにインパクトの強いヒロインを増やした結果、変な語尾のヒロインが増えてしまって世界観が大いに崩れた。
5作目では、元の高校に舞台が戻ったけれど、もはや別ゲーと言われた異能バトル設定がある学園ものという迷走作が作られ酷評されてしまい、このシリーズは低迷してしまった。
原点回帰と言われる1作目を踏襲した6作目を作っても人気は戻らず、人気声優陣を大量に投入した意欲作の7作目の大失敗で遂にはコンシューマー版から撤退すると発表されていた。
そういえば5作目の宇宙人ヒロインはずっとこの街を見守ってる設定だった。確か天文部に入ってしっかり活動し、文化祭で成功させたあと1月4日の早朝の流星群を学校の裏山に見に行くと遭遇するんだったな。
親父は男尊女卑が強い筑豊県出身だが、外国の文学を好んだ親父はウーマンリブの精神に感化され、女性の社会進出が比較的進んでいた武蔵府の大学に入ったという人だ。同じく男尊女卑が強い長門県出身で武蔵府の大学に逃げるように進学したお袋と結婚したため、親父とお袋はあまり実家に帰りたがらない。
お袋の実家はまだ優しい方だけど、親父の実家はお袋やシオリに対してかなり横柄な人が多い。冠婚葬祭で行く事がたまにあるのだけれど、1回目の帰省で俺やシオリは相手を嫌い、用事があっても最低限の参加しかしなくなっている。
もし、今年の冬に帰省しないのなら1月4日の早朝に学校の裏山に行ってみるのもいいかもしれない。
「じゃあ合宿に行ってくる、何かあったら学校に連絡すればいるからな」
「「いってらっしゃーい」」
ユイとシオリに見送られ家を出ると、カオリが家から出て来た。
「おはようカオリ」
「おはようミノル」
「合宿中は良い天気が続くみたいだな」
「えぇ、みんなで花火をするのが楽しみだわ」
「随分と荷物が多いな」
「そうめんの材料と夏休みの課題よ」
「えっ?課題ってまだやってなかったのか?」
カオリはこういった休みの課題をすぐに終わらせているタイプなので意外だ。
「私は終わってるわ。オルカが終わってないのよ」
「もしかして写させてって奴か?」
「えぇ」
「本人の為にならないんじゃないか?」
「そうは思うけど、最低限の勉強は出来るし、水泳だけで食べられるようになりそうな子だから良いかなって」
「最低限って赤点ギリギリの事か?」
「うちの高校だから赤点ギリギリだけど姉妹校だったら平均点以上よ?」
「あっちの高校と比べてもなぁ・・・」
全国偏差値70近いうちと、50未満の姉妹校を比べたら確かにそうなる。オルカは普段がポンコツなので勘違いしてしまうが、そこまで頭は悪くない。勘も良いしな。
駅前からバスに乗り学校前のバス停につくと、丁度オルカがやって来るところだった。
「あっ・・・このバス乗ってたんだ、おはよう」
「おはようオルカさん」
「おはようオルカ、当たり前の事だと思うが優勝おめでとう」
「ありがとう」
インターハイでオルカは400mの2種目で大会新記録を出して優勝をしていた。カオリも200mと400mのメドレーリレーで大会新記録を出して優勝しているので、スポーツ新聞の記事では2人揃って大会優勝メダルを2つかけた写真がトップ記事で掲載されていた。
世界記録や五輪記録には程遠い状態なのに、それでもメダル候補と紹介されていた。最近の記録が伸びての大会新記録なので水泳界の期待が相当に高いのだろう。
「生麺は買って来なかったよな?」
「ちゃんとそうめんを買ったよ?・・・多分」
「多分?」
「私はカオリから包装紙に包まれたもの渡されただけだから」
「そうか・・・」
2人でワイワイとお土産選んでいる情景を想像していたのに、カオリがテキパキと選んで、オルカに荷物持ちさせている情景に置き換わってしまった。
「オルカにも選ばせてあげてよ・・・」
「私的なお土産は自由に選ばせたわよ、ただそうめんは部活のお使いみたいなものだし失敗出来なかったの」
「私に選ばせたら失敗すると思われてたんだ・・・」
「オルカ・・・強く生きような」
「私がまるで悪者みたいな言い方ね」
「・・・カオリは正しいよ・・・」
「何かあったのか?」
「うどんに合う酒というのを買おうとしてたのよ・・・」
「お酒って書かれた部分が他の商品の陰で見えなかったんだよ!」
「それって銘柄なのか?もしかして日本酒か?」
「えぇ・・・完全に日本酒の瓶だったわ・・・」
「えぇ~」
「あと火が通っているから大丈夫と言って焼き蠣買おうとしてたの」
「ただ良い匂いだから見てただけだよ!」
「それなら別に問題無いな・・・」
「「お土産に出来ますか?」って聞いてたのよ」
「おい・・・」
「ぷぃっ」
頬をぷくっ膨らませて横を向いて可愛いじゃねぇか・・・でも騙されないぞ?
「カオリは良くやった、オルカはギルティ」
「控訴します!」
「有罪」
「死刑」
「上告します!」
「上告棄却」
「死刑確定」
「抗告します!」
「抗告棄却」
「死刑執行」
「ガーン!」
そんな冗談を言いながら合宿所に行くと、同日に合宿をするサッカー部がロビーに集まっている所だった。
「あっ、佐野君おはよう」
「おー、水辺か、優勝おめでとう」
「カオリちゃんもだよ」
「新聞で見たよ、ほんと水泳部はすげぇな」
「佐野君達はどうだったの?」
「3回戦突破だな」
「充分すごいじゃん!」
「まぁ悪くは無かったかな、おかげで地元のプロチームのスカウトから名刺貰ったよ」
「えっ?それってプロになるって事?」
「練習場に遊びに来なさいって言われただけだよ」
「すごいね~」
どうやらうちのサッカー部にも将来のプロリーガーがいるらしい。
「それにしても田中って言ったか?」
「あぁ田中だが・・・」
「水辺はうちのクラスのアイドルだからな?泣かせたら承知しねぇぞ?」
「笑い泣きさせたらダメか?」
「それなら問題ねぇ!」
手を俺の前に出して来たのでガシっと掴んだ。どうやら佐野は熱い人間らしい。それにしても握力つえぇな。サッカーって足使う競技じゃなかったか?
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