IF15話 同情の余地
「分量通りに作るんだね」
「あぁ、箱の裏に書かれているのは、企業が何度も検証して適正だと判断した分量だからな。まずその通りに作って、味のアレンジは皿の上の範囲ですれば良い」
「なるほど・・・」
味が濃いと思ったらライスを足し、薄いと思ったら醤油やソースでもかければ良い。鍋の中でやる事では無いと思っている。
「半分余った人参と1個だけ残った玉ねぎはどうするの?」
「きんぴらにしたり、刻んでチャーハンの具でも良いし、野菜スティックでも良いんじゃないか?」
「なんでだろう・・・女として敗北感を感じる・・・」
シオリは格闘ばかりに熱をあげるんじゃなく、もう少し家事を手伝った方が良いぞ。このままだと嫁の貰い手が無くなってしまうからな。
「お兄ちゃんをお嫁さんにしたいかも」
「水泳選手として結構稼いだらミノルを家政婦として雇うよ」
「そん時はよろしく」
「くっ・・・ユイカさんにもっと学んどくべきだった!」
女が3人で姦しいというけど本当だな。それに一般家庭のキッチンにこの人数は結構狭い。美少女ばかりのハーレム状態で周囲から羨望の状態だろうけど、俺の本命はカオリだけだからな。
「ただいま〜」
「帰ったぞ〜」
あとカレルーを入れてひと煮立ちという所で親父とお袋が帰って来た。
二次会三次会があるかもと言われてたけど、意外と早く帰って来たようだ。
「おかえり」
「お土産は?」
「お邪魔しています」
「こんばんわ」
礼服でネクタイを緩めた状態との親父と黒い和服を着て引き出物が入っていると思われるお袋が、キッチンにいる俺達見て固まっていた。
「今カレー作ってるけど食べる?」
「英国風だよ〜」
いつもより美少女が2人ばかり増えているけど、普通の調理風景だと思うんだが。
「何羨ましか事しとったい!」
「お母さん1人に絞った方が良いと思うの」
「隣んカオリしゃんがおるとに、きれか女ん子ば侍らしぇて、許しぇん!!」
「サクラさんもいるというのに申し訳ないと思わないの?」
うん・・・親父の方言は久しぶりに聞いたので単語が不明だ。だけど状況から言いたいことはなんとなく分かる。別にやましい事はしてないから怒りは沈めて欲しい。
△△△
「まぁ取り敢えず電話するしか無いだろう、このままでは私たちが誘拐したと言われかねないからな、親御さんはもう帰宅してる時間?」
「ユイカさんは帰宅してる時間です。でもお父さんは残業多いから分からないです」
「分かったじゃあ私が電話をしてみよう」
親父は電話の子機を持ってくると、ユイがメモした番号に電話をかけた。
「ん?繋がらないな・・・、うん・・・・やっぱ繋がらない・・・話し中かもしれんな」
どうやダイヤルしてもすぐに切れる状態らしい。時間を空けてかけるしか無いだろう。
「遅くなってきたけどオルカは大丈夫か?」
「うん、大丈夫、お婆ちゃんには言ってあるから」
「泊まるのか?」
「ううん、帰るよ、カレーが気になって残っただけだから」
「じゃあ送っていくよ、女性の一人歩きは危険だからね」
「大丈夫だよ」
「俺が心配なんだよ、送らせてくれ」
「うん・・・」
何となく嫌な予感がするんだよね。
「ミノル・・・私はお前に女の子は守らねばいかんと言った」
「うん、守ってるよ」
「無責任な事はするなよ」
「あぁ、責任を持って守るよ」
「・・・あぁ・・・ちゃんと守るんだぞ?傷つけるんじゃないぞ?」
「しつこいなぁ・・・ちゃんと守るってば」
「・・・まぁ大丈夫か・・・」
なんだよ・・・ちゃんと責任を持って守るために送るんだろ?何か間違ってるのか?
「お父さん・・・お兄ちゃんの育て方、間違えたんだよ」
「そうかもしれんな・・・」
何か失礼な事を言われている気がするんだが何でだ?
「・・・やっぱり繋がらんな・・・」
「あなた、ユイさんを探して方々に電話をかけてるかもしれませんよ?」
「電話ではなく、きちんと挨拶しておいた方がいいかもしれんな。お酒で車の運転が出来ないからタクシーを呼ぶか」
「もしあちらに行かれるならユイさんも連れて行ったほうが良いわよ。顔を見せた方が安心なさるでしょ」
「あぁ、父さんとミノルとユイさんとオルカさんで行こう」
「大きめのバッグも持っていった方が良いわよ、ユイさん、あまり家からものを持ち出せなかったみたいですから」
「そうだな・・・」
親父は慣れた手つきで電話番号を押してタクシーを呼んだ。親父は今井物産という会社の営業として飛び回ってるらしいので、タクシーを呼ぶ機会が多いのだろう。
△△△
「オルカちゃんありがとうね」
「うんお休み」
「インターハイがんばれよ!」
ユイの家の前にタクシー到着した。家の明かりがついており、特に異常は感じられない。
オルカはそのまま帰っていった。明後日インターハイ出発だし変な事に付き合わせないほうが良い。
インターホンを押してしばらくすると、家の扉が開いて、中からユイをそのまま年を重ねさせたような女性が現れた。
「はいどちら様でしょうか」
「夜分遅く申し訳ありません、お宅のユイさんの件で伺わせて参りました」
「あらユイちゃん、遅いと思ったら送って貰ったの?玄関先では何ですし、どうぞお入り下さい」
「失礼いたします」
俺とユイは無言で入った、大人同士の話に介入する気はないからだ。
それにしてもユイの義母さんユイに似てるな。血が繋がってないって本当なのか?
「お茶を出しますから少しお待ちください」
「いえお気遣い無く」
ユイの義母が出したお茶は随分と色の濃いお茶だった。さぞ苦いんだろうと思い飲んだら、意外とそうでは無く、濃いけどさわやかな味がした。
「深蒸し茶ですか・・・」
「あら、よくご存知ですね」
「えぇ私の勤める会社でも扱っているものですから」
「あら、そうなんですね、あまり外では見かけないので地元でしか出回らないものかと思っていました」
「最近そういった珍しいものを求める方が多いんですよ、それを開拓してお客様に提供するのが私の仕事なんです」
「そうなんですね・・・」
へぇ・・・親父の会社ってそういう会社なんだ。商社だって事ぐらいしか知らなかったよ。
「それで、本題なんですが」
「はい、なんでしょう?」
「ユイさんは、こちらの御子息様とは同居は出来ません」
「・・・それはどういうことでしょうか?」
「はい、ユイさんは家で保管している下着を、お宅の御子息様によってイタズラされています」
「・・・」
「今日その件を追求した水辺オルカさんが、逆上したご子息様に手を上げられました」
「・・・」
「そのため怖くなり私の娘に助けを求めました」
「・・・」
「普段から嫌らしい目線を向けられ、この家は居心地が悪かったそうです」
「・・・」
「今回は未遂で済ませられる範囲ですが、これから先は分かりません。ユイさんは恐怖を感じております」
「・・・あぁ・・・そういう事だったのね・・・」
ユイの義母は、ユイの異変か立花の態度を変だとは思っていたようだ。
「お気づきになられてませんでしたか?」
「何となくおかしいとは思っていました」
完全には分からなかったって事か。家族の前ではうまく隠してたにしても3年間も気が付かないとかあるものなのかな。
「こちらの家庭の複雑な事情も聞いております、ユイさんは、義両親が離婚される事を望んでおられません、だから今まで我慢して来ました。でももうユイさんはご子息様と同居を我慢する事は出来ません」
「再婚は失敗だったのかしら・・・」
「ユイ様はお義母様を慕っているようです。だからそうだとは私も思いません。ただユイさんはもうご子息様の事を我慢が出来ません。ご両親様が今の生活を維持するためにユイさんに我慢を強いる方で無いことを願っております」
「・・・えぇ・・・私もシズカの子にそんな事はだせられないわ」
「ご理解頂き感謝いたします」
母親同士が親友だって言ってたもんな、ユイの事を親友の残した子だと思って大切に思ってたんだな。そんな良い家族が転生者という異物が子供に乗り移った事で壊れたのか。
「ユイちゃんはどうするのかしら?」
「こちら様が落ち着かれるまで我が家で預らせて頂こうと思っています。我が家にはユイさんと同じ歳の娘がおります。違う中学校に通っておりますが、同じ高校を受験するようでとても仲が良いようです」
「それは助かります、私も主人と相談して、早急にこの件を解決しようと思います」
「よろしくお願いします」
「いえ・・・お願いするのはこちらです、後日主人とお礼に伺わせて頂きます」
本来はユイの家がお願いする立場だよな。まぁうちが無理矢理介入したからきたんだけどさ。
「そういえばこの家の電話はずっと話し中の状態のようです、受話器が外れるか、電話回線が切れたりしてませんか?」
「えっ?」
「伺う前に何度かかけたのですが繋がら無かったのです。何か事件が起きてないか心配してこちらに伺った次第です」
「それは重ね重ね申し訳ありません」
「では我々はユイさんの勉強道具や着替えなどを持ちださせて貰おうと思います」
「わかりました」
ユイにいくつも持ってきた旅行バッグを渡して荷物を詰めさせた。
1つの袋は全部下着類らしい。
残して触られるのが嫌なんだそうだ。
荷物はスポーツバッグ4つ分ぐらいになった。気が早いけど冬物の制服も持って行くらしい。
「電話機のコードが刃物のようなもので切られていました、あといくらかお包みしようと自宅で保管している現金を探したのですが見当たりあせん。申し訳ありませんが、ユイちゃんの生活費をしばらく立て替えて貰えませんでしょうか」
「えぇ構いません、ご子息様の捜索願は早めに出した方が良いかもしれませんね」
「それが必要ですか・・・」
「えぇ、手遅れになってユイちゃんの進路に影響が出たら可哀想ですから」
立花は家の金を盗んで逃走しているようだ、しかも発覚を遅らせるために電話回線のケーブルを切断してる。
ものすごく呆れた奴だな。
もし接触してきても同情の余地無しだと思った方が良いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます