IF12話 股間が痛ぇ(立花視点)
この世界の主人公である田中は変だ。
1年の体育祭で活躍するほど運動ばかりしている脳筋野郎で、明らかに水辺狙いなのに、勉強もそこそできる。
裏技能力チートを使っている訳ではない。もし使っていれば、テストはずっと1位になるし、全国大会に出場できないなんて事にもならない。
状態としては1年分ぐらいステータスをあげた状態からスタートしている感じだ。そんな状態からスタート出来るなんて前世のゲーム設定からはあり得ない状態だ。
田中の変な噂は立ちまくっている。どうやら真田と出会いのイベントを終えているのに、真田の不満を解消しないまま放置しているらしい。
けれど綾瀬や桃井や水辺の好感度が下がっている様子は見られない。
普通だったらヒロインに嫌悪感丸出しの表情をされ逃げ出される筈なのに、普通に冗談を言い合い楽しそうにしている。
そもそも最初から変だった。
まず田中はお助けキャラである俺にヒロインの情報を聞いて来ない。なのに水辺の連絡先を知っているようだった。
まぁこれは俺は水辺の家が3軒隣であると伝えてしまったためそれで知った事になったとすれば納得出来るが。ただ、水辺が水泳部にいるのは確実に変だ。何故なら綾瀬が水泳部に入ったら、水辺は陸上部に入ると決まっているからだ。それなのに、水辺は綾瀬と一緒に水泳部に入っていた。
もしかして俺の他にも転生者がいるのだろうか。それなら一番怪しいのは綾瀬だ。
綾瀬の所属する部活は主人公の行動によって決まる。綾瀬が水泳部になるには、主人公がスイミングスクールに通うという選択をする必要がある。そのあと小学6年生の時に隣の家族同士でキャンプに行った際に川で遊ぶを選択をすると綾瀬が溺れ、それを主人公が泳いで助ける事になる。
その結果綾瀬は中学校で水泳部に所属し、高校でも水泳部に入る事になる。
しかし確認すると綾瀬は小学校2年の時にはスイミングに通い、小学校5年の時にジュニアオリンピック優勝している。
まるで田中がスイミングに通いだしたから、将来キャンプ中に溺れる事を危険視しスイミングスクールに通い始めたのなら辻褄があう。
田中の能力が高いことも、転生者である綾瀬が田中の尻を叩いていたとすれば納得できる。
次に怪しいのは田中だ。単純に努力してそうなった可能性はある。ただそうなるとゲーム知識を持たない転生者という可能性が高い。何故なら高校の時に底辺から勝ち組に成長するのに、わざわざ事前に努力する意味が無いからだ。
あとは水辺が陸上に興味を持たない転生者だったパターンの可能性もあるけどそれは低そうに思う。それならテストの成績はもう少し良くなっていると思うからだ。
どっちにしても結構厄介な状況だ、田中がこのまま成長すれば短期間で綾瀬の攻略フラグに達する能力値を得てしまう。そうなると俺がヒロインを寝取れる可能性がなくなる。
女に縁がなく、三流大学に入学し、ゴシップ雑誌の記者になるという未来になってしまう。
いや・・・まだ分からない、必要なステータスに容姿と芸術という項目があった。
田中はお洒落に気を使っている様子は無い。たまたま見かけた私服はダサかった。センスが10年ぐらい古い感じがしていた。
芸術については不明だけど、あんな脳筋で、美術部員レベルの芸術は無いだろう。
△△△
夏休みに入り自堕落な生活を送っている。リビングで高校野球を見て、終わったら寝るかテレビゲームをするという感じだ。
ユイちゃんは俺と同じ高校を目指しているらしく夏期講習に行ったりしていた。だが水辺の家で寝泊まりしていて殆ど家には帰って来ない。
高校野球が雨天延期となり、テレビゲームも飽きた。やることが無くなり久しぶりに外に出たら、公園でユイちゃんと水辺がバスケをしていた。
高校野球の会場と違いこちらはほぼ無風の炎天下。蝉の鳴き声がうるさい中で良くやるよと呆れてしまう。
ただユイちゃんが俺の前ではした事が無い楽しそうな表情を水辺の前でしていて、それが無性に腹が立った。
気分がムカつき、酒が飲みたくなったので、商店街の酒屋の自販機でビールを買い、人気のない所で飲んだ。この時代は年齢確認なんかなく、酒もタバコの自販機で簡単に手に入る。
タバコは前世の記憶から我慢出来なくなるのを知っているし、吸ってるのをバレたら退学だって事は知ってる。だが酒なら大丈夫だと知っていた。ビール程度であれば、持っていても、家族の使いで買ったと言えば問題ないし、暗がりで飲んで容器はポイ捨てすればバレたりしない。
ビール1本程度なら、水をがぶ飲みして寝てしまえば起きた時には酒は抜けてるし服に匂いが染み付いてるなんて事も無い。
「お祭り来年も行きたいね」
「初詣はあそこの神社に行こうよ」
「私は年末年始はお父さんの所に行かないといけないかも」
「そっかぁ・・・」
「そうだ・・・私がインターハイ行ってる間どうするの?」
「シオリちゃんの家にお願いできないかな。同じ高校目指してるし一緒に勉強しようって言ってくれたんだよね。ちょっとこっちにいるのは怖いし」
「あっちなら、田中君もいるし安心だね」
「うん」
公園の前を通ると、ベンチに座って話しているユイちゃんと水辺の話が風に乗って聞こえて来た。
一応新聞部に所属しているので、8月の第2週に四国の方でインターハイがある事は知っていた。その間、ユイちゃんは水辺の家に居れないのでシオリという名の友人の家に泊まりにいくのだろう。ただ何で田中の名前が出てくる?
「ユイちゃん、どこかに泊まりに行くのか?」
「っ!」
俺が声をかけたら、ユイちゃんがビクっと体を震わせる固まってしまった。そして水辺がユイちゃんを庇うように俺の前に立ち塞がった。
「どけよ」
「いやだね」
「家族の間に入ってくるなよ」
「あんたはユイちゃんの家族じゃないよ」
「なんだとっ!?」
誰が何と言おうと、俺とユイちゃんは兄妹だ。家族じゃ無いなんて言われる筋合いは無い。
「臭っ・・・呆れた・・・未成年なのに真っ昼間から酒飲んでるんだ」
「少しぐらい良いだろ」
「まぁあんたがどうなろうとどうでも良いけどね」
「なにぃ?」
思いっきり睨みつけるけど、水辺は全く怯んだ様子は無かった。
「妹の下着で発情するなんて家族じゃ無いのよ!」
「っ!?」
ちっ・・・知られてたか。バレないようにしていたつもりなんだがな。
「ちょっとしたイタズラだろ?」
「はは・・・認めるんだ。誰かに触られてるっぽいって程度だったんだけどね」
「っ! 騙しやがったのか!?」
「状況的にあんたしかいないのよ!」
「くそっ!」
俺は水辺の胸ぐらを掴もうとした所で股間に強烈な痛みを感じて蹲った。どうやら急所を蹴られたらしい。
「呆れた・・・女に暴力奮って来るんだ」
「蹴られたのは・・・俺だぞ・・・」
「正当防衛っていうのよ、じゃあ私、今あった事、全部ユイカさんに連絡させて貰うから」
「チクんのか!?」
少し大き目の声を出すだけで股間がズキッと痛みやがる。
「えぇ・・・ユイの近くから、あんたみたいなの排除しないと安心出来ないのよ」
「そんなことさせるか!」
気合を入れて立ち上がろうとしたけど、足に力を入れようとするだけで股間に強烈な痛みが走り力を抜くしか無かった。
「私が言わなくても手遅れだと思うけどね」
「なに!?」
くそっ・・・股間がいてぇ・・・。
「夏休みで遊んでる子がどれほど聞いてると思ってるの? しかも大声で怒鳴って、ご近所さんにも聞こえてるんじゃないかしら?」
「っ!?」
「酔って頭がおかしくなってるんじゃないの?」
くそっ! ビールなんて飲むんじゃ無かった。
「じゃあユイ行こう?」
「うん・・・」
「待てっ!」
ユイちゃんと水辺は俺の静止を無視して去って行った。
ギコギコと鳴るシーソーの音と餓鬼の笑い声と急に鳴きだした蝉の声が聞こえ、それがさらに俺をイラつかせた。
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