IF1章 高校1年生編

IF1話 何となく察してる

 本編の、ゲーム主人公とお助けキャラの人格が逆転していたらどうなっていたかという仮定で書き始めた話です。その他設定は変えていません。


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「朝ジョギングしてるなら、2組の水辺と会ったりしないか?」

「水辺って成美中の水辺か?」

「ブハッ! 田中って「お前どこ中だよ」って言いそうだな!」

「・・・俺は不良じゃないぞ?」

「クックック・・・」


 放課後、掃除当番なので、道具を取りに行こうとしたら前の席の立花に話しかけられてしまった。立花以外の生徒は既に帰っていて、同じく掃除当番の田辺と丹波が席を後ろに寄せ始めているので出遅れている。


「特に話が無いなら帰れよ」

「すまんすまん・・・それで俺って何話してたんだっけ?」

「水辺の話だよ」

「そうだったそうだった。その水辺も毎日ジョギングしてるんだが、城址公園や神社の方まで行ってるみたいなんだ」

「あれ?水辺って成美中だろ?遠くないか?」

「いや、今は高校の近くに引っ越してるぞ、俺の家の3軒隣の駄菓子屋だ」

「それでも遠いだろ・・・何キロ走ってるんだよ」

「1日50km走ってるって言ってたな。受験で鈍った体を鍛えなおしてるんだとよ」

「俺はせいぜい1時間程度で15kmぐらいだぞ・・・」


 50kmって何時間走ってるんだよ・・・まぁ五輪代表候補の長距離選手ってそんなもんなのか?


「田中も水泳部入るんだろ?」

「あぁ、一応小中とやってたし、県大会にも出場したからな」

「綾瀬も水泳部なんだって?」

「あぁ、カオリは200mと400mの個人メドレーで全国優勝してるし、次期五輪候補だぞ」

「水辺と一緒かよ」

「そうだな」


 俺に話しかけて来るのは後ろの席に座る立花タカシだ。入学早々から馴れ馴れしく話しかけて来るフレンドリーな奴だ。ただ、こうやって女子の事を根掘り葉掘り聞いて回るのが好きな奴なので少し胡散臭いと思っている。

 まだ、高校に入学して2週間だが、既に高校で一番の美少女と噂となっているカオリと親しい事から変な噂が立っていた。あまりに変なので、この立花が周囲に吹聴しているからではと疑っている。


「ミノル、今日は掃除当番だったんだ」


 学級委員の用事とやらで副委員の早乙女と職員室に行っていた委員長のカオリが俺に声をかけてきた。


「あぁそうなんだよ」

「じゃあ私図書室に寄ってるから終わったら声かけてね」

「分かった」


 今声をかけてきたカオリは隣の家に住む幼馴染だ。小さい頃は俺の方が勉強も運動も得意だったのに、いつの間にか追い抜かれてしまった。ただ一緒に遊んでいたし、部活も一緒だったので学校は一緒に帰るのが当たり前になっている。


「相変わらず仲が良いな・・・」

「まぁ腐れ縁のようなもんだけどな」

「学校一の美少女と腐れ縁ってどんだけ勝ち組なんだよっ!」

「勝ち組?・・・あぁ確かにやっかみは多く受けたよ」


 カオリは昔から天使のように可愛かった。だから不審者に声をかけられたり、車に連れ込まれそうになったり、担任に過剰にスキンシップを受けたり、同級生がストーカー化したりと大変な目に会うことが多かった。

 俺はお袋ラブな親父から、「女の子は守らねばならん」と言われて来たし、妹のシオリと姉妹のように仲が良いカオリを守るのは当然だと小さい頃から思っていた。

 小学校の頃から、駅前の田宮銃剣術道場とスイミングスクールに通って体力と護身術を身につけていた。スイミングスクールの方は後からカオリも通い始めていつの間にか追い抜かれてしまったけれど、カオリが絡まれた時に庇うのは俺の役割だと今でも思っている。


「そういえば桃井とも仲が良いんだって?」

「あぁ、カオリと友達だからな」


 桃井サクラは駅前のショッピング街の方に住む、カオリと同じ小学校からの同級生だ。カオリの父親がショッピング街で呉服店をしていて、母親がその2階で着付け教室を開いているため小さいときからカオリとも面識があった。同じ小中の学区内ではあるけど家はそこまで近くないという関係ではあったけど、学校では結構仲良くしていた。


「ほんとリア充って奴だな」

「リア充?・・・まぁどっちとも付き合ってないぞ?」

「本当だな!?」

「あぁ、お眼鏡にかなわないらしくてな」

「なるほど・・・」


 なんだ、やけに嬉しそうだな。笑顔が張り付いた様な顔って口角があがると凄く不気味な笑顔になるんだな。変な事呟いてるしとても気持ち悪いぞ。


「そこ机片付かないと掃除出来ないぞ」

「あぁすまんすまん」


 カオリは自身と並び立てる人が好きと言っているので、容姿と運動と勉強の全てが負けてる俺は眼中に無い。それに俺はカオリの父親から「嫁に欲しかったらワイを倒してからやっ!」といきなり関西弁になって、オーラみたいなものを幻視させられた事があって少しビビっている。


 サクラはかなり面食いで、2枚目に程遠い俺は眼中に無い。公園の植栽管理の仕事をしているサクラのお爺さんの1人には、剪定を手伝ったあとの休憩時間に「将来、サクラを貰ってくれんかのぉ・・・」と言われたけれど、隣で桜餅を食べてたサクラが吹き出して「こんな不細工は嫌よっ!」と真っ赤になって怒りながら否定された。


 妹のシオリに「どっち狙いなの?」と言われた時は、苦笑いしか出来なかった。


「さぁ、掃除の邪魔だから早く帰れ」

「わーったよ、じゃあな」


 ほんとアイツは何で絡んで来るんだか・・・。まぁ理由は何となく察しているんだけどな。


△△△


「じゃあ自己紹介として出身中学と得意種目を紹介してね、じゃあ男子の方から順番にね」


 水泳部の顧問はトドのような体型の女性教諭だった。化粧が分厚くて形の変なメガネをかけて、雰囲気は金持ちのマダムといった感じだ。

 先輩部員の自己紹介を受けたりあと、新入部員である俺たちの自己紹介の番となった。二番手なので前の奴にならって簡単に済ませてしまおうと思った。


「港北中学校出身の坂城ケンタです、自由形の中距離が得意です、よろしくお願いします」

「城前中学校出身の田中ミノルです、得意種目は特になく満遍なく泳ぎます、よろしくお願いします」

「同じく城前中学校出身の綾瀬カオリです、田中君と同じで満遍なく泳ぎます、よろしくお願いします」

「成美中学校出身の水辺オルカです、自由形の長距離が得意です、よろしくお願いします」

「瀬良中学校出身の諸見里ジュリです、平泳ぎが得意です、宜しくお願いします」

「同じく瀬良中学校出身の豊前エミリです、自由形の短距離が得意です、宜しくお願いします」

「開山中学校出身の神谷シズクです、自由形の短距離が得意です、宜しくお願いします」


 新入部員7名の自己紹介が終わった。1人ずつ小さくパチパチと拍手がされ、全員が終わったあと長めに拍手があった。


「五輪代表候補クラスが2名に県大会クラスが2名か・・・うちの高校には勿体ないメンバーが入ったな」

「俺らは既に超えられてるな。坂城、田中、綾瀬、水辺はプールが開いたら1コースで練習して貰うが良いか?」

「「「「はいっ!」」」」


 中学校でも個人メドレーの選手は長距離選手扱いだった。何故なら個人メドレーは200mと400mと中距離の競技ではあるにだけれど、体力の消費が多低速な、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎを泳いだあと体力を振り絞って自由形を泳ぐ長距離選手並みの体力が必要になるからだ。だから練習メニューも短距離のダッシュよりも、8割の力で泳ぎ続ける耐久トレーニングを多目にする。


「諸見里と豊前と神谷は短距離選手に混じって練習だ。最初は8コースからで、ついていけるようなら上のコースに上がって貰う」

「「「はい!」」」


 学校のプールは8コースある屋外の長水路だ。多分コースごとに練習難易度が変わるのだろう。

 俺の中学校は屋外の短水路プールで7コースだった。1〜2コースを長距離選手が使い、3〜4コースが自由形とバタフライの選手が使い、5〜6コースを背泳ぎと平泳ぎの選手が使い、7コースはあまり泳ぎが早くない部員が泳ぐコースになっていた。

 学校によってコース分けは色々違うという事なのだろう。


「部活は放課後の1時間と土曜日の午後であとは自主練としている。下校時刻までプールはコースごとに相談して練習してくれ。ただし今はプールが使えない。GW中にプール掃除をしたあと水張りをしたらプールでの練習となる」


 この辺は中学校と同じ感じだな。ただ長水路のプールは広いので掃除は結構大変そうだ。

 短水路のプールでも2日かかってたし、GW中ずっと掃除って可能性もあるな。


「学校のプールが使えない間は、月水金の放課後の2時間と日曜日の8時から12時まで近所のスイミングスクールの室内プールを2コース借りている。短水路なので全員で練習する事は出来ないから奇数コースと偶数コースに分かれて向かう、他は校内で体力づくりの走り込みや筋トレを行う」


 冬季に温水プールを借りているというのは中学校より進んでいるな。どうしても冬場は練習量が落ちて体が鈍ってしまっていた。カオリは国体参加選手クラスになると参加できる強化選手として県営プールの方に招かれ泳いでいたけれど、他の部員は陸上部に混じって走り込みやプールのフェンスにくくりつけたゴムチューブを引っ張ったり腕立てや腹筋背筋スクワットをするのが中学校時代の水泳部の部活だった。

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