第125話 思い込み(フミコ視点)
最近、オルカさんの妹的存在のユイさんが放課後に1人で図書室にやって来る事が増えてきたわ。私とオルカさんしかいなかった同じ趣味を持つ仲間に加わってくれて嬉しい限りだわ。
「フミ先輩の絵本って可愛くって読みやすいよね、何でかくのやめちゃったの?」
「私の文章は子供向けじゃなくなったの、だから私の絵ではもう作品を表現出来なくなっちゃったのよ。もっと写実的な絵を描ければ良かったのだけど、私にはそういう才能が無かったの」
「それでオルカちゃんに絵を描いて貰いたいの?」
「えぇ、オルカさんって本当に生きているみたいな絵を描くのがうまいのよ?」
「確かにオルカちゃんってすごく絵が細かいもんね」
私は昔から文才があったわ。だから小さい頃からいっぱい文章を書いてきたの。
せっせと食べ物を運ぶアリさんの話、川のお魚さんが海で大冒険をする話、小さな魔法使いの女の子が夜になると村人を食べちゃう怪物を退治する話なんかを書いたわ。
でも文章だけでは同級生達は読んでくれなかったの。だから頑張って絵を描いてみんなに読んで貰えるようにしたわ。幸い私には、子供用アニメのような絵を描く才能があったわ。だからみんなに喜んで読んで貰えたの。
でも私が精神的に成長して作品がリアリティを持つようになると、私の絵では合わなくなってしまったわ。だから絵の上手い友達に描いて貰おうと思ったの。
中学校にあがるまでは、幼馴染のエリカさんが手伝ってくれたわ。でも彼女は悲しい時の絵も怒った時の絵も、楽しげな感じの絵柄しか描けなかったの。
エリカさんは絵を描くことが楽しいそうなの。だからどうしても絵を描くと楽しい気持ちが込もって、楽しそうな絵になってしまうと言ってたわ。
だけどもう私は子供向けの絵本のような文章は書かなくなったの。
お婆ちゃんから聞いた戦争体験の話や、風邪をひいて熱を出すと聞こえて来る恐ろしげな声の話や、便利なロボットに世話をされて駄目になっていく男の話に楽しげな絵では合わなかったの。
「私が描いちゃだめ?」
「ユイさんの絵は私に似ているわ。私が小さい頃に書いた文章を絵本にするなら、ユイさんの絵はすごく合ってるわ」
中学生の時に同級生になったオルカさんは、絵がうまかったわ。だから悲しい話の時はオルカさんお願いして絵を描いて貰ったの。
でも私は思春期になって書きたいものの対象が恋愛に移っていったわ。でもオルカさんは恥ずかしがり屋でそういう絵は描けなかったの。
それにもう私も友達も成長して絵本を読まなくなってたわ。
だから私は文章だけで表現するようになったの。
高校に入ってすぐの休みの日に私は武蔵府にある本屋街に行ったわ。近くに大学や高校があって、色んな本屋があるところだったの。そこに行けば読みながら恋を感じている人を見られると思ったのよ。
私の友達はみんな恋をしていたの。だけど私はまだ恋をした事が無かったの。そんな私では、恋に憧れていても、恋をうまく書く事が出来なかったの。
そこで私は素敵な本屋に出会ったわ。そこは女の人ばかりがいる本屋で、みんな本を読んでうっとりした目をしていたの。私は恋愛を学べると思って手にとってそれを読んだわ。
そして気がついたらその日持っていたお小遣いの殆どを使って、その店にあった本をいっぱい買っていたわ。
私は早速買ってきた本の中でもおすすめをエリカさんとオルカさんの2人に見せてみたわ。 エリカさんは最初の数ページを見て、綺麗じゃないと言って本を閉じてしまったわ。
でもオルカさんは興味津々だったわ。絵を描く事を恥ずかしがるのは変わらなかったけど、本自体には興味を持ったようで、自分でもその店に行って本を買い始めたわ。
私の書いた恋の話は、文芸部のみんなに好評だったわ。だから文化祭でみんなに見てもらおうと冊子にしたのだけど、ちょっとだけ生々しい表現があると言われて、生徒会に没収されてしまったわ。
仕方無いので、私は2年生の時の文化祭では、女の人しかいない本屋にあるような文章を書いたわ。男女の恋の話が生々しいと言うなら、男の人同士の恋なら大丈夫だと思ったの。
最近遊びに来るようになったユイさんのお兄さんと、お兄さんと仲の良い男友達をモデルにして書いてみたわ。
でも何故かまた生徒会に没収されてしまったわ。
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最近お友達エリカさんやオルカも恋をしているわ。でも成就するわけないわ。だってエリカさんが恋をしているのが坂城くんで、オルカさんが恋をしているのが立花君だもの。だって坂城くんは秋山くんと、立花君は真田君と付き合っているのよ?2人が割り込める余地は無いわ。
「フミ先輩! お兄ちゃんが綾瀬先輩からチョコ貰ったの〜」
「それは可哀想に、立花君が好きなのは真田君なのに・・・」
「へっ?」
「本当よ?この本を見てごらんなさい?」
「・・・本当だっ!」
「でしょ?だから綾瀬さんの想いは叶わないの」
「でもそうしたら私やオルカちゃんの気持ちは?」
「大切なお兄さんの恋でしょ?応援してあげないと」
「・・・うぇぇぇぇん・・・」
「悲しいならいっぱい泣いたら良いわよ?」
「うわぁぁぁんお兄ちゃぁぁぁん・・・」
「泣き終わったらちゃんと応援するのよ?」
「うっ・・・ぐすっ・・・うぇぇぇぇん」
オルカさんだけじゃなくユイさんも立花君が好きだったのね、可哀想に・・・。
でも失恋も人を成長させるものなのよ。
ユイさんはいま一杯成長しているのよ。
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運動会の最後の色別リレー素敵だった。男同士ってやっぱり良いわ。次の文化祭向けの小説の題材にしようかしら。
生々しい部分があると男同士でもダメらしいから友情を全面に押し出して。
うん、大体まとまった、早速プロット書き出しましょう。
硬派そうな立花君をみんなで篭絡する話が良いわね。あの笑顔が苦痛と快楽に崩れるていく事を想像すると思わずときめいちゃうわ。
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今日はとっても嫌な事と素敵な事があったの。
嫌な事はショッピング街で引ったくりにあったことだわ。
バッグを引っ張られたあと突き飛ばされて罵声を浴びせられ逃げられたわ。とても痛かったし怖かったの。
でもたまたま通りかかったクラスメイトの依田くんが犯人を追いかけてくれて捕まえてくれたの。学校で1番足が速いだけあってあっという間に追いついて捕まえてしまったわ。暴れる犯人を柔道の寝技みたいなもので抑え込んで、すぐに駆けつけてきたお巡りさんに引き渡していたわ。
そのあと、依田くんは、混乱している私に代わって警察から色々聞いてくれて、病院にもついて来てくれたし、警察署に行って被害届を出すところまで付き合ってくれたの。
すごく頼りになってかっこよくてドキドキしっぱなし。これが恋なんだってすぐに分かったわ。
翌日、学校で改めて依田くんにお礼を言ったあと、私はすぐに告白したわ。
みんながいる教室で告白したものだから教室は大混乱だったわ。でもこういうのは勢いが大事だわ。だって依田くんが周りに囃し立てられて、よろしくって言ってくれたもの。
依田くんが私の彼氏になったのだから、依田くんっぽい人を登場人物にした話なんて書けないわ。私が書いているものだけど、浮気されているような気分になるもの。
せっかくいい出来だったのに勿体ないけど仕方ないわ。
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「何であんな小説書いたんの?」
「だってあなた達浮気してたでしょ?」
「何の話?」
「別れましょ?」
「えっ! どういう事?」
「これを読めば分かるでしょ?」
「これは君が書いた・・・ってそうだね・・・浮気した僕が悪いね・・・」
「えぇ・・・さすがに3人と浮気してる人を彼氏に出来ないわ」
依田くんが立花君と大石くんと佐野くんと浮気してるなんて思わなかった。
私という彼女がいるのに許せないわっ!
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「失礼します」
「あら、ジェーンさん、今日は言葉が綺麗なのね」
「えぇ、今日は綺麗に話します」
「普段カタコトなのはわざとなのかしら?」
「はい」
ずっと不思議な子だと思っていたけど、裏がある子だったのね。
「それで今日は何か用事があるのかしら?」
「貴方の書く文章は危険です」
「私の文章が危険?」
「書いた事柄を相手に真実だと思わせてしまう力があります」
「何を言ってるの?」
ジェーンさんが不思議と言っても限度があるわ。 私の文章に洗脳効果があるとでも言うの?
「最初は短時間の現象でしたが、今は永続しています。 しかも書いているあなた自身が真実だと思い込んでしまい、周囲に拡散させています」
「あの・・・」
ジェーンさんの言っている意味が分からないわ、でもとっても危険な予感がするわ。
「今から効果を解除します」
「何をする気?」
「すぐ終わります」
「ちょっと待っ・・・」
強い光が眩し・・・。
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「お帰りフミコ、今日は遅かったわね」
「えぇ、何故か図書館で眠り込んでいたの」
「最近良い陽気だからね、でも暗くなって外を歩くのは危険よ? フミコは私に似て綺麗なんだしさ」
「もう、お母さんったらっ!」
私は確かに良く男子から告白される、でもそれはこの無駄に大きな胸のせいだと思うの。お母さんに似てというのも、まさにそこの部分だわ。
「そういえば依田君から何度も電話がかかって来てたわよ?」
「えっ?依田くん?」
「痴話喧嘩は程々にね」
えっ?喧嘩?
私の胸はドキンと跳ね上がったわ。
依田君は私の彼氏だ。半年ぐらい前にショッピング街で買い物してる時に引ったくりにあった時、たまたま通りかかった依田くんが犯人を追いかけ捕まえてくれた。 すごくかっこよかった・・・。それで私が告白して付き合い始めたのだけど・・・あれ?何で私、別れを切り出してるの?依田君が立花君と佐野君と大石君と不倫してるって何!?変だわ! すぐに誤解を解かないと!
「お母さん、電話の子機借りてくわ!」
「何?長電話?」
「うん、少しだけ」
「依田君にかい?」
「えぇ・・・」
「そう・・・ちゃんと仲直りするんだよ?」
「えぇ!」
その日私は電話で何度も依田君に謝って許して貰った。悪い夢を見て寝ぼけてしまったと言って何とか信じて貰えた。
でも何で私は依田君が男同士で不倫してるって思い込んでたんだろう?
あれ?この手紙・・・新聞社からだ・・・大賞に送った私と依田君の爛れた恋愛小説の結果通知かしら?えっ?佳作?ヤッタ! えっ?何々?文章力はあるが恋愛描写が稚拙、爛れた恋愛を描くならもっと濃密に描いた方が好ましい・・・なるほど・・・。うん! 折角のお詫びに依田君に甘えないとね! 濃密な恋愛を経験すれば書けるようになるはず! こういう時こそお母さん譲りのこの胸が役立つ時だわっ!
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