暇潰章

蛇足話 お助けキャラに生まれ変わったけれど2

※ゲーム2作目に転生したらどういう話になるだろうと序盤を書いてみたものです。今のところ続きを書くつもりはありません。置き場所が無いのでここに掲載しておきます。


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『戻って来られましたか』

(俺は死んだんじゃ無いのか?)

『えぇ、立花タカシとしてのあなたは死にました』

(俺はまた転生したのか?)

『はい』

(それでスミスは俺に付いて来ちまったのか・・・)

『いえ、あなた様が来られた事を観測しましたので伺いに来ただけです』

(どういう事なんだ?)

『貴方様は1985年3月31日に、創造主様たちの遊戯の2番目の作品の登場人物である一条タクヤに転生されました』


 一条タクヤは2作品目のお助けキャラだ。もしかして俺はプレイした事のある作品の主人公のお助けキャラに転生し続けるのか?


(・・・立花タカシである俺はこの世界にいるのか?)

『はい』

(以前タイムパラドックスは発生しないと言ったよな?)

『はい』

(もし俺が立花タカシに干渉したらどうなる?)

『本体よりそれを阻止するよう言われています』

(何か理由があるのか?)

『前世のあなた様は世界の起点の様な状態になっています、干渉する事で我々と遭遇しない状況を作るとその瞬間にその並行世界は消滅します』

(並行世界?)

『起点より分岐した世界です。我々は前世のあなた様の記憶を読む事で随分と行動しやすくなりました。けれど、前世のあなた様が我々と出会わないように干渉しようとした並行世界は観測できなくなる事が分かっています。だから産まれ変わったあなた様もしないようにさせて欲しいと本体から言われています』

(なるほど・・・俺が前世の俺に干渉しない事が大事なんだな?)

『過度に干渉しなければ大丈夫ですが・・・』

(親父やユイの母親を救う事は過度な干渉になるよな?)

『はい』


 俺がまだ5歳と言うことは親父が死んだ日がいつかは覚えている、あと2年と少しだけ猶予がある。注意してくれと電話するだけで事故を回避して助かる可能性はある。2歳と少しなら受話器を持ち上げダイヤルを回す事は可能だ。滑舌良くは無理でも喋る事も出来る。

 ユイの母親は病気で亡くなったと聞いている、命日も聞いているので知っている。助けられるものなのか分からないけれど、注意喚起ぐらいは出来るかもしれない。


 けれど、それをすればお袋の再婚は無くなり、前世の俺は、ユイと兄妹にはならない。

 ユイは俺がゲーム舞台の高校に行かなければ、推薦で京都の強豪校に行っていた可能性がある。立花タカシとユイが登場しないゲーム舞台がどうなるか不明だ。

 前世の俺は駿河県から相模県に引っ越さないのでオルカやスミスとも遭遇しなくなる。俺が先ほどまで愛しいと思っていた家族の多くと出会えない世界を歩ませる事になる可能性が高い。

 トロッコ問題の哲学を解くよう迫られている気分だ。しかも線路の上にいるのは全員俺の大切な人だ。


 親父やユイの母親を見殺しにするか、弟のシンジや妹のシズカ、ユイやオルカが産んだ我が子達、その孫達、それを誕生させないという選択をする事になる。

 世界の為に親父やユイの母親を見殺しにしなければならないというのは、俺にとっては免罪符であり、多分この生の間残り続ける棘だ、なんていう転生を俺はしてしまっているのだろう。


『既にあなた様の妹や弟は生まれない確率が高いです。またユイ様やオルカ様が産む子もあなた様の知る子ではなくなる確率が高いです』

(それはどうして?)

『一条タクヤであるあなた様は既に、前世のあなた様がいた時の一条タクヤと違う行動をしています。少しづつ周囲の行動が変化しつづけます。そしてあなた様と前世のあなた様は近い場所に住む事になるので影響はそれなりにあります。前世のあなた様にも数瞬の影響が出ます、そしてその差だけで、受胎の瞬間の行動に差が産まれます、遺伝子に差異が生じる可能性の方が圧倒的に高いのです』

(遺伝子か・・・)

『はい』


 同じ受精卵と同じ精子が出会い、さらに同じ遺伝子の交換が行われて初めて同じ子が産まれる。全く同じタイミングで受胎出来たとしても1回で男が放出する精子の数だけでも3億と言われている。3億面ダイスで同じ目を出すことはほぼ不可能だ。また一卵性双生児でも差異があるように同じ受精卵と卵子が結びついたとしても同じ子にはならないわけだ。


(スミスは同じ子が生まれるように出来るか?)

『可能です、望みますか?』

(わからない、今は判断出来ない)


 干渉してはいけないと分かっている。でもこの並行世界は、俺の知っているあの子達が生まれない世界だったのか。我が子や孫たちとの思い出が走馬灯のように脳裏をよぎった。


(前世の俺とスミスが出会った後は干渉できるのか?)

『可能です、但し前世のあなた様が違う進路を辿る可能性があります、それはあなた様が望まないのでは?』

(それもそうだな・・・あれは立花タカシだった俺がすべきことだ)

『あなた様が肩代わりする事は可能ですが権田様に代わる協力者が必要となるでしょう』

(なるほど・・・親分と知り合ったのは偶然だったからな・・・それに俺はあれをもう一度したいとは思わない、素晴らしい人生ではあったけれど、あれほど苦労すると分かっている道を別の人物でしたいとは思わない)

『私が全て肩代わりする事も可能ですが』

(それは望まないな、立花タカシだった俺が成し遂げるのならそれで良い事だろう)

『わかりました』


 本当に因果な世界だ。今考えても答えは出そうに無かった。でもまだそちらは猶予がある。だから別の事を考える事にする。


(一条タクヤか・・・)

『何か問題がありますか?』

(俺は俺の生き方をするつもりだよ、ただゲームの一条タクヤは立花タカシとは随分違うキャラだったからな・・・)

『あなた様が変わられなければ良いのでは?』

(そうだな・・・)


 1作目のお助けキャラであった立花タカシが高校入学と同時に出会った馴れ馴れしいお調子者キャラだったのに対し、2作目のお助けキャラである一条タクヤは主人公の幼馴染だけど腹黒というキャラだった。また立花タカシが3枚目な風貌なのに対し、一条タクヤは小柄で可愛いらしい風貌で、女生徒達のマスコットの様な扱いを受けていた。メガネを外した状態の真田に近いと言えば分かるだろうか。


『ホルモンバランスの調整で体形や風貌を変化させる事は出来ますが』

(それは自然なままで良いよ)

『わかりました』


 一条タクヤはお助けキャラでもあるけれどお邪魔キャラでもあった。一条タクヤは多くの女生徒に好かれていたが、本命には振り向かれな弄られポジションだった。

 けれど必ず一条タクヤは主人公に対して好感度が高いヒロインの1人を好きになるという設定があった。そして誰が好きなのか序盤は分からないのだが、2年の時に主人公に対して好感度が高い順3人の内の1人であると分かるイベントがあり。そして3年になってすぐに、その内に1人が本命だと打ち明けられライバル宣言されるといった展開になった。

 ゲーム攻略サイトでは3年までは本命を決めず一条タクヤにライバル宣言されたあとに、別のヒロインを狙った方が楽と記載されていた。ただ好感度が高いキャラは相手側から接触してくるので、一条タクヤは嫉妬して邪魔行動を始める。

 そうなると前作の理事長の息子の様に主人公に嫌味を言って来てストレスをあげに来たり、他のヒロインを主人公に宛がうような行動をしたという行動をするのだ。

 3年になると他のヒロインの不満が溜まりやすくなり、さらに不満が溜まったヒロインとの不満解消の行動が失敗になりやすくなるのは、一条タクヤの行動によってなされているという事が、ゲーム制作者の対談記事に書かれていた。

 ちなみに2年に上がる時に好感度が高い順の3人と違うヒロインと攻略を目指すと難易度が一気に下がるのはその仕様が反映されていると言われていた。


 こんなキャラを何故登場させたのかというと、1作目でなるべくヒロインを登場させないように立ち回るという攻略法が作られたからだと言われている。

 1作目では狙っているヒロインと、最初に出会った状態のカオリと、2年目の最初にお助けキャラの妹であるユイの3人だけ登場させた状態で2年目に突入する事が難易度を下げる行動として攻略サイトにも書かれているぐらい常識化していた。そのため2作目では様々な設定を入れる事でそれを阻害してゲーム性を高める工夫がされていた。

 例えばヒロインには親友やライバルという設定のヒロインがいて、1人の攻略すると必ずもう1人とイベントで知り合う事になっていた。

 またメインヒロインは1作目で攻略難易度が高いカオリと違い、所謂チョロインという奴で求められるステータスが低く、最初から好感度が高い状態で登場した。頻繁に話しかけて来たりするし、デートの誘いもかけてくる。そのため他のヒロインとの好感度を上げるイベントが阻害されやすくなっていた。また他のヒロインを攻略しようとすると、一気に不満を貯めて悪い噂が周囲に流れまくるという設定にもなっていた。

 つまり2作目はメインヒロインの攻略は楽なのだが、メインヒロイン以外の攻略が難しいというゲームバランスになっていた。お邪魔キャラである一条タクヤの存在もあってゲーム性は1作目以上だと評価を受けていた。


 攻略の最高難易度とされるヒロインは2年生の時にやって来る新人教師だった。年下なので男として見られておらず好感度が上がりにくかった。また生徒と教師なのでデートに誘っても断られやすかった。そしてデートに誘う行為が非常に目立つので他のヒロインに嫉妬されやすくなった。またデートで好感度を上げるには頼りがいのある部分、つまり高いステータスが求められた。これは1作目のカオリ以上の難易度であるためラストコンテンツと言われるぐらい綿密な攻略スケジュールが必要だった。また一条タクヤにライバル宣言されて被らないよう、3年の始業式直後にセーブしてリセマラをする事が必須と言われていた。何故かそのヒロインは好感度が一定値以上になると一条タクヤにライバル宣言されやすくなるというゲーム制作者の罠が組まれていて、低確率を引き当てないとほぼ無理ゲーと化してしまうからだ。

 一条タクヤにライバル宣言されながら攻略する事は縛りプレイと言われていたけれど、その新任教師を狙う場合は綿密なスケジュールを組んでもランダム要素で失敗するらしく、それをノーリセットで達成する事が出来たと攻略サイトの掲示板に書かれるぐらいだった。俺も5度目の挑戦でやっと成功して二度とやらないと思った事を覚えている。


『暇つぶしに何かしますか?』

(立花タカシである俺の方に行かなくて良いのか?)

『まだ前世のあなた様に出会う前なので大丈夫です、それに前世のあなた様から記憶の吸出しが終わっていますので、本体にはかなり余力があります。私を複製してあなた様に付ける程度は問題は無く出来ます』

(俺に付かなけれなならない理由でもあるのか?)

『前世のあなた様への恩返しです・・・不要なら離れますか・・・』

(自分で立ち上がれるようになるまで暇だろうし話し相手になってくれると嬉しい)

『分かりました』


 前世ではこの何も出来ない乳児期の時間を過ごすのが結構退屈だった。その内慣れはするのだけれど、手足を自由に動かすどころか、目の焦点すら合わせられない状態で数か月過ごし、その後動かせる状態になっても力がうまく入らない状態が続くのだ。前世で死ぬ直前、泣き笑いをしているユイの涙を拭おうとして、手を伸ばせなかったあの時と似ている感じだろうか。ユイから俺より少しだけ先に逝ったオルカへの言葉を預かっていたけれど、結局俺は天国に行かなかったのでオルカに伝えられなかった。ユイなら天国に行けるだろうから自身で伝えられるかな。俺が居なくてどう思われているだろうか。


(そういえば今は1985年だっけ?という事は今の立花タカシは5歳なんだな?)

『はい』

(なるほどな・・・)


 今回の俺は1985年に産まれた訳か、確か前世でバブルが崩壊したのが俺が大学を卒業した直後だったから、今世では大学に入ると在籍中に崩壊する訳か・・・それは大変だな。


『何かを目指されますか?』

(そうだな・・・やっぱ不況でも手に職を持ってる人は強かったな、一条タクヤは何でもそつなく得意なキャラだったけど、何の職を目指せば良いのだろうか・・・)

『適正で言えば、前世のあなた様と同じく情報収集と情報解析の力が高いですね』

(そうなんだ・・・お助けキャラという設定だからなんだろうな・・・)

『そうですね』


 一条タクヤは一流大学を目指しているという描写があったぐらい頭が良かった。新聞部という設定だった立花タカシと違い、生徒会に入ってヒロインの1人である生徒会長の補佐をしていたぐらい有能だった。


『前世のあなた様の居た並行世界では一条タクヤは公家の諜報部隊である近衛に入っていました』

(なるほど・・・そういった方に進むのか・・・というか一条タクヤは公家の縁者だったんだな)

『はい』


 なるほど・・・諜報員か・・・。女にも化けられるキャラだったし向いているのかもな。


(2作目のゲームの主人公も武田のように前世の記憶を持っているのか?)

『持っていません、あなた様と武田カイトだけが特別なようです』

(前世の武田カイトは転生したりはしていないのか?)

『はい、武田カイトとして死んだ1作目の主人公は転生して来ていません』


 武田カイトは27歳の時の8月の猛暑日に、武蔵府で強盗傷害事件を起こして捕まった。その後実刑判決を受けた事まではリュウタから聞かされて知っているけれど、その後どうなったかまでは知らなかった。

 このニュースはリュウタが手を回して関東地方だけのローカルニュースとして報じられたため武田の両親には伝わらなかった。けれどネット上では高校時代の醜態がそのまま掲載されていた。幸い武田の両親はネットをあまり使いこなせていなかった、そして情報に疎い田舎暮らしだった事もあって亡くなるまで武田の事件について知らずにいたらしい。

 けれど武田の妹であるシオリにはすぐに伝わり、その激怒の状態が明けるまで大変だったとリュウタがボヤいていた。


(うん、俺は取り合えず高校までは何も目指さない、学校の勉強はかなり忘れてしまっているけれど、前よりも早く取り戻せるだろう)

『そうですね、しかも前世のあなた様より頭のスペックは高いようです』

(肉体の方は?)

『器用さや瞬発力は前世のあなた様より上です。しかし筋力や敏捷性は前世のあなた様の方が上です。高身長という優位性もありましたし、総合的な運動能力では前世のあなた様の方が上になります。私がホルモンの調整をすればいくらでも変えられますが、しない方が良いのですよね?)

(そうだな、前世では背の高さに苦しめられる事もあったからな、潜水艇の試作機に開発チームの中で俺だけがマシンハッチを通り抜けられず乗れなかったのは悲しかった。柔軟をおろそかにしていなければと悔やんだものだよ。背が低いというのもハンデだろうけれど、未熟な肉体という訳じゃないし気にする事じゃないよ)

『ゲームでの一条タクヤの身長は158cmです』

(充分だね)


 俺は前世ではユイやオルカをちゃんと愛し、家族や友人に恵まれ、その人たちにに囲まれながら逝く事が出来た。そのため前世の様な悔いを残す人生では無かった。けれど地震研究と講演依頼をこなすのに忙しく、自由な時間があまり取れなかった。今度の生では少しだけ自由な時間が取れる人生を目指しても良いかもしれないと思った。

 そういえば1度目の人生では小さい頃に空に対し憧れを持っていた。小学校の時の将来の夢にパイロットになりたいと書いていたぐらいだ。


『宇宙飛行士まで目指せますよ? 体重が軽いというのは宇宙を目指す際に有利です』

(なるほどな・・・)


 前世の日本は人件費が高い事や自前資源が少ない事や、発射に優位な赤道に近い場所に領土が持てなかった無い事からコスト高の傾向にあった。だからどうしても宇宙開発事業は他国に先んじられてしまい。バブル崩壊後の経済低迷もあって1基100億円を超えるような有人宇宙船事業に乗り出す事に世論の許しは得られなかった。

 日本は国際的な宇宙開発事業に参画していたし日本人宇宙飛行士も排出していた。けれど海外の宇宙開発事業団に所属してミッションを行っていた。

 けれど俺が死ぬ頃には民間で宇宙開発事業を目指すベンチャー企業は多く産まれていた。


 スミスの所有する会社の中にも、富裕層相手に極地旅行を提供する会社があって、赤道直下にあるペラウという地に宇宙旅行と深海探査を提供する基地があった。

 俺も海底の震源地調査のために何度もお世話になった基地で、最後にそこを訪れた時は、その場所に軌道エレベーターの土台を作り始めていた。


(日本発の宇宙旅行を提供する会社を作るというのも面白いかもな。一条タクヤが公家の出身なら日本の富裕層にもかなり接触しやすいだろう)

『スミスケミカルコーポレーションが協力します』

(それは心強いな、取りあえずマルチリンガルになるために、この暇な時間は言語学習に費やすか)

『お付き合いしますよ』

(まずはマレー語からだな)


 俺はスミスにそう言うと、前世の大学時代スミスと英語会話学習をした時のように、前世で覚えていれば便利そうだなと思っていた東南アジア諸国で広く通じる言葉の学習を始めた。

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