第134話 1人の人間
卒業式のあと、オルカと共に京都に向かった。
京都の大学の二次試験前期日程の合格発表があるためだが、オルカは世界選手権の練習があるためだ。オルカは卒業式のため一時的に街に帰って来ていたけれど、本当はかなり多忙なのだろう。俺の合格発表に同行するそうだけど、練習前に急いで行くといった感じだ。
合格していれば入学手続きを進める必要があるため、後期日程の入試はパスする事が出来る。親分から合格したらすぐに来てくれと言われているので街にとんぼ返りする事になる。
不合格の場合は後期日程を受けるため、オルカのマンションに残る事になる。ただしその時はオルカが世界選手権の為にパレンバンに向かうことになるため、合鍵を預かった状態で過ごす事になる。
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「あら奇遇ね」
「こんにちわ~」
「カオリも合格発表を見に来たのか?」
「えぇ」
「カオリさんでも気になるんだね~」
「もしかしてもう京都の田宮の家にいるのか?」
「そうよ、田宮の家が近いからすぐ来れるのよ」
「それは便利だな」
「合格だった?」
「勿論あったわよ、理科Ⅰ類の掲示板はあっちよ、案内するわ」
普通の会話をしていたけれど、カオリの周りにはガタイの良い黒服が4人いて、周囲を威嚇していた。メディアの人が取材をしていたけれど、それが近づいて来ないように制止も行っていた。
「Aの・・・後ろ2つ何番だっけ?」
「15だよ、115」
「あったわよ、あそこ・・・右から2番目の上から3番目」
「ほんと?」
「あっ・・・あったっ! あと真田の番号もあるっ!」
「良かったわね」
「マコトちゃんのも調べないと、この番号なんだよね?」
「あぁ・・・」
目頭がツンとなって段々目がボヤけて来た。
「・・・泣いてるの?」
「あぁ・・・高校受験の時は成績的に問題無かったけど、今回は最後までB判定だったし不安でな・・・」
「タカシも人間なのねぇ」
「俺はキャラじゃないからな」
「そうね、今のあなたは1人の人間だわ」
確かカオリを始めて親分の家に案内している時、カオリは俺の事を武田からお助けキャラだと言われている存在だと言った。そのあと俺の話を聞いてキャラじゃなく人間だと訂正した。そのあと親分の家でリュウタとの関係を知り、ただの1人の人間とではないと訂正した。でも今の俺は1人の人間だと言った。
受験は1人で行うもので、その結果は1人の人間のものだという事だろう。
「カオリも受験は1人だったのか?」
「えぇ、どんなに周囲からサポートを受けたとしても、私自身で目標を持ち挑まなければ到達しないものだと思うわ」
「カオリでもそうなんだな・・・」
「えぇ・・・私もキャラじゃなく1人の人間だもの」
俺はハッとなってカオリの目を見つめた。
「あぁ・・・そうだな・・・カオリは1人の人間だ」
「やっと私を見たわね・・・」
そうか、俺はカオリの事をゲームキャラではなく人だと思ってはいた。けれど、ゲームのキャラと被せて考えていた事は多くあった。だから俺には合わない存在だと勝手に思い込み距離を取った。カオリはそんな俺の距離感をずっと前から気が付いていたんだと今の言葉で察した。
「すまなかった、俺はカオリに失礼な事をしていたと思う」
「良いのよ、距離を詰めて来る人ばかりだったからそれが凄く心地よかったの。でもこんなに長く付き合っているのに、距離を取った接し方をされるなんて思わなかったわ。3年間クラスメイトで2年の時からクラス委員と副委員長だったのよ? 2学期からずっと前後の席だったのよ? 中学校時代から今まで、異性に名前呼びを許していたのは、お父さんぐらいしか無いのよ?」
急に早口になったカオリに凄く驚いてしまった。
「・・・結構不満に思ってたんだな」
「えぇ、私はあなたが思ってる通り、可愛くて頭が良くて運動も万能で誰でも惹き付けてしまう存在だって自覚している人間だもの。だから惹き付けられているのに惹き付けられないあなたという存在はとっても不満だったの」
カオリは今まで見た事も無いほど長い言葉を喋っている。
「なるほど・・・すごい傲慢だな・・・」
「えぇ・・・そうなの・・・傲慢なのよ・・・だってこんなに何でも他人より出来てしまうんですもの・・・でもそう見えないように頑張っているのよ?」
「うん、でもそこまですごいと隠せないよ」
「えぇ・・・」
そう、謙虚に接しても「澄ましてんな」とか勝手に思われてしまうぐらい、カオリは淡々と何でも出来てしまっているように見えているのだ。
「うん、カオリにはそれが許されるよ、だって実際にすごいんだから」
「タカシ・・・あなたは謙虚過ぎると私は思っているの。傲慢になってもおかしくない・・・いえ傲慢にならなきゃおかしいほど、あなたはすごいのよ、でもタカシは全然傲慢に見えない、何でそうなの?なんかすごい年長者みたいだわ」
「俺は同級生だぞ?」
「知ってるわよっ!」
カオリは俺の前世で歩んだ経験から来る老成してしまった部分を感じているのだろう。
多分カオリは同世代で一番老成した考え方が出来ていた。けれど俺はそれ以上に老成していた。68年経験年数の差が出てしまったのだ。
「カオリはもっと子供っぽくても良いと思う、まだ俺達は若いんだから、全てを完成させる必要はない、もっとはみ出せば良いんだ・・・」
「そんな事を言われたって、どうすれば良いかなんてわからないわ」
「合宿でサッカーのビデオに興奮しているカオリ・・・あの状態ははみ出してただろ?」
「そうね・・・」
「俺も水泳やバスケをしている時は結構はみ出しているんだ」
「えぇ・・・体育館でバスケの練習をしているタカシはすごく楽しそうだわ」
「今度俺達とバスケの1on1でもしないか?カオリならすぐに俺達と遊べるぐらい上手くなると思うぞ。ジュンもカオリが一緒にバスケしてくれたら嬉しいと思うはずだ」
「うん・・・お願い・・・私もあなたの仲間に入れて・・・」
俺の言葉の何かが感情を揺さぶったのか、カオリは涙を落としてはいないけれど瞼を濡らしていた。
「俺とジュンとカオリで、ユイとオルカとスミスに勝つことが目標だな・・・」
「うん・・・」
急に子供っぽい言葉使いになったな。子供っぽくて良いと言ったからそうなっているのだろうか。
「話は終わった?」
「終わってるよ」
「入学手続きの事を聞きに行くんでしょ?」
「あぁ」
オルカは俺とカオリの話をずっと待っていてくれていたらしい。
「入学手続きの書類は合格通知と一緒に届くのよ、もう発送済みらしいから、明日にでも家に届く筈よ」
「そうか、それなら早く家に戻らないとな、親分からも合格したらすぐに来てくれって言われてるんだ」
「きっといい話があるわよ」
「何か知ってるのか?」
「教えられないわね」
「それじゃあ仕方ないな」
「えぇ、仕方ないのよ?」
カオリはイタズラを企んだ子供っぽい表情を浮かべていた。
「その顔は子供っぽくていい感じだぞ」
「えぇ、私は少し子供っぽくなるわ」
カオリの顔はいつもより可愛く見えて、こんな感じだったら、俺もカオリに惹かれたかもなと思った。
「あっ! 真田姉の方はどうだった?」
「勿論マコトちゃんも合格だよっ!」
「さっそく真田に電話しよう」
「そうだねっ!」
俺とオルカはカオリに案内してくれた事にお礼を言って別れた。カオリは「私の家はあっちの方だから来てね」と言い、ガタイの良い4人の黒服を引き連れて去っていった。
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