第107話 小江戸
俺は水泳の県大会で去年に続き100mの自由形とバタフライで全国標準記録を超えインターハイに進む事が出来た。他に個人種目で進めたのは男子100mと200mの自由形に出場した相良と、男子1500m自由に出場した坂城と、女子400mと800mに出場したオルカが出場権を獲得した。
坂城は400mで1秒01差で標準記録を超える事が出来なかったけれど、コンバートで出場した1500m自由形で全国に進んだことを、とても喜んでいた。
また100mリレーとメドレーリレーでも超える事が出来た事で男子は総勢6人で開催地である上野県に行く事になった。女子は残念ながらオルカ1人だけの全国出場だけど、中学校時代の後輩で、今年新入部員で入った水野が女子100mと200m平泳ぎであと僅かで標準記録越えしそうだったので、俺やオルカが引退したあとも男女ペアでのインターハイ出場選手が出来そうだなと思った。
バスケ部は男子女子共に優勝してインターハイに駒を進めた。決勝トーナメントの内2回は俺が水泳の県大会と重なり出場出来なかったけれど、全国を経験してレベルアップしていた男子バスケ部は問題無く県内の強豪校を下していた。
インターハイでも俺の出場する時間と重なった場合は出場出来ないけれど、問題無く勝ち進んでしまうのではと頼もしく思った。
期末試験では受験を重視した勉強にシフトしていたからか、それとも多くの生徒が受験に備えて勉強に注力しだしたからか全校生徒で32位と、この高校に入って始めて30位台を取ってしまった。全国模試では逆に順位を上げていたのでそこまで心配はしていないけれど、少しだけ気持ち悪くは感じていた。
終業式に行われた全国大会出場者への壮行会では、俺は水泳部とバスケ部の選手として紹介をされ、多くの生徒に頭を傾げられていた。特に1年生の方から「そんなのアリ?」と声が上がったのでかなり異質な状態なのだろうと思った。
夏休み最初の神社のお祭りで、俺とユイとオルカは3人で必勝祈願をした。
今までは夏の神社は花火大会と縁日を見に行くという感じで、お参りをして来なかったけど、考えてみれば神社に行ってお参りをしないのはかなり失礼な事だった。ゲームでは神社にデートに行くと縁日で金魚すくいのミニゲームがあり、そのあと花火を見ているという描写しか無いので、何となくそういうものかと思ってしまっていたけれどお参りしながら間違った認識だと感じ、今までの分を含めてお詫びの気持ちを500円という俺としては大盤振る舞いの賽銭で表しておいた。
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「出発進行っ!」
「オーっ!」
高校総体へは学校のマイクロバス2台と引率教師や父兄の運転する自家用車に同乗して行く事になった。男子生徒が1号マイクロバス、女子生徒が2号マイクロバスという感じに割り振られて居たけれど、俺やユイやオルカは義父の運転する納品されたばかりのワンボックスカーで行く事になったので、そちらには乗らなかった。
ユイは3on3仲間でもあるスミスにも同乗するよう声をかけていていたため、お袋を含めて6人乗った状態で出発する事になった。
宿泊所はまとめて同じ場所になっているけれど、試合会場はそれぞれ分かれているため、マイクロバスが団体競技の送迎を行い、個人競技は引率教師や父兄の車で送り迎えする事になるらしい。
7月頃から産休に入っているお袋は妊娠8ヶ月でお腹も大きくなっているため大丈夫なのかと思ったけれど、予定日にはまだ先だし安定しているので大丈夫だと参加を決めていた。出産は2度目なので経験的に大丈夫だと思っているらしい。
お袋や義父は同じホテルには宿が取れなかったため、近くのホテルを取って俺達の応援に駆け付けられるときに来ると言っていた。けれどお腹の事が心配なので無理はしないで欲しいと言っておいた。
義父はプールと体育館を行ったり来たりしないといけない俺のため、頑張ると言っていた。けれど、それもお袋の方が大事なので、無理そうな時はタクシーで行き来するつもりでいる。
義父はスミスがやってくると、間近で見た事は始めてだったようで、その美しさにかなり驚いていた。義父はスミスに見とれた事をお袋に察知され、すぐにアイアンクローを食らい、悶絶状態から立ち直るのに時間を食った事で予定より30分遅れて出発する事になった。妊婦でもそのパワーは健在らしい。
運転席に義父、助手席にお袋、2列目にユイとスミス、3列目に俺とオルカという配置で座っていた。
この車になって初めてついたカーナビでは、出発時に到着時間は3時間43分後と表示されていたそうだ。その日はホテルにチェックインさえ出来れば問題無いので、途中でお昼休憩を取っても十分に間に合う時間だった。
「お兄ちゃんとオルカちゃんこれどうぞ」
「サンキュー」
「俺は大丈夫」
ユイがスティック状のチョコレート菓子を差し入れて来たが、貰うのを遠慮しておいた。何故なら少しだけ新しい車の匂いに慣れずに軽く車酔いしており気分が悪かったからだ。
「タカシ、助手席と変わる?」
「大丈夫、高速に入ってから楽になったし、お袋の方が大事だろ」
「それなら良いけど・・・」
お袋から心配の声が上がったけれど、義父がスピードを弱めてくれた事や、高速に入り直線道に変わって来た事で段々ムカつきは治まっていた。酔い止めを飲もうと思ったけれど、一応ドーピング検査があるかもしれないので、薬物的なものの摂取はやめておこうと決めていたのだ。
「横になる? 膝枕しようか?」
「大丈夫、ありがとう」
義父が俺やユイに合わせた大き目のワンボックスカーではあるけれど、さすがに俺のこの大きな体が横になれるほど幅は無い。身長も2m近くなると色々と不便だ。
背の低い人は車を購入する際は、席を前の方にしてもアクセルやブレーキが遠かったり、ボンネットが視界の邪魔をして見通しが悪くなるので、運転席の形状が大事だと聞いた事がある。体が大きい俺も車を買う際は似たような苦労する立場になっている。
一応義父から俺が運転する事もあるだろうと、今乗っている車を選ぶ際は、俺も運転席に乗せて貰いサイズの確認をしている。前世でも中古で買った軽ではあるけてど自動車を所持していた。それに在庫切れしてしまった商品を補充する為に、店舗用の配送車を使った事が何度もあったので、乗った時の感触から運転しやすいかどうかはすぐに分かった。
これでも狭いと感じたなら外車を買わなければならない。しかしこの世界の日本は前世よりも高い関税をかけて国産車メーカーの保護をしているのでグレードの低い車でも高い。それにまともなディーラーが無いし、修理や整備の際にかかる金額も高い。そして趣味で個人輸入をしている人はいるけれど、そういった人でもデザインはこちらの方が好みだが、日本車の方が丈夫で乗り心地も良いと漏らす事があるぐらい、この世界の日本車も優れているらしい。
途中の川越でお昼休憩としてウナギをみんなで食べた。
川越という所は武蔵府が江戸と呼ばれていた時代には既に水運で栄えた街だったらしく、その時代の街並みが今も残って居る事から小江戸と呼ばれている街らしい。
内陸であるため海の魚は遠くて食べらなかったため、川魚を使った料理が発達したそうだ。
少し趣のある店内にウナギのかば焼きの由来が書いてあり、そこにはウナギを最初、輪切りで串に刺し焼いて居た事から、形状が蒲の穂に似ていたから蒲焼きと呼ばれる様になったと書いてあった。
俺はあの香ばしいタレを付けて串に刺して焼く調理法をカバ焼きと呼ぶのだと思ったけれど、どうやら違ったようだ。考えてみればウナギの蒲焼きは照り焼きだ。でもウナギは美味しいし高級品なのでウナギの蒲焼きに似せている照り焼きを蒲焼きと呼んでいた。
前世で勤めて居たスーパーの総菜コーナーで、時折開いたイワシに薄く衣を付けて揚げたあと、照り焼き用のタレを付けてグリルしたものをイワシのかば焼き風という名前で売っていた。串にも差して無いし全然蒲の穂と形状が違うし、炭で焼いたりしてないし間違っていたんだと今更ながら知ってしまった。
昼食をとったあと再度ホテルに向かい出発した。下道を走っていたが、車の匂いに慣れたのか、酔ったりする事は無かった。
ホテルに到着したのは3時を過ぎていた。ホテルのロビーにつくと、父兄の車で来たらしい他の生徒がいた。聞いてみたところ、まだ引率教師達の乗った車がまだ1台も到着していないらしい。ただ場所は間違っていない事は確認出来ているのでロビーで来るのを待っていたそうだ。
俺達も問題無いと思い、車から荷物を降ろしてお袋や義父と別れた。競技時間のスケジュールは教えてあったし、お互いに携帯電話があるので連絡は出来る。万が一の為に多めのお金を貰っているのでタクシーに乗って向かう事も可能だ。
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