第102話 救出

「ドンマイ!」

「良くやったよ」

「お疲れ〜」


 男子バスケ部チームの決勝は余りいい所が無く敗退してしまった。さすがバスケの本場アメリカだけあって、プロではない人たちでも、日本ではプロでも通用しそうな人がいるようで、日本に働くために来たという人達の中にも紛れていた。

 俺達混合チームでも準決勝で当たったチームがそんな人達がいるチームで、そこのチームとの試合が決勝のドレッドヘアーの人がいるチームより苦戦した。

 幸い女性の選手は背は高いけど体のキレはそこまで無かったし、僕のツーポイントが良く決まったので勝つことが出来ていた。


「記念品貰ったら打ち上げに行くぞ」

「キャプテンの奢りっすか?」

「男だけで割り勘だっ!」

「やっぱそうっすか〜」


 キャプテンの発案で打ち上げが提案され、大部屋があるカラオケハウスに全員で向かった。去年の初戦敗退と違い、最後まで戦ったので疲れていたが、カラオケハウスのエアコンの涼しさにスゥッと体の熱が収まり、元気が湧いてきて、ジャンキーなメニューとソフトドリンクを摘みながらカラオケ大会をして楽しんだ。

 ユイは相変わらずNTホライズンだし、スミスはネイティブな発音での外国の歌だった。

 スミスは採点で100点を出し全員に驚かれた。そりゃ平均的に歌うって事は音程や抑揚を間違えないって事だもんな。スミスに太鼓を打つゲームをさせたら、きっとパーフェクトを連発しまくる事だろう。


 オルカは歌うのを恥ずかしがったけれど1曲だけ披露をしてくれた。入れた曲は前世のゲームのイメージアルバムでオルガが歌っている曲で、この世界ではニチアサの戦隊ヒーローの主題歌になっている曲だった。非常に上手くて恥ずかしがるようなものではないけれど本人は恥ずかしいようだ。

 オルカが今までカラオケに行くのを恥ずかしがったのは、歌えるジャンルがそういうものばかりで恥ずかしかったのかもしれない。


「今度の祝日に遊園地でヒーローショーやってるってCM流れてたから見に行こうか?」

「良いの?」

「来週は市の大会だから調整練習期間だろ? 今日みたいに1日休み貰うって訳にはいかないだろうけど、自主練になる午後なら良いだろ」

「うんっ!」


 ゲームではデートを電話で誘い、良いか都合が悪いかの2択、好感度によって反応が変わるけれど、誘った場所によって変化はしなかった。

 けれど実際には描写されて無かっただけで裏ではこういったやり取りがあったという設定があったのかもしれないな。

 金づちという設定のヒロインをプールに誘えたり、非科学的なものが嫌いなヒロインを手品ショーに誘えたりするのは、何かしら興味を引くことを言って誘っている筈だしな。


---


 祝日の午後は追い込みの自主練をするという副部長の坂城に後を頼んで、俺とオルカは休みを貰った。

 ユイも午前中が試合で午後は空いているといって遊園地に行きたがったけれど、絶叫系好きなユイと苦手なオルカでは楽しめるジャンルが違うので一緒に回るのが難しい。それにヒーローショーはその日だけしかやっていないし俺とユイはそれなりの回数遊園地に行っている。3日分に相当するプリン1パックをチラ見せしながら、たまにはオルカに譲ろうと言って買収する事で、オルカと2人きりの遊園地デートとなった。


 今回オルカと行くのは港に近い場所にある遊園地で、ゲームでもデートスポットとして選択出来る場所だった。

 休日ではあったけど、開園してからそれなりに経つ遊園地であるためそこまで来客は多くなかった。半年ぐらい前に新しい絶叫マシンが出来たので行きたいとユイに誘われて行った時は結構混み合っていたので、目新しさが無い時のこの遊園地はこれぐらいの集客力になっているのだろう。

 だからこそ経営者は子供が休日の時を狙ったヒーローショーなどを開催し、大きな設備投資をしなくても集客を増やす事をしているのだろう。


「ヒーローショーは3時からで、今は魔法少女のショーの時間みたいだね」

「行く?」

「オルカがみたいなら行くけど・・・」

「3時半からのゴマ太郎のショーなら見たいかも」

「あぁ、可愛いもんね、じゃあ3時まではアトラクションで楽しもうか」

「うんっ!」


 かなり急いで来たので、2時前には遊園地に入場出来ていた。2つか3つのアトラクションぐらいなら回ることが出来る筈だ。それに昼食を取らず、途中のパン屋で惣菜パンを買っただけで、急ぎ足でそのまま来ているので少し空腹だった。開いてるベンチなどがあれば、そこで軽い食事にしても良いだろう。


「キャラメルポップコーンの匂いがするね」

「あっちにホットスナックの売店があるから、あっちからじゃ無いかな」

「買ってきて良い?」

「パンはどうするの?」

「食べるけど、あの匂いには逆らえないよ・・・」

「ホットスナックコーナーはベンチがある筈だから飲み物とキャラメルポップコーン買って座ろうか、ついでにパンも食べてしまおう」

「そうしようっ!」


 オルカがキャラメルポップコーンを買っている間、俺はソースの焦げる匂いに誘惑されてしまい、やっぱ高いなと思いつつ、焼きそばを買ってしまった。

 クラッシュアイスでキンキンに冷えたカップ入りのコーラと共にパラソル付きのベンチに座りオルカを待っていると、一番大きいサイズのポップコーンカップを持ったオルカが戻ってきた。


「あー、私も焼きそばを食べたいと思ってたんだよ」

「高めだけどソースの匂いに勝てなかったよ、それにしてもデカいカップだね」


 オルカが持っているキャラメルっポップコーンの箱は、ファミリー向けのバケツサイズのものだった。

 俺はオルカの前にコーラのカップを置き、焼きそばの乗ったトレーを真ん中に置いて、惣菜パンをカバンから出していった。


「この方がショーを待つまでの間にゆっくりと食べれるとおもってね〜」

「アトラクションは良いの?」

「私が乗れそうなの5つぐらいだし、すぐに回れちゃうもん」

「メリーゴーランドとコーヒーカップとトレインとお化け屋敷と・・・なに?」

「このローターっていう奴」

「あぁ、遠心力で壁に張り付く奴ね」

「そうそれ、そんなに人気は無いから待ち時間ゼロだしショーの後でも閉園前に回りきれちゃうよ」


 焼きそばや惣菜パンより先にキャラメルポップコーンの誘惑に勝てずつまみ出しているオルカがショーの前は完全に食事タイムにしようと提案してきた。


「俺は観覧車に誘おうかと思ってたけどね」

「苦手だよ〜」


 俺は焼きそばのトレーを取ってチョイチョイ食べながらオルカにそう提案したが躊躇されてしまった。


「ここだと夕日は海に沈むから綺麗そうだし、日が落ちた後でも夜景が見えて綺麗だと思うけどね」

「そうだねぇ・・・でも怖いよ・・・」

「それにあの時の吊り橋効果の再現が出来るかもしれないよ?」

「あっ・・・うん・・・」


 ガサガサとキャラメルポッポコーンのバケツを弄っていたオルカの手がピタッと止まったので脈ありの感触を感じた。

 俺はオルカの抱えるように持っているキャラメルポップコーンの箱からいくつか取り、オルカの口に近づけて、オルカが口を開けた所でキャラメルポップコーンを放り込んだ。

 ユイと遊園地に来たときに必ずお願いされるポップコーンの食べさせ方で、そのあとユイの機嫌が凄く良くなるのでオルカにも効果があると踏んで実行してみた。


「分かった、でも夕方で乗って怖かったら、夜に乗るのは無しだからね?」

「分かったよ」


 心の中で「よっしゃ!」と喝采を上げていた。

 俺は特に観覧車が好きでは無いし、怖がっているオルカを誘うのは悪いと思っていたけれど、あの時のオルカは凄く可愛かったので、もう一度見たいと思っていたのだ。


「なんか嬉しそうだね・・・」


 キャラメルポップコーンのカップをテーブルに起き、俺の側にあった焼きそばのトレーを取って割り箸でグサグサと刺していたオルカが、恨みがましそうな目で俺を見てきた。罪もない焼きそばに当たるのは良くないと思う。そのままだと発砲スチロール製のトレーが貫通して大惨事が起きるだろう。


「またあの時のオルカみたいな可愛い姿を見れるかもって思ってね」

「イジワルだよっ!」

「男の子は好きな女の子にはイタズラするものって言うしね」

「好きっ!?」


 グサグサ刺していた割り箸を持ったまま手で顔を覆ったため、割り箸が顔に当たたらしく、痛かったようで箸を置いてからまた顔を覆い直した。

 もうお互いに日焼けして肌が真っ黒だから顔色が多少赤くなっても分からないと思うけどね。


 オルカから開放された焼きそばの乗ったトレーを自分の近くに引き寄せて見ると、トレーの底にはいくつか穴が空いてしまっていた。けれど穴同士が繋がって焼きそばが底からこぼれ落ちるといった状態では無かったので、俺は焼きそばが救出出来た事を安堵した。

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