第3章 高校3年生編
第98話 虚心坦懐な始まり
高校生最後の学年に突入した。前半は最後の部活動に集中したいけど、受験という関門があるので並行して当たらなければならない。
地震研究所のある私立の大学の受験を予定しているけど、日本の最高学府と言われる京都の国立の方が質量共に恵まれているため、そちらは滑り止めの気持ちの方が強い。
プレート境界型地震の権威の方と津波研究の権威の方がおられるので、京都の大学に行っても教えを請うため訪ねてみたくはある大学ではある。
実は最近お袋から俺とユイに弟か妹か両方が出来た事が告げられた。かなりの高齢出産なので大丈夫か心配になった。
その時にスミスの憑依体から『無事に男の子と女の子が産まれますが、ユイカ様は助かりません』と告げられた。
どうにかならないか聞いたら『命令してくれれば大丈夫にします』と言われてすぐに命令をした。
自然の摂理に反する事だし初めてスミス達の超常的な力を自発的に使ってしまった。
人は一度タガを外すとそれを出しやすくなってしまうものと聞く。今後の俺の考え方に影響を与えてしまいそうだけど後悔はしていない。さすがにこんなに早く自身の親と死に別れるのは、今の俺では耐えられそうに無いと思ったからだ。
俺とオルカとユイはお互いの学年を表すワッペンを交換した。
ユイの1つ星のワッペンを3つ星に替えて俺とオルカに1枚づつ、俺やオルカのワッペンは2つ星のままのものと3つ星に替えたものをユイとお互いとで交換した。
去年の失敗を踏まえてワッペンがついている胸の部分は見ないようにしている。たとえそれが余り胸のサイズが無いユイやオルカだとしても去年の二の舞になる可能性はあるからだ。
「私たちどこのクラスかなっ?」
「親しい奴が多いと良いな」
オルカはクラス分けが書かれた紙の貼られた掲示板の場所に向かう時に、ウキウキとした感情を抑えられていなかった。
婚約者であるオルカとは、理系と文系と分かれていない事もあり同じクラスになる事が決まっている。なぜそうなっているかというと、婚約者同士は一緒の方がモチベーションが上がる傾向にあるからなんだそうだ。
ただし婚約者だからといって風紀を乱す行為には厳正に対処される。どう厳正かというと、過去に両者退学という処分があったといえば、どれほど厳正かが分かるだろう。
関連するような校則は「不純異性交遊は退学処分」という一文のみなので、どんな事をすれば退学まで至るのかは不明だ。
生徒同士の放課後や休日のデート程度では進路指導も無いようなので、清い交際を続けているオルカとの事で問題になる事は無いと思っている。
「私達は7組だ・・・綾瀬さんと一緒だね・・・早乙女さんは8組か・・・あとは・・・」
「真田とはまた同じだな・・・、バスケ部とはキャプテンと海野と望月が一緒だな・・・坂城は2組か・・・あとは・・・」
3年間で同じ水泳部員と一緒になるのはオルカが初めてだ。バスケ部員とは結構一緒になるんだけどな。
「よう! 今年は一緒だなっ!」
「1年よろしくな」
海野と望月はまだ教室に居なかったが、キャプテンは既にいた。
「岡崎君、おはよう」
「相変わらず夫婦同伴か」
「まだ夫婦じゃないって言ってるだろ」
「夫婦なんて恥ずかしい・・・」
キャプテンの言葉に顔を覆ってイヤイヤするオルカが可愛い。
「立花は、港のスリー大会に出るのか?」
「あぁ、去年は哀川と望月とで出たぞ、1回戦で敗退したけどな」
「あぁ2年7組チームだろ?」
「あぁ」
去年は同じクラスとなった男子部員2人で出場した。結果は非常に残念な結果だったけど。
「今年はうちのバスケ部で男子、女子、混合で優勝したい。という訳で最強の3チームを作って出場しようと思ってる」
「なるほど・・・」
ちゃんと相性を見てチームを作るって事かな。
「まず女子チームは立花の妹と嫁とジェーンだな」
「オルカはバスケ部じゃ無いぞ?」
「良いんだよ、たまに遊びに来てるし、去年の優勝チームだろ?」
「まぁそうだな・・・」
オルカは時々女子バスケの練習に顔を出すようになっている。去年の港の祭りで優勝した事もあるし、実力もある。俺のように助っ人はしていないけど冬場の自主練の時に連れていったら歓迎されたのだ。
「そして男子チームは、築地、望月、田宮だ」
「いい組み合わせだな」
「だろ?」
築地はパワーのあるセンターだし望月は突破力のあるパワーフォワードだ。それとスリーオンスリーは通常のゴールが1点で、スリーポイントのラインの外からのシュートが2点と倍なので、田宮の様なシューターの居る意味は大きい。外してもリバウンド力の高い築地と望月が居るので安心して打てる。
「じゃあ俺とキャプテンは混合なのか?」
「あぁ」
「もう1人は?」
「言わなくても分かるだろ?」
「早乙女か・・・」
「正解」
早乙女は女子バスケ部のキャプテンで、眼の前に居る男の恋人だ。
「最強だろ?」
「妻恐だな・・・」
「今、言葉のニュアンスが変じゃ無かったか?」
「気のせいだ」
女子バスケ部のキャプテンである早乙女は背が低いけれど総合力の高い選手だ。眼の前の男とプレイも似ている所がある。
キャプテン同士で最近バカップル気味ではあるのだが、早乙女は嫉妬深いようで、キャプテンが他の女性と話していると凄い目で睨むようになった。キャプテンには内緒だが、男女両バスケ部は、将来恐妻家夫婦になるだろうと噂している。
「海野に声はかけないのか?」
「海野は哀川と大石で組んで出るらしいぞ」
「男子部門は2チーム出るのか?」
「他にも出るかもしれないけどな」
あの3人では優勝は厳しいだろうな。男子部門は俺達が去年に初戦で当たったアメリカ企業のチームがものすごく強いんだよ。
「おはよう」
「あぁおはよう」
「綾瀬さん先日ぶりだねぇ」
「えぇ、1年あなた達と一緒なんて嬉しいわ」
「また1年間よろしくな」
「よろしくね」
キャプテンは綾瀬が近づいて来てヤバいと思ったのか離れていったな。恐妻は特定の相手が居る相手か、自身が認めた相手ならば嫉妬しないけど、そうでは無い相手の場合はご法度らしいからな。
担任は2年7組の時の担任と同じだった。という事は学級委員の決め方も同じなのだろう。
朝のホームルームの後に始業式が行なわれ、クラスのかかり決めで俺はまた綾瀬と共に推薦され学級員と副委員にされてしまった。
オルカは体育委員という体育の授業での号令係と体育祭での責任者になっていた。2年の時にもやっていたから適任だろう。
キャプテンも体育委員になっていた。他の係だと別の女生徒と組む可能性があるから、嫉妬の対象にならないオルカが着いた体育委員を選んだのだろう。
「ユイも体育委員なのか」
「うん、運動得意だからって選ばれた」
「私も去年そうだったよ」
「そんな安易で良いのか・・・」
「ジェーンちゃんは学級委員長になったよ」
「人気あるもんねぇ」
「あのカタコトで良いのか?」
「発音は変だけど、使ってる言葉自体は間違えないもんね」
「むしろ難しい言葉使うもんな」
「そうなの?」
「この前もキョシンタンカンっていう難しい言葉使ってた」
「虚心坦懐な」
「どういう意味なの?」
「素直っていう意味だったような・・・」
「そうそうそんな感じ!」
「アメリカ人に日本の言葉で負けてるよ〜」
「四字熟語だし大陸の言葉じゃないのか?」
アメリカ人どころか地球人ですら無いんだけどね。
『虚心坦懐は、虚心は心が空っぽ、坦懐は気が入っていない状態を指し。物事に当たる際に、先入観を持たず素直に当たろうとする様を、虚心坦懐に物事に当たると表現します。同じような意味を持つ虚心と坦懐をくっつけた言葉で、大陸の故事ではなくこの国の造語です』
超越した存在から日本が作ったらしい難しい四字熟語が丁寧に解説された。日本って和製英語だけじゃなく漢字でも造語してたんだな。
『峠や畑など、この国が作った大陸にはない和製漢字と言われる文字もあります』
それは知らなかった。虚心坦懐など今後会話で使うことは無いだろうけど、虚心坦懐な気持ちになって覚えておくことにしようか。もしかしたら受験で出るかもしれないしな。
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