第84話 おみくじの意味

「何を言ってるんだ?」


 俺はユイが部屋に来た行動の意味と、言っている言葉の意味が分からず訪ねた。


「私もここで寝るから」

「はい?」


 言ってる意味は分かったが意図が全然分からなかった。


「俺とオルカは一緒に寝る事になるがユイは違うだろ?」

「だってお兄ちゃんオルカちゃんとするんでしょ? だったら私だって覚悟決めるよ」

「いやいやしないよ?」

「えっ? だってするから綺麗にしとけって言ったじゃない」

「トイレを済ませとけって言っただけだろ?」

「えっ? 何言ってるのお兄ちゃん」

「お袋達が今夜するから、その最中にトイレに行きたくならないよう、寝る前に済ませとけって言ったんだろ?」

「あっ・・・」


 ユイは自分が勘違いしていた事にやっと気がついたようだ。


「そもそも何でトイレに行けが綺麗にしろの意味になるんだ?」

「えっ? それはオルカちゃんのまん「ユイ駄目っ!」」


 どうやらオルカが持ってる・・・多分漫画だろう?

 オルカとユイは漫画や本を貸し借りしているのは知っていた。 その中にそこにそんなやり取りが書いてあるものがあったのだろう。 オルカは随分なものをユイに見せていたようだ・・・。


「でも何でユイが覚悟を決めるんだ?」

「お兄ちゃんが好きだから」

「兄としてだろ? 俺達みたいに成長した兄妹は一緒に寝ないしそもそもしないだろ」


 やっぱりユイの言っている意味が分からない。

 

「私と恋人になりたいならユイも一緒じゃないとダメって言ったらどうする?」

「お互いが好きだからって事か?」

「うんそう・・・」


 オルカの言うようなそういう恋愛があるというのは前世でも聞いた事があった。 LGBTQという奴で体と心の性が違ったり、一致していても性的対象が異性では無い人の事の事を言っているのだろう。 紅白にもそれを公表している歌手が出ていた。


「2人は仲が良いもんな・・・」

「うん」

「そうなの・・・」

「そういう恋愛があるのは知っている・・・そうか・・・ユイとオルカがな・・・」

「えっ? 違うよ?」

「そういう意味じゃない」


 俺の解釈は違ったようだ・・・。

 じゃあ何でオルカと恋人になりたいならユイも一緒じゃないとダメなんだ?


「私もオルカちゃんもお兄ちゃんが好きなんだよ」

「それは以前聞いている」


 ユイの好きは兄に対しての好きだけどな。


「私もオルカちゃんもお互いが好きなんだよ」

「うんそれはさっき聞いた」

「だからどっちかだけが恋人になったら1人は悲しむじゃない」

「ん? オルカを俺に取られて悲しいって事だろ? でも恋愛ってそういうものじゃないのか?」

「そうじゃない、私がお兄ちゃんを男として好きなの!」

「えっ? でも妹のままでいたんだろ?」

「でもお兄ちゃんを好きなの・・・」


 ユイが言ってる言葉の意味は分かったけど理屈がわからない。


「男として好きなのに妹でいたいって事か?」

「うん・・・」


 ユイはポタポタと目から涙を流して俺に訴えている。


「俺とユイは血が繋がって無いから恋愛しても問題無いし、結婚して夫婦にだってなれるぞ?」

「うん、でも妹じゃなきゃ嫌っ」


 少しだけ話が見えてきた。ユイは俺と恋人になったり夫婦になると妹と違うものになると思っているらしい。


「私はお兄ちゃんの妹のままでいたいけど好きなの」

「私はタカシと恋人になりたいぐらい好きなの」

「それはありがとう・・・うれしいよ」

「そして私とオルカちゃんはお互いに好きなの」

「だから一緒に好きになろうって決めたの」

「お前ら変だぞ?」

「そうなの私はずーっと変なの」

「私も変なんだよ」

「・・・」


 俺は天井を見上げた。 俺はユイが好きだ。 けれどそれは叶わない想いだと決めて諦めた。 その後オルカと出会い好きになって交際を真剣に考えた。 その結果オルカと婚約が決まったというのが半日ぐらい前の出来事だ。


「これはお袋やお義父さんは知っているのか?」

「知らない、私とオルカちゃんだけの秘密だったから」

「ギリギリまで秘密にしようって決めてたの」


 特にユイの状態はとてもおかしい、性自認で性別が逆転しているというものがあるとしたら、人間関係にもそういうものがあるのだろうか。 恋人だと思い込もうとしても妹であると認識し続けてしまうようなそんなやつだ。 これはもしかしてゲーム設定に由来しているのだろうか。 俺とユイは妹という設定だったので、異性として好きになっても妹であり続けようとしてしまうような感じにだ。


『創造主様達による影響の可能性はありますが、ユイ様に思考誘導されている様子は我々の近くでも確認されていません、またユイ様の思考の破綻はこの星の人類の思考の破綻の程度と大差なく、社会性の逸脱からは大いに下回っていて正常の範囲です』


 お互いに変だと言い合っていても、スミス達からすると正常の範囲の事らしい。 婚姻のタブーとされている重婚や近親者との婚姻など、皇族や華族の中では行われているというし、特に逸脱した考え方では無いのだろう。


 俺はこのまま2人を認めて良いのだろうか。 前世の俺の価値観でも今世の俺の価値観でも認められない話だ。

 一応重婚罪というものがあるのは知っている。 でもこの法律は通常は成立しえない法律と言われて居

いるのは知っていた。 何故なら婚姻が成立している人は、他の人と婚姻届けを提出しても受理されないから発生しないからだ。

 そして不特定多数の異性と関係を持っても相互の合意があれば罰する法律は存在しない。 それなら風俗産業は無くなっている筈だし、 お互いの体の相性を確認するための婚前交渉なども罪になってしまうからだ。


「2人同時には結婚出来ない」

「オルカちゃんと結婚すればいいんだよ」

「ユイは妹でありたいんだよ」


 俺は初詣のおみくじの事を思い出していた。


「ユイは1年前のおみくじの事を覚えているか?」

「待てば来るだった・・・」

「俺のおみくじは?」

「オルカちゃんと良い感じの事が書いてったとしか覚えてない」

「良縁、大事にせよ、待ち人、近くに居るだな・・・・」

「うん、そんな感じだった」

「近くに居るユイを大事にせよって意味にもならないか?」

「あっ・・・」


 ユイはおみくじの内容を少しだけ覚えていたようだ。


「願い、末に叶う、失せ者、末に見つかる、病気、末に治る、だったのは覚えてるか?」

「末ばっかだったのは覚えてる」

「俺は出会ってすぐユイの事が好きになったんだ、だけどユイは妹に固執してたからそれは叶わない望みだと諦めたんだ」

「えっ!?」

「日の出から1年の始まりだとすると、今はまだ年の末だ、俺の願いは叶った、そして無くした気持ちが見つかった、俺の心の病は今治った・・・そんな事を思ってるんだ」

「お兄ちゃん・・・」


 ユイは俺に抱きついて来た。 オルカは複雑そうな顔をしている。 だって婚約者が別の女を好きだと言っているのだ。


 俺はこの世界であの神社のおみくじは意味があると思っている。 この世界がスミス達の言うゲーム主人公である武田が誕生した瞬間に産まれたのだとしたら、武田にとって大きな意味を持つ場所は何かあるのだと思うからだ。


『創造主様達への接触が出来ていない我々には否定できる材料がありません。 ただあの神社にそういった特別な力が無い事は観測しています。 あなた様の想像は偶然の域を超えない出来事の範囲に収まっています。 私見にはなりますが私も偶然では無い事を願っています』


 スミスの憑依体は俺の考えを一部否定しつつも認める言葉を述べてくれた。


「オルカの事は好きだ、恋人だと思っているし大切にしたいと思っている」

「タカシ・・・」

「でもこんな俺なんかで良いのか? ユイの事も好きだなんて言う男だぞ?」

「うん、そんなタカシで良い、私もユイが好きだもん」


 オルカも俺に抱きついてきた。

 なんかあまりに俺の都合が良すぎて信じられないという思いがとても強い。


「待てば来るだよ、今日まで待ったから来たんだよ、お兄ちゃんが来てくれたんだよ」

「私もそのおみくじ引きたいな・・・」


 それはユイのおみくじで、ユイは待たずに部屋に来ちゃっただろう。 でも末にとか書かれて無いから、今は待てチャンスは来るから、とかそんな感じだったのかな。


「オルカが墓参りから帰って来たら神社に行こうな」

「私もあそこで祈ってお守りを買ったら無理だって言われてた高校に合格したんだよ?」

「絶対おみくじを引く、そしてお守り買う」


 あまり大きな声で話さない様にしていたけれど、お袋と義父の部屋に声が響いてはいないだろうか? もし聞こえてたとしたら何と思われているだろうか。


 俺達は俺の体に合わせて買った大きなベッドで3人で並んで眠った。

 避妊具のお世話になる様な事はしていない。

 俺達は社会的にはまだ子供でしかなく、そしてまだそれを必要としてはいないと思うからだ。 ただ寄り添って1つの布団に潜り、お互いの体温を感じながら眠りについたのだった。

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