第76話 お財布事情

 翌日の4回戦以降もユイ達は勝利を重ねていった。 準決勝ではインターハイでも当たった中学校の時ユイを推薦しようとしてくれた京都の強豪校とあたった。 スミスには2人のマークが付きパスが止められていた。 しかしユイへはマークが1人しおらず止めきれていなかった。

 ユイの相手は4番をつけた相手チームのキャプテンで1番上手い相手だったんだろうけど、俺とオルカの二人がかりのマークを上回るような力は無く、ユイは点を重ね続けた。

 ただ連日の試合続きであった事と、マーク振り切るための疲労から第3クォーターの後半休憩のためにベンチに下がる事となった。

 ユイが約5分休憩している間に4点追い上げられたけど、それで6点差で勝っており、第4クォーターでユイがコートに戻り点を広げていき勝利を決めた。


 女子バスケ部が俺達の雪辱を果たしてくれた。 対戦相手は俺たちが負けた強豪校の女子チームだったからだ。

 ユイとスミスに張り付くようマークが付いていたけれど、両方とも止まらず点を量産していった。 ユイとスミス以外のメンバーは相手チームの方が上回っているようだけど、それでも2人の得点力を上回るような差は無く問題なく勝利を飾ってくれた。

 観客席に居た俺達を破った男子バスケ部の選手たちが女子バスケチームが負けていく様子を悔しそうに見ていたのは、彼女たちにとってのインターハイの雪辱戦だと知っているからなのだろう。


 ユイ達の表彰式を見守ったあと、俺達はホテルに帰り祝勝会をあげた。女子たちのお祝いという事もありスイーツ系が多く用意されていて、女子バスケ部員達が一部をのぞき目を輝かせていた。


(美味しいか?)

『エネルギー変換率の良い食事ではありません』

(でも結構食べてはいるな)

『吸収変換率が悪い分沢山摂取しているだけです』

(ケーキばかり食べるのは?)

『エネルギー変換率がこの中では1番良いからです』

(美味しそうな顔して食べたらどうだ?)

『平均的な顔をしていると思いますが』


 目を輝かせないで黙々とフルーツタルトを口に運ぶ女子バスケ部員はそう俺に念話を返して来た。


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 祝勝会後に俺とユイは商店街の方に行って、地元価格で身内へのお土産を買った。 閉店しようとしているギリギリの時間だったけど快く入店させてくれた。


 翌朝の朝食後すぐに迎えに来たバスに乗り込み地元に向かって出発した。

 家族へのお土産を買う為にと高速に入ってすぐのサービスエリアに寄る事になっていたので、そこで外向きのお土産も手に入れた。


 行きと違い、帰りのバスは静かだった。 疲れている人が多いのか寝ている人が多かったのだ。

 日付は12月30日、正月を実家で過ごす人のラッシュのためか道行く車は多く速度もあまり出ていないようだった。

 途中で寄った遠州県入口のサービスエリアはかなり混んでいた。 京都を出て来たドライバーが休みたいと思う距離にあるからだろう。

 そのサービスエリアの店で弁当を予約していたらしく、うなぎ弁当と緑茶が配られた。

 弁当箱の底にある穴に楊枝を指すと弁当が発熱し温まるといった石灰と水の発熱反応を利用した弁当箱で、冬の季節の弁当なのに温かく食事が出来た。


 弁当が出てきた時は暖かくなる工夫に驚き盛り上がったけれど、その後はまた社内は静かになっていった。


 俺は国体帰りもこんな状態だった事を思い出していた。 あの時一緒だったオルカは今頃は帰省した父親と一緒にいることだろう。

 大晦日の朝に駄菓子屋の方に来ると言っていたので、明日の朝に再会という事になるだろう。


「お兄ちゃん、オルカちゃんにもうすぐ会えるの嬉しい?」

「あぁそうだな」


 ユイも同じ気持ちなのか、そんな事を聞いてきた。


「お父さんと楽しく過ごしているかな」

「久しぶりなんだししているだろう」


 クリスマスを祝いながら食事をしたりプレゼントを貰ったりしただろうし、ホテルには温水プールやエステなどの施設もあるという話だから、結構楽しめているんじゃないかなと思う。


「疲れたからしばらくのんびりしたい気分」

「気持ちは分かるけど、新年の挨拶回りはしないとな」

「お年玉も貰えるしね」

「そういう事」


 アルバイトをしておらず、お小遣いだけでやりくりしている俺やユイにとって、お年玉は貴重な収入源だ。

 前世ではお年玉はお袋が預かり銀行に預けるという仕組みだったけど、今世は家の貯金箱に入れる方式なので自由に使える。

 ゲームでは毎週のようにヒロイン達とデートに行ってもお金が尽きたという描写は無かった。 主人公である武田の実家がそれだけお小遣いの多い家だった可能性もあるけれど、家とご両親を見た感じ、大金持ちでは無いだろう。

 今井物産は大きな会社だけど、サラリーマンの給料はそこまで他の会社と差はないと思う。


 武田から情報を聞きたいと電話で言われたヒロインは、桃井、綾瀬、オルカの順だった。

 誰が狙いだったのか不明だけど、ゲームの知識だけでは、デートで使うお金の捻出は出来ないような気がする。

 例えば綾瀬などは美術館や恋愛映画やクラッシックコンサートなどが好きという設定だった。

 デートに誘うのだったら男が出すだろうし、月1回行くだけで普通の高校生ならお小遣いを使い切るだろう。

 ましてやイベントを起こすためにはスキー場やテーマパークの遊園地など、小旅行レベルのお金がかかる場所に行く必要があった。

 まさかそのお金は真田にしていたようにカツアゲして賄うつもりだったのだろうか。


 そういえばユイの好感度がある程度高い時の冬休みの休日にスキーに誘うと、大雪でプチ遭難して見つけた小屋で夜を明かすというイベントあった。 通常のプレイでは3年目じゃないと起きないイベントなので、受験生や就職の進路が控えている時期なのに余裕あるなと思ったものだ。

 たしかオルカをスキーに誘ってもイベントあったな。 確かリフトが止まって高所が苦手なオルカがパニックになるのを抱きしめて落ち着かせるってイベントだ。

 わざわざ高い金出してまで小旅行して、事故や遭難しに行く気は無いのでスキーには行く気は起きないけど、確かユイの春のイベントとオルカの夏のイベントはリスクも無いし仲良くなるイベントだったから再現されるか分からないけどやってみても良いかもしれない。


 学校についたあとは監督達から新年の練習再開時期が伝えられて各々解散となった。


「しばらく練習は無いし家でゴロゴロしよっと!」

「俺は4日から部活だな・・・」


 水泳部は学校近くのスイミングクラブのコースを借りて居るので練習がある。 しばらくバスケ部の方の活動を重視していたので水泳用の筋肉が鈍ってそうではあるから鍛え直さないといけないな。

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