第75話 古い因縁
残念ながら試合は負けてしまった。 でも高校ナンバーワンのチームに善戦出来て良かったんじゃ無いかなと思う。
試合前にキャプテンが監督に、この試合のポイントガードを俺にするという話をしたところ、監督は「良く決断したな」と返答した。
監督も俺がポイントガードに向いている事に気が付いていたらしい。 けれど助っ人である俺を、キャプテンを差し置いてチームの司令塔に指名すれば部員たちから不満が出るだろうと思っていたそうだ。 だから「楽しめ!」と言って自主性に任せたらちゃんと答えを出してくれて嬉しかったそうだ。
結果として善戦をした事で、監督とキャプテンの目は間違っていなかった事が証明される事になった。
監督は俺がポイントガードになった際の動きについても既に考えていて、試合中に的確な指示と選手交代を繰り返してくれたため、俺も初めてのポイントガードだったけれどなかなかうまくやれたように思う。
「お前ら良くやった!」
「楽しかったっす!」
「俺等があんなに善戦するとはなっ!」
「負けたけど悔しくねぇ」
「俺は悔しいぞっ!」
「インターハイで雪辱を果たすぞ」
「その前に立花ありきから脱却しないと」
「夏は立花は全試合では出来ないしなぁ」
「その前に予選だろっ!」
「もう立花はバスケ部で良いんじゃないか?」
「俺等が頑張るんだよっ!」
「でもこんなにいい試合したし、来年はすげぇ新入生はいって来るんじゃないか?」
「そしたら俺らベンチに残れないだろ」
「練習だなっ」
「体力つけねぇと」
どうやら部員たちに来年に向けての目標が出来たようだ。
「女子たちが手を振ってるぞ」
「結局負け試合しか見て貰えなかったな」
「でもメッチャ笑顔だな」
「ジェーン可愛い」
「あいつは笑顔でも無いし手も降ってないだろ」
「可愛けりゃ良いんだよっ!」
「それより整列しようぜ」
整列して礼をしたあと、相手チームの監督が俺に握手をしに来て「うちに来ないか?」と言ってきた。 「このチームが好きですから」と言って断ったけどいいよね。 「実はバスケ部員じゃないんです」なんて言えないもんね。
6番の選手にはメッチャ睨まれてしまって怖かった。 第2クォーターまで0点に抑えてずっとベンチにいさせちゃったもんね。
うちのチームの得点はキャプテン20点、俺18点、田宮15点と3人がメインで得点を取り、他では哀川8点、海野6点、大石5点とミドルシュートが得意なメンバーが少しあげ、他のメンバーはゴール下に切り込むフェイントと守備という役割だったため2点以下だった。
「お兄ちゃんすごかったよっ!」
「でも負けちゃったぞ?」
「でもここに来るまで、お兄ちゃん達があんなにいい試合してるなんて、誰も思って無かったんだよ?」
「ちゃんと善戦出来たよね」
「うん、カッコよかったよっ!」
「それは良かった」
ちゃんと善戦していた様子は伝わっていたようだ。
「でも俺達は負けたし、後はユイ達の応援だな」
「うん、応援お願い」
「俺達の雪辱も頼むな」
「うんっ」
実は、今日俺達が負けた高校の女子バスケ部もウィンターカップに出場していて、勝ち進んでいる状態だった。 もしお互いに勝ち進めれば決勝で当たる事になる。
その女子バスケ部はユイ達のインターハイの決勝の相手でもあった、その時はユイがスリーポイントシュートという秘密兵器を持っている事を知っておらずその対策が出来ていなかった。 そのため大差で勝利していた。
しかし今回はユイを研究をしているだろうし、雪辱に燃えている事だろう。
「監督が打ち上げに焼き肉奢ってくれるってよ」
「あっ、いいなー」
「女子はホテルに戻ってミーティングだってさ」
「ズルいっ!」
明日も試合あるんだしこればかりは仕方ないだろう。
「ホテルの食事はどうするんだ?」
「監督が折り詰めにしてくれってホテルに頼んだらしい、軽食だし俺等なら夜食とかですぐに食べちゃうだろ?」
「ホテルが良く了承したな」
「ホテルの従業員に監督の知り合いがいて、その人に頼んだらしい」
「なるほど・・・」
食べ盛りの俺達はホテルの食事だけでは足りない人もいて、外行って買い食いしている奴もいる。 だからすぐに食べるというのは間違いないだろう。
しれにしても折り詰めにするって、ホテルは食中毒とか心配しそうなものだけど、監督の知り合いだからってよく了承したな。
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焼き肉はとても美味しかった。六甲牧場産と書かれて居たので前世でいう神戸牛なのだろう。
俺は前世で脂っこい肉を食べて胸焼けした経験を持つので、脂が多い霜降りとか内臓系の肉は苦手だ。 グルメ番組で上質な脂とか言ってるけど、俺には違いが分からない。 分かるのはどっちも加熱中は液体だけど、常温になると個体に戻り、同じぐらい胸焼けするって事だ。 だから俺は脂の少ないロース肉をサニーレタスに巻いたり、牛タンをレモン汁で食べていた。
バスケ部員達は、脂がジュワーっとなる肉が良いらしく、炭に落ちた油で煙をモクモクと立てながら、網に肉を乗せ、焼けた先から争うように口に運んでいた。
「この店結構高いんじゃ無いですか?」
「良いんだよ、冬のボーナスも出てるしパーツと食っちまえ」
「監督太っ腹ですねぇ」
「誰がデブだって!?」
監督は少し腹回りが大きいので気にしているらしい、それにしてはビールを飲んで脂っこい肉を食べているんだから痩せる気は無いように見える。
「昼間っから飲むビールは最高だな!」
「監督って今は仕事中じゃないんですか?」
「公休日だけど出張手当出てはいるから仕事中だな、だからお前らを労うという仕事をしている訳だ」
仕事中にビールはいかがなものなのだろうか。
「ビール飲んでるの学校にバレても大丈夫なんですか?」
「固っ苦しい事言うなよ、お前らも今が最高だろ?」
そう言われたら「最高ですね」と答えるしか無いけどな。 実際に部員たちから「最高!」「最高っす」「最高で〜す」という声の合唱が起きているしね。
「それにしても坂東の奴から、「いいチームを作られましたね」と言われるとは思わなかったぜ」
「坂東って相手チームの監督ですか?」
「あぁ、あのジジイは俺が高校の時のコーチだよ」
「えっ! 師弟対決だったんですか?」
「まぁそうだな、でもあの学校とは方針が違うからな、今回も勝負になるなんて思ってなかったぞ」
「今回も?」
「12年前だったか・・・俺がこの部で初めて全国に行ったときの初戦で当たったんだよ、結果は138対31のボロ負けだったけどな」
「それは・・・」
「あんときゃ、あの坂東に、「もっとしっかり指導されてはいかがです?」なんて言われてな」
「今日ベンチでキレちらかしてたあの監督がですか?」
「あぁ、アレは傑作だったなっ!」
どうやら相手チームの監督とは古い因縁があって、今日の試合は監督にとっての雪辱戦のようなものだったらしい。
「バスケの指導者としてスゲェと言われている人だが、俺はあいつの勝利史上主義な所が嫌いでなぁ・・・だから今日あいつを焦らせ、ああ言わせたのが痛快だったんだよ」
「負けちゃいましたけどね」
「良いんだよ、選手集めの時点で同じ土俵じゃねぇんだからよ」
うちの高校は、リュウタが通っている姉妹校と違い偏差値が高めだ。 スポーツ推薦のような制度も無いため選手集めという点では弱い所がある。
「今回の結果でうちを志望してくれる中学生が増えるんじゃ無いですか?」
「あぁ増えるだろうな」
今回ウィンターカップ予選の決勝トーナメントで戦った姉妹校は、実力は高いけど荒っぽい選手が多かった。 俺達はチームプレーでそれを躱して勝った感じだった。
県下一の進学校であるため、勉強についていくのは結構大変だ。 その中で運動部に所属して長時間練習をするというのは、本当にそのスポーツが好きなんだと思う。
「来年以降も楽しみですね」
「立花や田宮みたいな尖った逸材が来たら面白いなっ!」
「俺は水泳部ですよ」
「それは吉岡のババアにも言われてるからわかってるよ」
「相澤先生に殺されますよ?」
「あいつの前じゃ言わねぇよ」
どうやらアルコールが回って口が滑りまくっているらしい。
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