第69話 ここまで来た

「遂に俺達ここまで来たんだな」

「あぁ・・・」

「インターハイ県予選でベスト8まで運んでくれた先輩がたのお陰でもあるからな」

「わかってるっす」


 このウィンターカップのメイン会場と言われるこの京都の体育館は、バスケをしている高校生には聖地の様な場所らしく、バスから降りた男子バスケ部員達は感慨深くそれを見ていた。

 前世で言う野球部員にとっての甲子園、サッカー部員にとっての国立競技場、相撲部にとっての国技館のようなものだと考えれば良いのかな。


 修学旅行で自由行動の時に、奈良からこの体育館を見るために行った奴が結構いたらしい。

 趣のある体育館だなと思うけれど、水泳部員である俺にはそれ以上の事は良く分からない。

 バスケ少女のユイならば同じ感覚が分かるかもしれないけれど、男女で開会式の場所が分かれているためどんな感じで会場に入ったのかわからない。


 開会式が終わり、1回戦の第1試合が行われる。 俺達が1回戦を勝ち進めば当たる高校の試合が行われるので全員で見学する。 俺達1回戦目の対戦相手の高校も同じように見学しているので目的は同じなのだろう。


「センターはどっちもうちの方が高そうですね」

「資料によるとどっちも188だぞ、あの体の厚みで小さく見えるだけだ。 パワーは相当あるだろうよ」

「ゴール下は激戦ですね・・・」

「あぁ・・・」


 うちのセンターとパワーフォワードである築地と望月はうちの中では筋肉質で体格に優れるけれど、相手チームのセンターとパワーフォワードの選手より細身だ。 俺よりは充分あるけどゴール下で競り合うのは結構不利そうだ。 俺は体重を乗せてガツンと当たられると弱い。 

 家の近くの公園で遊ぶ1on1では、俺よりは体重の軽いユイやオルカだから対抗できているけど、重量級の突撃には耐えられない。

 あの両チームのセンターが突っ込んで来たら、動かずタックルを受けてオフェンシブファールを狙った方が良いかもしれない。 重量級は真っ直ぐ突っ込みがちだし試しても損は無いだろう。


「あのシューター、フォームが綺麗ですね」

「あの6番は伊勢大会のMVPらしいな」

「うちの立花や田宮も負けて無いだろ」

「それもそうですね」


 自分のシュートをマジマジと見たことが無いのでわからないけど、田宮のシュートフォームが綺麗なのは知っているので納得出来た。


「ダンクする選手はいないみたいですね」

「190近くあってもバネがなきゃ綺麗に入らんらしいからな」

「立花先輩バネありますもんね」

「手も長いしな」


 俺も一応ダンクは出来るけど、試合でホイホイ入れられるほどは使えないし失敗する。 完全に進路がフリーであれば確実だけど、そんなタイミングはなかなか無いだろう。


 前世のバスケ漫画で高校生がガンガンとすごいダンクをしていたけれど、あれはアニメの中だけだと思う。

 俺も何度か試合に参加し見てきたけれど、一度も試合中にダンクを見たことが無い。

 ユイもダンクは自体は出来る。

 けれど失敗が多いので遊びではするけど試合では絶対にやらないと言っていた。


「さぁ試合開始だ。自分が当たる可能性の高い選手の動きはなるべく覚えておけよ」

「「「はい!」」」


 さて俺が覚えるのは速攻をしてくる選手とシューティングガードをマークする選手だな。

 ゴール下に切り込む時は守備が広がってからだからセンターぐらいを覚えれば良いかな。


---


 2回戦目の相手は伊勢県代表では無く、島津県のチームだった。

 運動量が多く、ボールを持ったらチーム全体で速攻をかけるランガンを行う感じだった。

 それだけでは無くリバウンド力が相手より勝っていて、それが有利に試合を運ばせていた。

 守備もオールコートで行うのでシューターがかなりバテてしまい決定力が下がった。そ れをどんどんリバウンドで取られてしまった事が原因で伊勢代表は敗退したという感じだった。


「今見ていたのは、俺達が試合に勝てば対戦する相手だぞ。今は眼の前の相手に集中しよう」

「「「はい!」」」


 ベンチでの見学で冷えてしまった体を温める必要がある。 柔軟を念入りにしたあと体育館の具合を見ながら軽く走って様子見をする。 うちの高校の床と感触に大きな違いは無さそうに感じた。

 流しながら交代でランニングシュートをしていくと徐々に体が温まってくる。


「ダンクやってみてくれ」

「良いけど・・・」


 俺が前にボールを投げてそれをキャッチしタタンと床を蹴って両手でダンクした。

 会場から「ウォー」とか「今のダンク?」という声が聞こえた。


「今度は片手でダンクしてくれ」

「たまに失敗しますよ?」


 俺は普通にドリブルしてボールを手で持ちタタンと飛んだあと片手にボールを寄せてゴールリングにボールを叩き込んだ。

 やはり会場から「ダンクだ」とか「マジだ」という声が聞こえて来る。 やはり日本の高校生でダンクをするのは珍しいのだろう。


「これでお前がシューターなんて相手は思わんだろ」

「なるほど・・・じゃあシュート練習もわざと外し気味にしとくか」

「あぁ、田宮にもそう指示しとく」


 監督の小森先生の薫陶を受けた今のキャプテンの八重樫はかなり策士的な考えをする。 策に固執しなければ策に溺れる事も無いだろうし、多くのブラフを出すのは効果的だと思うけど、本命のプレイもちゃんとしてくれよ。


 俺はスタメン出場が決まった。本当にどこが秘密兵器なんだか。


「ジャンプボールをうちが取ったら、お前にボールを渡す。ゴール下まで切り込んでシュートを打て。その後はいつもと同じだ」

「了解」


 俺が切り込めると思われた方が、外が空いてシュートが打ちやすいからな。


 俺の方が身長が高いしジャンプ力もあったお陰で、相手とのジャンプボールの競り合いに勝つことができ、ポイントガードであるキャプテンにボールを渡せた。

 俺は指示通りにゴール下に走りながら、キャプテンの方を見ると、俺に素早いパスを出してきた。

 俺はそれをキャッチするとタタンとジャンプしてレイアップシュートを放った。 守備に阻まれたのでダンクをするのは無理だったため確実性を取った。

 ゴールに向けてボールを離した瞬間に相手センターの手が俺の顔の方に向かっているのが見えたので、おれはそれを顔避けずに顔で受けて派手に倒れ込んだ。

 ピーっと笛が鳴らされて相手センターのファールが取られガスケットカウントワンスローが宣言された。

 フリースローを無難に決めて3対0、取り敢えず先制は成功する事が出来た。


 相手が速攻をかけて2点を取ったので、お返しにまた俺がゴールに向け駆け込むと相手チームがゴール下にの守備に固まりだす。

 そこで俺がラインギリギリから3Pシュートを決めて6対2。

 そして相手は速攻をかけてきたけど俺はシュートを放った瞬間に守備に戻っていたのでゴールそばにいる。

 相手は口で「ドケッ」と言ったので、俺は真っ直ぐ突っ込んで来る気なのだと察し、その場で手を上げるが体はうごかず立っていた。

 相手は俺にぶつかりながらゴール下に駆け込んでシュートを放った。 俺は相手の勢いに逆らわずその場に倒れていて、ピーっという笛の音を聞いてニヤリとほくそ笑んだ。

 オフェンシブファールでゴールは無効。6対2のまま俺達にボールが渡った。

 この時点で丁度1分ぐらいだった。 俺は連続で1分動くとパフォーマンスが落ちる。 10秒ぐらいゆったりとした時間があればかなり回復するので、キャプテンにゆったりとしたボール回しをお願いしたのだ。


「落ち着いていこう」


 キャプテンがそういうと、一塊になって進む。 相手チームはホール下で守備を固めているからその手前でゆっくりとボール回しするのだ。


 築地と望月が相手ゴールの下で、相手守備場所の奪い合いをしていた。 やはり体格的に分が悪いようだ。


 キャプテンは俺にパスをしてきたけど今度はしっかりとマークがついた。

 けれど相手は180cmそこそこなので俺は3Pライン少し手前でジャンプし、そこからシュートをした。

 着地をした瞬間には俺とキャプテンと田宮は守備に向かっていた。 築地と望月だけはリバウンドの場所取りをして相手チームを引き付けていた。

 俺の放った瞬間の感触の通りゴールは決まり9対2になり相手チームからタイムがかけられていた。 開始1分半で7点差。さすがに続ける事は出来なかったようだ。


「ナイスだ立花!」

「最高の立ち上がりだ!」

「内側は相手の方が強い、積極的に外から打って俺達を楽にしてくれ」

「次あたりから田宮にボールを回せ、田宮にもマークがついたら立花と外から打ちまくれ、2人が打ったらゴール下の2人も自陣に戻って守備だ、相手にはうちの立花や田宮の様な決定力のあるシューターは居ない。守れば勝てるぞ」

「「「はい!」」」


 監督は相手には決定力のあるシューターは居ないと言ったがちゃんと居た。しかし俺との相性が最悪で、打っても叩き落とす事が出来るので決定力にはならなかった。

 俺が外から打ちまくると俺にマークが二人ついて田宮が楽になる。

 田宮が打ち出すと田宮にもマークが付くけど相手のゴール下が2名になる。

 築地と望月が抑えている間にポイントガードのキャプテンが入ってフックシュートを決めていく。

 俺と田宮の3Pの成功率は4割ぐらいだったけれど、俺達の守備の戻りが早いので相手のゴールの決定率も4割程度だった。

 そしてキャプテンのフックシュートは8割も成功する。

 キャプテンにもマークが付くと、今度は築地と望月が二人がかりでゴールを決める。俺のマークが1人になると、俺のシュートは5割近い成功率に上がってくる。


 田宮が疲労で外れたり、センターとパワーフォワードが1年のサブである渡辺と柚木に変わると相手に若干押され気味になった。けれどそれは僅かな差なのでフルスタメンになるとまた突き放せた。


 そうやって気がつくと第4クォーターに入った時には20点差がついていて、スタメン2サブ3で回せば点差がひっくり返らない状態を維持できた。

 最後は12点差まで追い上げられたけどそこでブザーが鳴って1回戦の突破となった。

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