第68話 脳内留学
俺の期末テストの結果は相変らずの学年20位前後で、ユイとオルカは相変らず赤点ギリギリでの全教科クリアだった。 全国展開している学習塾が主催のテストによって、この国の首都にある前世の東大に相当する大学の、地震研究所がある学類を志望した場合にB判定。 まだ現段階の同世代の中ではそれぐらいの順位に基づく予測なので、3年生までの学習範囲でついて行けなければ判定は下がっていく。 けれど今の部活と両立した状態でB判定でいるというのは、俺にとっては自信が付く結果だったので、一層の学習意欲が増す結果となってくれた。
終業式でウィンターカップの本選に進む男女のバスケ部の壮行会が行われて俺も壇上に上がり紹介をされた。
俺が水泳で高校総体や国体で入賞した事を表彰を受けた事に気が付いた人が不思議そうな顔をしていたけれど、周囲の事情を知る人からひそひそと耳打ちされて納得していた。
「行ってきます」
「行って来ます!」
「怪我しないようにね」
「いい結果期待してるぞ!」
「行ってらっしゃい」
お袋とオルカと義父に見送られ、俺とユイは学校に向かった。 学校から貸し切りバスで高速を乗り継ぎ、そのまま京都まで行くらしい。 通常60人乗りの大型バスを40人乗りでトイレ完備の仕様にしているバスを借りてくれたからだ。
地元から寄付金を寄せられた事と、観光バス会社が長身の人が多いという話を聞いてこのバスを提案してくれたそうで、寛いだまま会場近くのホテルに行く事が出来そうだ。
ちなみに京都では地元の観光会社が手配する通常の大型バスで移動するらしい。
貴重品の入った小さいリュックだけ手荷物にして、大き目のバッグは下の収納庫に入れてバスに乗り込んだ。左側が男子バスケ部で、右側が女子バスケ部という事が決められていた。 俺はユイと席を挟んで隣り合うように座るように調整して貰ったので、後ろの方の席にスミス、ユイ、通路、俺、田宮という並びで座った。
バスの中ではカラオケ大会になった。
ユイは大好きなNTホライズンの曲を熱唱して大うけしていた。 そりゃそうだ、ゲームのイメージアルバムの本人がうたっているみたいなものだからな。
俺もゲームで誰からも告白を受けない状態で3年を過ぎた時に流れる悲しい歌を頼んで歌った。 実際にゲームでの俺の声優の人が歌っているし、ユイと行くカラオケでも最も高い得点が出る歌だ。
歌い終わったら何故か4人の男達が泣いていた。 1人はユイに告白してフラレた望月で、1人は綾瀬に告白して撃沈した哀川で、残り2人はスミスに告白して撃沈した1年生の長身コンビの柚木と渡辺なので、失恋した男には心に来る歌なんだと分かった。
スミスが周囲からリクエストを受け、見事な英語で2人のカウボーイの掛け合いを題材にした歌をうたった。 あまりに発音がネイティブ過ぎて聞き取れない人が殆どだったと思う。 俺も歌詞カードを見て意味を理解したぐらいだ。
前世も日本の英語教育は世界で通用しないと言われていたけれど、今世でも同じらしい。 高校受験が終わったらきちんと英会話学習を取り入れた方が良いだろうと思った。
そういえば前世で聞くだけで英会話が上達するって教材があったな。もしあるのならやってみるのも良いかもな。
『私がやりましょうか?』
(・・・それも良い手かもな)
『今日から始めても良いですよ?』
(大学受験が終わったらかな、俺の脳では受験教育を覚える以外の余裕は無いからな)
『分かりました』
英会話学習はスミスの憑依体が手伝ってくれるらしい。
前世に駅前の留学をうたった英会話学校があったけど、これは脳内留学だな。
実はスミスの憑依体にお願いすればカンニングはし放題だし、学校教育も効率的に教えられると言われている。 でも俺は身の丈にあった人生を望んでいたので、それはズルだと思っている。
俺は高校卒業までが詰め込み学習の時間で、その後は社会人として生きる時間だと思っている。 社会に出れば身の回りの全てを使って勝負すべきと思う。 だけどそれまでは自分の努力の成果だけで生きなければ、大人になった時に、それは俺じゃなくなってしまうような気がしていた。
既に変な肉体の成長をしたり、摩訶不思議な存在に憑依されたりしているけれど、それでも線引きは必要だと思っている。
「お兄ちゃん次は何を歌おうか」
「何を歌っても良いけれど、マイクは独占しないようにな」
「はーい」
俺が2曲、ユイが5曲歌った所で、パーキングエリアで休憩となった。バスの中にトイレはあるけれど遠慮していて誰も使っておらず、パーキングエリアのトイレに走っていく人が多かった。
「関ケ原ってあの歴史の授業で習った合戦があった場所?」
「あぁ・・・右将軍である武田勝利と左将軍である毛利正輝の戦いだな」
この世界でも関ヶ原の合戦と言われるものはあるけれど、徳川と豊臣の天下分け目の戦いを表すものでは無く、戦国時代末期に起きた一つの合戦の一つでしか無い。 この世界の世界の歴史は、日本の平安末期あたりから若干流れが違う。 俺がいる恋愛シミュレーションゲームの後継作品で、のじゃ言葉を使う公家のお嬢様っぽいヒロインとか、刀剣を持つ侍っぽいヒロインとか、陰陽術っぽい忍術を使うヒロインとか、ドリルヘアーの欧州貴族令嬢っぽいヒロインとか、語尾がアルとなってるチャイナ服のヒロインとが、聖堂騎士団のヒロインが出てくる世界が成立出来るよう違う道を進んだ世界のようなのだ。
『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者ヒロインもいますよ』
迷走作と言われている5作目のような世界が成立するようスミス達みたいな存在もいる。
『創造神様達によってこの世界が作られた事は証明されています』
日本の歴史は最終的に徳川家康が1600年、現在の武蔵府に江戸幕府を開くという決着は同じだけど、公家の後援を大いに受けていたため、江戸時代に皇家や公家は貧乏と呼ばれる状態にはなっておらず、西の商業と催事を担う皇家や公家と、東の軍事と政治を担う将軍家や武家という感じで時代が進み黒船来航を迎える事になった。
ちなみにその時代に前世の日本と同じ様に鎖国政策をしていて、大英帝国と大清帝国の二国とだけ取引を行っているのがこの世界の江戸時代だ。
そこに大英帝国から独立し発展した米国が太平洋に目を付け、その中の比較的発展していた日本に開国を迫って来たというのが黒船来航だったりする。
こんな感じにこの世界は、俺が知る前世の歴史と若干違う経緯を歩んでいる。 けれど歴史上に起きた出来事のいくつかは同じ名前で呼ばれる。 黒船来航や関ヶ原の合戦なんかはその代表だ。 俺はそのせいで、歴史のテストの際は大いに混乱してしまってミスが増えてしまう傾向にあった。
「お兄ちゃん! あれが琵琶湖?」
「そうだと思うけど・・・もう外は暗くて良く分からないな・・・」
「ヒョウシキニ、ヒコネトアリマシタノデ、ビワコデアッテイルトオモイマス」
「ジェーンちゃんありがとうっ!」
「良く見えたな・・・」
前方が見える状態じゃなければ標識の文字など一瞬で過ぎ去るだろうに、さすがスミスってところだな。 でも彦根が琵琶湖畔の街なんて平均的なアメリカ人は知らないと思うぞ?
琵琶湖が見えたって事はもうすぐで京都だ。 ホテルに着いて翌日にはメインコートのある体育館で開会式があり、その後そこの会場で男子バスケ部は左コートの2試合目で第1回戦目を行う。 女子バスケ部はサブコート側で開会式をしてそこの中央コート第1試合目で第1回戦目を行う。
「風呂に入って柔軟しないとな」
「部屋に来てくれたらストレッチ手伝うよ?」
「さすがに女性二人の部屋に俺が行くのは不味いだろう・・・」
ユイの同室がスミスでもさすがにそれは不味いと思う。
『ワタシハカマイマセンガ』
そうは言っても、俺が部屋から出てしばらく帰って来なかったら、同室の田宮がどう思うか分からないしな。
『ザンネンデス』
スミスってたまにスミスの憑依体に対抗するような事を伝えて来る事あるんだよな。 何が楽しいんだか知らないけどさ。
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